057
エフェロナは特別な祝いは不要と辞退した。まだ、エフェロナ以外は生理が戻っていない。俺らは身を清めて戻れば、女性部屋から静かに泣くみんなの声が聞こえた。
フィーリアと一緒に静かに離れる。
「私は身体が女の子から女になっても特別な思いはありませんでした。その当時は生きるのにも必死でしたし、下着を汚すだけの不快なものでした。でも、子供を作れないって聞いただけで苦しいです」
「俺もここまでを期待して動いてはいない。ロザンナから始まったが、ただ体を癒すために施した処置だ。心まで救えるとは考えていないさ」
「いいじゃないですか。とってもいい結果ですよ。ご主人様はすごい人です!」
ゲームの知識はとても頼りないが、これだけでも十分にお釣りが来る。
元々が俺を守るためだ。フィーリアという支えを失わないため。ひいては俺がこの世界で生きるためだ。目標なく動けるほど俺は人間として強くない。急に全てを失ったからな。盲目に進んでるだけだ。
まあ、意外に楽しんでるし、あっちでここまで大きな事は先の人生でも無いだろう。堅実に生きるが、手が伸びる範囲でやればいい。
「お待たせしました」
目が赤いが、顔は晴れやかだな。
「さて、飯にすっか」
「「「はい♪」」」
○ ○ ○
決行は明日の予定。特に問題点は無いのだが、顔合わせをすることにした。ロザンナ達が声をかけに回って集まったのは20から23の歳の女性17人。下にもバグ持ちは居るようだが、グループが違うので接点が薄いらしい。
夜の蝶の中で、バグ持ちの待遇は三段階。一段階は、14歳位からの新人組で、大体が軟禁っぽい待遇。教育という形で宛がわれた客の相手をするので、ロザンナ達との接点は今はない。
二段階目は熾烈な客引きの戦い。教育が済んで、生活の糧を夜の世界でしか得られない女が半独立という形で店の表に出る。これが20位までで、ここで脱落するものが多い。生き残っている夜の蝶は我が強いので、ロザンナは候補から外している。
三段階目は衰退期。適度に客は呼べるが若さが足りない。ここで大体が心が折れて惰性で夜の世界に残る。半独立は維持されているが、粗暴の悪い相手や金を持っていない客の相手をさせられ、ギリギリの生活を強いられる。二段階目での成功者は別ルートだが、バグ持ちに別ルートはほぼない。
この間に引き取られる者もいるが、一年と経たずに戻ってくる。バグ持ちは遊ばれて終わることが多いらしい。出戻りは顧客が居ないので自然と脱落しやすい。残ってもボロボロの生活だ。
ある意味で毒も牙も抜かれた三段階目の女性は外身は妖艶ながら、心は二文字職のレベル上限が来るまで恐怖で怯えている。この状態になれば洗脳のような教育も抜けて、外を見る視野を取り戻している。
俺への配慮もなされた人選であった。
「あー、今晩は俺が皆を買う。帰りに金を持たせるのでそれで対応してくれ。宿はオリバー亭だ」
店の従業員の目と耳があるので言葉を選んでいる……つもり。「こいつバカか?」みたいな視線であるので誤魔化せていると思う。宿のおっさんには貸し切りで2泊分を渡してる。
「食事は俺の奢りだ。好きなの注文しろ」
「「「ありがとうございます」」」
ここで若干騒がしくなるので、ロザンナと打ち合わせ。女の値段を聞く。変に小声だと怪しいので普通の会話で。警戒しすぎか?
「女を選ばないなら50ルーク、選ぶなら100ルークからです。宿賃は買い主の負担ですね。暗黙の値段に私達なら300ルーク払えば暴行可能です。治療費なんて貰えないので胴元が儲けるだけですけどね」
「ふむ。300ルークでいこう。17人も買うんだ。そんな目的であると思わせた方が納得するだろう」
「何させるんですか?」
「ご飯食べて、お湯で綺麗にしてもらって、セクシーランジェリーでも着て見せて貰おうか。その頃にはフィーリアが嫉妬で俺を奪っていくだろう」
「ふふっ。何とも優しい変態さんですね」
「むー。不愉快です! まあ、否定は出来ませんが」
この後、交互に夜の蝶が挨拶に来たので300ルークを握らせる。この額は新人冒険者の3日分の稼ぎらしい。この数を配れば驚くか。新人冒険者ってゴブリンですら日に7匹も狩れないのか?
「ご主人様の常識は非常識ですよ♪」
まあいい。良くないのがお財布事情。昨日の狩りが不発だったので余裕がない。流れを良くするための今回の出費も計算外。後からギルド本部でお金を回収しようかな。あればいいけど。
○ ○ ○
夜の蝶とは解散。あっちは夜間営業なので寝るらしい。こっちは昨日の問題がどうなったか確認。の前に色街支所に顔を出す。昨日の今日でどうなってるやら。まあ、ギルド支所って買い取りに寄る場所だから情報はあるだろうか?
「昨日は大変でしたよ! 帰り際に緊急会議。私が許さないとここのダンジョンには入っちゃ駄目になりました。仕事が増えましたよ!」
ダンジョンに入る前にギルドに立ち寄るのは冒険者の責任だが、ダンジョンの状況はギルドのお姉さんには伝えてある。ちゃんと対応してくれるだろう。
コボルトを狩れる実力があっても二層のゴブリンは危ない。密度は断然減ったが、転移先の広いホールで囲まれる。ゴブリンでも三文字職じゃないと危険。と、考えれば昨日の被害者は三文字職だったのだろうな。
「あとドライさんの買い取りはここでしますよ。金庫が潤いました」
暗に本部に来るなって言ってるな。まあ、今日も行くけどね。
「それでですね……」
現状のダンジョン状況を伝えた。このお姉さん、仕事できるな。聞きながらもちゃんと推奨水準も横に書き記してる。頭の回転も早い。ギルドマスターをすればいいのに。
ギルド本部に到着。入る前から分かる罵声が鬱陶しい。
「口が荒いぞ。決闘が続いてるんだから、ちゃんと仕事しろ」
偉そうなおっさんに釘を刺しておく。丁寧になったがうるさいのには変わりない。
適当なカウンターで進捗確認。あっちも構えていたようで話が早い。
先ずは「バグ職業に価値がある」の件だが、該当者には口外しない公証を契約して、負担はギルドマスター行きに集約。大体の目処がたったのでおっさんの私財を押さえるらしい。
次に被害者の方だが、街に遺族が居たのは4人だけ。遺品を渡して今回の件を伝えたらしい。昨晩は頑張ったようだ。残りだが、現在換金中で夕方にはすぐ捌ける古着や装備のお金が入るそうだ。夕方来よう。
職員チェンジ。「交渉人」の職員を呼ぶ。明日の朝に予約を入れておくためだ。明日の朝は死ぬ気で暇を作るとの言葉なので良いだろう。「公証人」にも伝えておくように言った。
なんやかんやで昼前か。「強癒」だし、ダンジョンに行くのもなぁ。
「なんだ? 時間できたなら私の番だな! 昼からでもイケるぞ!」
ギルドホールで美人が誘うな! 独り身の男が睨んでるぞ! まあ、夜は予定入れたし、誘いに乗るか。