006
翌朝、フィーリアが抱き付いていた。柔っこくて幸せで新事実も発見。ノーブラだ。触れたことないけど、これは確信だ! やべっ、理性が……。
「おはようございますぅ、ご主人様ぁ」
耳元で甘く囁かれる声が、崖っぷちの理性が後押ししてくる。だが、奴隷解放後にじゃないと俺が俺を許せない気がする。
「フィーリア、おはよう。で、離れて」
振り絞った蝋燭の炎のような理性で静かな声を発する。ほほを膨らませないの。処女ビッチ認定しちゃうぞ!
○ ○ ○
互いに出る準備をするが、主にフィーリアの私物だ。と言っても着替えが数着と女性特有の小物がポーチにある程度だ。身支度を整えてからアイテムボックスへと仕舞っていく、が。
「生着替え、ご馳走さまでした」
「その辺は素直ですね。見るのは大丈夫なのですか?」
「逆に冷静になれた。すごい綺麗でした」
「一線は越えないのにえっちですね」
さて、貧乏フィーリアの私物はアイテムボックス1つで収まった。俺の私物は赤い木刀一本だ。アイテムボックスは箱ではなく柔軟な袋のようで、長物である木刀はスペースに余裕があれば突っ込めた。
「ご主人様の着替えとか用意しないといけませんね」
「ご主人様呼びは固定?」
「煽ってます♪」
「笑顔で小悪魔だ。可愛いから許す」
本格的に金策だが、同時に二文字職のレベル上げも狙っていく。二文字職のレベルカンストは10。確認は冒険者証の裏に反映されるので分かりやすい。いや、ゲームの方が断然親切だけど、ここがリアルだと寝起きにダブルで訴えられたよ。
夢から覚めないし、夢のような弾力が抱き付いていた、からな。
○ ○ ○
露店1杯2ルークのスープで朝食を済ませ、朝イチで冒険者ギルドに足を運んだ。2点。
フィーリアの職業「奴隷」は冒険者していいのか。こっちはフィーリアからの情報で問題ないと知っているが、念のためだ。
俺に知識に職業「奴隷」のスキルは存在しない。スキルの有益性でダンジョンアタックも難易度が格段に変わるからな。そもそも、ゲームの時には奴隷制度はバックグラウンドにしか存在してなかったと思うぞ。
「おはようございます」
「はい。おはようございます。ご用件は?」
フィーリアの職業の変更を伝え、冒険者証も確認してもらった。職員さんが何かのリストを確認している。
「はい。領主様のお触れのリストに該当しておりました。フィーリアさんは普通の冒険者の待遇を保証します」
「奴隷って冒険者が出来ないのですか?」
「いえ、ダンジョンにも入れますが、基本的に所有者の装備として扱われます。なので、遭難時の救援要請や、極端な話であれば殺人にも適応されません。扱いは物なので」
結構な殺伐対応。フィーリアは保証されたが、他の奴隷はきっついな。酷使されそう……ん? 連れていくメリットがあるのか?
「二文字職業「奴隷」のスキルは『提供』と『犠牲』です。本来ならスキルは訓練所で学ぶ事柄ですが、奴隷のスキルは学べませんからね。簡単に説明します」
聞くに、スキル『提供』はMPの譲渡のようなものだろう。スキルの使用回数が回復すると言う内容なので、あながち間違いではないだろう。これはとても嬉しいスキル。フィーリアは支援を目指していたっぽいので、性に合ってるかも。
スキルの『犠牲』はダメージ転写。主人のダメージを肩代わりすると言う内容だった。これは常時発動らしく、奴隷も安い買い物ではないので富裕層向けな側面のあるスキルだ。だが瓦礫での圧死とか現状を打開できない場面なら奴隷の数だけ苦しんで死ぬ。意外に惨いスキル。
奴隷は主人専用のMP回復剤で、命の保険のようだな。
「フィーリアさんの境遇は同情してしまいますが、冒険者の奴隷であれば三文字職業が欲しいとも付け加えたいですね」
職業「奴隷」のステータス補正は低いらしい。連れていくにしても、三文字職業以上がある何かしらの付加価値があるのが理想のようだ。運搬系統の職での荷物持ちや、純粋にステータス補正で生存力を上げる。奴隷は弱いようだ。
お礼をして冒険者ギルドを後にする。
○ ○ ○
ダンジョンへと向かう道でフィーリアとお話。
「なあ、奴隷っぽくしなくてもいいぞ。後ろで控えて静かなの寂しいぞ」
「聞けば、奴隷とは首輪のようなもので世間へも分かり易くするそうですよ。首輪は必要ですね」
「おう。真っ向から意見が割れた。フィーリアは俺の奴隷で終わりたいの?」
「解放されるまでは自由な生活は難しいですよ。冤罪とあっても奴隷という職業は聞けば聞くほど不遇です。ましてや私は二文字職の奴隷のみでレベル1です。ご主人様に媚びて悪くないと思いますよ」
せめて三文字職業を手に入れないとフィーリアには庇護者必須。現状、俺に頼るしかないのか? 俺も二文字職がレベル1。甲斐性ないよな。
「親元に帰るとかは?」
「寒村の農家に居場所はありませんよ。冒険者になったのも口減らしの側面が大きいです。訓練所で貰える補助の支度金は貰えるだけ網羅しましたから、ご主人様に捨てられると売れるのはこの身体だけです。良いのですか?」
ダメ! 絶対にダメ! そんな崖っぷちから堕ちたフィーリアは見たくないし、俺が最後の一押しをするのは絶対に嫌だ。
「売れるものがこの身体だけ。ならばとご主人様に売ってるのです。売女と罵ってもいいですよ。生きるの必死です」
「負け。フィーリアは俺と冒険者する。でも、普通に接してっていうお願いは聞いてほしいな」
「欲の捌け口にしてもらえたら安心しますよ。奴隷の生娘は病気の心配がないので売りやすいですから。一回でいいのですよ。今までのご主人様の反応からして、一回では終わりそうにないですね♪」
うわ。信用されてない。手を出さないのは紳士じゃなくて、逆に商品価値の保護に見られてる。
「ご主人様、すみません。少々いじめました。ご主人様にはそういう選択肢があって、私が巻き込んだのですから、私の正しい使い方も伝えたかっただけです」
「フィーリアには俺との明日とも知れぬ生活と、裕福な買い手に貰われるのはどっちが幸せだろうか?」
「む。最初から伝えてるじゃないですか。ご主人様に尽くしますよ。巻き込んだ上にお荷物なんですから。少々乱暴に扱われようが、私の人生はこの程度だったと思うだけです」
はあ、ゲームには人生設計の必要性は無かったのに、こっちに来てから2日目にして2人分の生計を考えないといけない労働者になってしまった。
そうこう言ってる内にダンジョン前へ。
「目標はモンスターが6匹以上ですね。90ルーク程度が最低限の宿賃と食費です。素材が売れるモンスターはダンジョンでは人気なので奪い合いでしょう。元々素材も安いのでゴブリンで数こなすのが無難です」
「分かった。今日の寝床のために頑張るか」
「頑張って下さい、私のご主人様♪」
どんどんプッシュしてくるフィーリアに若干戸惑うが、実際、6匹なんてゲームでは余裕だ。
頑張るか。