056
早くダンジョンから出たが、決闘なんてしたから時間食った。さて、どう時間を潰そうか? いや、偉そうなおっさんが起きないと帰るの悔しいじゃん。ちゃんと起きて、冒険者に注意喚起をしてもらわないとな。
「ご主人様。職員さんが呼んでます」
もう起きた?
「失くなった冒険者の遺品はどうされますか?」
「一から説明」
聞けば、冒険者証には一日だけアイテムボックスを保存できるらしい。そして、アイテムボックスの中身は拾った者の物らしい。冒険者証だけは、この街に遺族がいれば死亡を通達する時に渡すそうだ。
「んー、換金しといて。遺族がいるなら渡していい。頼むよ」
「は、はい。分かりました!」
一応、念は押す。本部の職員は頼りない。支部のお姉さんの方がよっぽど頼りになる。
今日は少ないけど、褒賞金は貰おう。買い取りカウンターの列に並んだら列が割れた。そこまで怯えなくてもいいのに。
「はい。少ないけど、よろしく」
「少々、お待ちください!」
戦果は72匹の1080ルーク。寂し。
「今からどうする?」
「せめて、あのダンジョンに入るな! って言わせてぇよな」
「そうだよな。でも、時間も勿体ないし、神殿と飯、それからまた顔だして、起きてなかったら帰ろう。とりあえず、絶対言わせる。三日は叫び続けさせる」
「ご主人様って怒ると怖いですね」
「命を遊ぶ奴が嫌いなの。まだ怖い?」
「少しピリピリしてます」
「済まんな。少し我慢してくれ」
近くの転職神殿でみんなにも「強癒」になってもらう。その足で新規開拓の5ルーク定食。
「ここは当たりか?」
「この辺では当たりですね。量が売りの店が多いですが、ここは味で勝負している感じです」
大皿三つ追加した。俺がやけ食いしたかったらしい。みんなの遠慮が痛いがまだ昂ってる。八つ当たりっぽくって情けない。
「でも好きですよ。他人の死を悲しんでるのでしょう。優しいです」
「そうなのかな? 今は感情がごっちゃで分からん。暴走したら止めてくれよ」
「手遅れ。ギルドマスターを、半殺し。止めようがない」
「う゛っ!」
許せん部分はあるんだ。あのおっさんは、自分の軽率な行動で冒険者を殺した。あと、バグ持ちであっても固定概念で否定した。トップにあるまじき固くて保守的で自己中な思考だ。他人の死よりも、自分の少額の借金を優先しやがった。
「ミーディイさん、煽らないでください! ご主人様が暗いところに落ちてってます」
「まあ、期待は薄いが、一応覗くか」
○ ○ ○
「ドライ様! あのバカは起きましたが、出てきません!」
職員の様付けは止めさせた。俺が偉いのではないし、お前らに尊敬されても悲しいだけだ。
医務室に入ったら、左足以外の四肢は青ざめたおっさんが半裸で寝てた。誰得? 俺に気づかず、怒鳴り散らしてる。何々、暗殺か。気を付けよう。
「そんなに敵対するなら受けてやるよ。決闘しよっか」
「ひぃ! 冗談だ!」
「お前、立場があるんだぞ。発言に責任持てよ。さて、謝罪だ。全てを撤回してもらって、色街のダンジョンに行くなら俺を倒せと三日叫べ」
「ふざけんなぁ!」
「決闘受諾だ。次は殺す」
大人しくなったので、ギルドのホールで演説させた。なお、決闘は開催中なので叫ぶのを……演説を止めたら止めを刺す予定だ。なお、審判はにやついてた職員だ。見事な手のひら返しなので呆れている。
「……だからだ! 五文字クラスの実力者以外は立ち入りを禁止する! 今日、34人死んだ、ひぃ! 俺が殺した! 俺の監督不行き届きだ! それと……」
定期的にゴブリンソードをちらつかせないと、自分の都合のいい様に言い回す。正直が一番だよ。二週位の演説を聞いたら、飽きた。なので、冒険者にゴブリンソードを持ってるやつは手に持っておけ、とお願いした。
直ぐに冒険者も要領を得て、おっさんを叫ばせ続けたので帰る。
○ ○ ○
「あ゛~、疲れた!」
一人、ベッドでぼやく。今日の俺は格好悪いので、フィーリアをお姉さん達に預けた。眠れば落ち着くだろう。
「「ご主人様♪」」
「フィーリアにエフェロナ? その格好は? いや、今日は不味いって! かなり乱暴になる!」
いわゆるセクシーランジェリー。そんな気分じゃないし、興奮したら優しくなんてできそうにない。
「私はですね。よくお客さんから捌け口にされていたんですよ。だから分かります。男は女を抱いて苦みを飲み込むんですよ。フィーリアちゃんは止めたのだけど……」
「私も一緒に苦しみますから、分けて下さい!」
「…………知らんぞ!」
初めて乱暴にしたと思う。俺の所有物。好き勝手した。始まったら歯止めが聞かなかった。それでもフィーリアとエフェロナは優しく笑ってくれた。それなのに汚し続けた。
○ ○ ○
翌朝、気分はいいもんじゃないが、どこか心の隅に落ち着いた。掘り起こせば心が荒れるだろうけど、どこかコントロールできる場所に落ち着いた気がする。だが。
「……どう詫びよう」
乱れに乱れた女性が二人。それでも寄り添って寝ている。いや、寝ていた。起きたようだ。考える時間はなかった。
「ふぁあ、ご主人様ぁ、おはようございますぅ」
「んぅ。あら、私としたことが寝過ごしたわ。若いって凄いわね」
「………………ごめん」
振り絞ってようやく出た言葉。
「ワイルドなご主人様も悪くないですよ♪ あそこまでされたら孕みますよね♪ 楽しみです♪」
フィーリアのとっても前向きな笑顔が眩しい。暗に気に病むなとも言っているのだろうか。
「フィーリアちゃんはいいわね。私は……えっ!? あれ?」
「「あっ」」
布団に鈍色の血が。そんなにも乱暴に……
「……嬉しい! ねえ、ご主人様。勘違いしているけど、生理よ。娼婦になってから訪れていない生理があったのよ。私、女に戻れたのね……あっ、ごめんなさい。これは、嬉し涙よ。ご主人様、ありがとうございます」
「と言うことは、エフェロナさんは子供を作れるの?」
「まだ分からないわ。あの避妊薬は強いと聞いてるの。実際に生理なんて存在を忘れるくらいによ。でも、そうね、期待して良いのかしら?」
あぁ、俺との子か。涙で濡れる瞳には色々な感情が見えるけど、決して暗いものではない。
「責任はとるつもりだ。立場的に妾って言ったが、存外に扱う気はないよ。えっと、おめでとう?」
「そうね。ありがとうございます。今日が女として生き返った記念日ね。でも、ごめんなさい。下着も寝具を汚したわ」
「俺がその程度を気にするとでも?」
「エフェロナさん、おめでとうございます。次に生理が止まったら、もっとおめでとうございます、ですね♪」
フィーリアが純粋に歓迎した。嫉妬はするけど、ちゃんと身内として見ている面が見れてホッとする。仲間で、家族だ、って。
「ありがとうございます。うん。そうよね。私、本当に女になったわ。あ、もうだめ。ご主人様……ありがとうぅ、うぅ、うぅぅ」
今回はフィーリアは責めない。俺の胸で泣くのは女の尊厳を取り戻した無垢な女性だ。抱きしめて泣き止むまで付き合った。
ああ、俺も救えているな。そして、俺の心も救われる。
気が付いたら、心が澄んでいることに気がつけた朝となった。