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「ドライさん、これはどういうことですか?」
色街ダンジョンの隣にある冒険者ギルド支所の一人職員。暇だ、と漏らしつつも仕事は丁寧でしっかりしており、安心して対応を任せられるお姉さんだ。
「いや、手柄、あげる。俺、いらない」
「なぜ片言なんですか? 本部の空気がすごく変わりましたね。あそこの駄目マスターの管理とは思えません。で、何したんですか?」
知ってるくせに、俺の口から言わされた。まあ、おっさんをゴブリンソードで倒したことと、従者ギルドが真っ黒で今頃は領主館の前で暴露大会をしているということ。
「やっぱり欠けてる。奴隷の所有者が貴方でしょ! どう説明するんですか?」
「いや、冒険者ギルドの依頼かな?」
「はー。説得力に欠けますが、囮調査で思わず逮捕。そうゆう段取りにしますよ。書類作りますから、サインしてくださいね」
「あ、はい」
色々と依頼理由もでっち上げていく。実際にあった事例もあるので全てが嘘ではない。いや、結果的に嘘の内容が無くなったのだ。証拠があるから作れた依頼書である。サインしといた。
「依頼主が私とか……まあ、本部復帰を喜びましょうか」
「おー、今度からこっちに持ってこようか?」
「いえ、ただの褒賞金目当てなら支所でお願いします」
おおう。スパッとフラれた。
「でも、数日に一回はダンジョンの状況を教えて下さい。私からの連絡は支所に伝言を伝えますので」
「分かった」
「忙しくなるので引き上げてください。はい、本書はお返しします」
塩対応のようでメリハリがある。これくらいがいいよな。さて、装備を整えてあげないとな。俺も忙しい。
「帰るよー」
「「「はーい」」」
ふむ。今日はランジェリー談義が終わりそうにないな。
○ ○ ○
帰って行ったこと。装備分配。
「これ、やっぱり凄いわよ!」
「おっぱいが楽? ブラジャーって凄いわぁ♪」
二階は左右に五部屋の中央廊下だ。廊下もそこそこ広いので、部屋の扉を全室開いて無理矢理に一つの空間とする。そこで広げられるのはストックしていたランジェリーセット。
一人2セット。増えれば追加する。こっそりエフェロナに聞いたら、ナプキン付きのショーツもデザイン変更で出来たようなので、女性には6セットは用意してあげたい。ショーツ優先でもいいが、揃いでないと悲しそうなのでセットで。
初期メンバー……言い方が他人行儀だ。奥さん達……恥ずかしいが確定未来なのでそう呼ぼう。
奥さん達は白熱した論議の末に膨大な知識を蓄えている。更に、現状ではデザイン変更は、フィーリア、サロワナ、エフェロナ、この三名しかできないので、三部屋に別れて要望に答える。
ロザンナとミーディイも相談役で二部屋。残りの五部屋は17人が交互に相談しあったり、交換して試着したりしている。
一通りの流れを確認してたらフィーリアに睨まれたので、奥さん達の杖を回収して三階に逃げた。
○ ○ ○
「下が賑やかだ。おっさん、大丈夫かな?」
様子を見に来たおっさんが興奮で倒れた。二階の一室で寝てるはずだ。家主なので丁重にとお願いしておいたが、特別なサービスは不要とも言っている。おっさんなら見れただけでも幸せだろう。
さて、杖だ。形状は決めている。警棒。なんちゃって木剣。強度もあって撲殺可能。更に杖なので魔力補正がいい。オプションもMP消費軽減とMP回復補助と決めている。
今あるゴブリンこん棒のマジックスタッフは、奥さん達のも含めて21本もある。あれ? 足りない。俺は不要だ。もう一人、誰を削るか? サロワナしか居ないよな。ツーハンドソードで両手が塞がるからな。
奥さん達はアミュレットに変更したいんだよね。コボルトの片手杖がほしい。まあ、ゆっくり焦らずかな。
初期装備にしては、マジックスタッフにランジェリーセット、恵まれてるよね。装備しとけばダメージ軽減のランジェリーセットは、新人なら破格の性能だろう。欠点はダメージ受けすぎると下着が崩壊する。命があるだけマシだな。
「暇になったが、終わりそうにないな。デザイン変更にも素材が足りないから限度があるし、熟考だろうな。下がうるさいくらいだ」
ストックしていたランジェリーセットは様々なデザインがあった。色も染めてある。でも好みは十人十色。逆にデザインが豊富すぎて欲が出る。今、二階は戦場だな。
「おっさん、抜け出れるかな?」
女体の酒池肉林を無事に抜け出せるのを祈る。
○ ○ ○
「お開きだよー。転職行くよー」
「「「えー!」」」
うん。想定内。だから移動予定時間より早くに声をかけた。渋々ながら最終的な妥協案のランジェリーセットを身に付けて、私服……ああ、古着でも用意しないとな。
「事前に荷物は持てる物だけ持たせて越させてますよ」
帰らない前提で動かしてくれていたロザンナ。良かった。みんなもファンタジー街娘風な服に着替えてくれた。それでもアイテムボックスは二つしかないので私物に限度がある。買い物必要だな。
ん? 下が騒がしいな。
「おい! ここの客だってバレてんだよ!」
「宿じゃそこまで管理しとらんわ!」
ああ、色街の胴元の一人か。チンピラっぽいのも連れてる。移籍に関しての話し合いが必要だったな。一階のカウンターで罵声を吐く男のもとへ。
「なあ、俺に用か?」
「何が用だ! 女を返せ!」
「いや、俺の戦闘メイドに移籍したんだよ。冒険者ギルドで手続きしたから間違いはないぞ」
「んな事できるか! 従者ギルドの契約無視していいと思ってんのか!」
「はいこれ。従者ギルド登録抹消の証明証。負債は全て従者ギルドが負担するってよ。どうも不正してたっぽいよ。お互い災難だね」
まじまじと男が見る。破りたそうだが、この手の書類は公証契約されていると負担を全て背負うことになる。従者ギルドの印が正式なものだから男も破るに破れない。
「そういえば、冒険者ギルドで聞くといいよ。何でも、従者ギルドは本書を後から改竄できるようにしてたんだってよ。今日、全てを従者ギルドが負担するからって、全ての契約を破棄したってよ」
「…………はぁ?」
「従者ギルドに職員がいなくなったから、昨日の女は冒険者ギルドで正式に従者として登録したよ。今は俺の従者だ」
「破棄って!? そもそも契約自体が……」
「そうだよね。知ってるよね。契約が無いことに。そうなると従業員の利益を搾取していたお前は窃盗になるのかな? それとも詐欺になるのかな? なあ握手しようよ」
男が躊躇っているが、チンピラが前に出てきた。
「なあ、もう力ずくでいいだろ? 決闘にしちゃえば殺せるしよ。しなくても半殺しなら犯罪になんねえよ、なぁ!」
チンピラは計四人か。どいつもこいつも弱そうで困る。
「へー、決闘受けるよ。降参なしでね。四肢の全てを奪うか、死んだら負けね」
「おーおー強気だ、なっ!」
決闘に立ち会い不要か。いきなり剣を抜いて攻撃してきたな。どれ受けてみよう。
「呆気な……ぐふっ!」
「心技体」の『体の構え』。今日はまだ完全反射は消費してないよ。お気に入りのゴブリンソードを『妖刀刺し』で右足にプレゼント。反射ダメージと吸血で一人行動不能。
逃がす気もないので普通の投剣で残り三人の両足に刺す。「仲間が殺った」と言う安堵の瞬間に刺したので全くの無警戒。弱者をいたぶることだけで生活してたんだろうな。
足を怪我したら逃げ足なんて無いよね。じっくりと四人に四本ずつプレゼント。全て『妖刀刺し』で四肢の機能は沈黙させた。
「これ、持って帰る?」
棒立ちの男に問う。反応がないので、詐偽の奴隷に落としておく。
「おっさん。迷惑かけたな」
「いや、こいつらが居なくなれば場所代が浮いて助かるな。適度に一掃してくれ」
「そうだな。案内もいるし、トップと話し合いをしてくるか」
とまあ、騒ぎを起こせば二階の女性達も気にするよね。さて、先に転職ですよ。予定は崩しません。