005
食堂を後にしたが、落ち着かない。
「どうしましたか?」
いや、フィーリアは我慢して俺に従っているだけだ。落ち着かない理由の1つは、腕に抱きつくフィーリアが柔くていい匂いなんだよ。石鹸とかの匂いじゃないんだけど、うん、刺激される。
もう1つ落ち着かない理由がある。ねちっこい視線だ。しかも複数。横目で見れば男性のグループだとは分かったから牽制も兼ねてフィーリアに近くに寄らせたのだが、腕に抱きつくとは……ループしそうなので割愛。
「数は昨日と同じ4人ですね」
耳元が幸せ。じゃない、確か転職神殿の前で出会ったときはフィーリア入れて4人だったから、男が1人増えている。こいつが1万ルーク硬貨を忍ばせた詐欺野郎だろうが、目の端に捉えるだけでは顔が分からん。
「動きそうですね。詰所に大分近づきましたから」
この状況で何をするのだろうか? 俺も勧誘するのか? 殺人はすぐバレるようだから、暴行? 人通りの多いここで? お、女性の兵士が。警邏かな?
「フィーリア、あの人まで走るよ」
「あっ、はい! ナイスなタイミングです!」
男達が行動に出るより早く女性兵士へと駆け寄る。
「自分はドライと申します。少々お時間よろしいでしょうか」
「ん? なんだ?」
「このフィーリアが預かった荷物なのですが、受け取らずに隠れていた彼等のせいで、窃盗の犯罪となりました。なお、フィーリアが自首したので自分が捕まえました。フィーリア、冒険者証を」
「ん。おい、そこの男ども、止まれ! おい! 取り押さえろ!」
「「「はっ!」」」
あれ? 女性兵士が1人だと思ったら、私服兵士が潜んでた? しかも結構な数、いや、おかしくね?
「確かに窃盗の奴隷に落ちているな。証拠の品は?」
「所有権が暫定的に自分になったので自分が。これをどうぞ」
アイテムボックス開いただけで私服兵士が動いた? この女性兵士は何者なんだよ!
「ふむ。この荷物袋の隙間に入れていたと?」
「えっ!? あ、はい。フィーリアの証言ではそう言っています」
何で手口知ってんの? もしかしてとっても有名な手口? フィーリアもビックリしてるけど、この娘、抜けてるからな。
なんやかんやと逃げようとしていたが、男グループは私服兵士が取り押さえている。
「『判定』虚偽を申すな! その者達、荷物を預け、受け取らずに隠れていた。それは事実か!」
男グループは逃げようと必死の弁明をするが、ここは職業が正確に答えを導き出す。何やら、私服兵士がカードを男グループに押し当てたら、あら不思議、職業が写し出されてる。
「「詐欺」か。ファースト家の長女、クリューナル・ファーストの名において拘束する!」
いいとこのお嬢様でしたか。何故に兵士の真似を? まあいい。男グループは必死にもがくが、奴隷となれば言動の自由を奪われるので、激痛の後に静かになった。にしても、フィーリアを見逃せば逃げれたんじゃね?
「ん? ああ、この所有物の足取りを追えば、いずれ辿り着く。1万ルーク硬貨なんぞ庶民は使わんよ。手に入れるのも難しいだろう。仮に1万ルークを持っていても、硬貨に両替すれば目立つ。そういうものだ」
「顔に出てましたか? フィーリア、どう?」
首を横に振る。奴隷から解放されていないようだ。
「お主の顔は正直だ。その職業は私は、いや、統治者の誰もが解放するのは困難だろう。せめての慰めだが、『判定』冤罪である!」
フィーリアの職業が「奴隷(窃盗・仮・ドライ)」から「奴隷(冤罪・ドライ)」となった。なんか、すっごいスキル使ってね? 偽証を防いだり、カッコ内だが職業に干渉してる。
「職業「統治者」のスキルだが、五文字の職業である「領地統治者」になったとしても、職業の奴隷は消えはしない。神の采配で決まるものだ。借金奴隷であれば労働の功績で解放されるが、犯罪奴隷の解放は私等にも理屈は分からんのだ」
「ありがとうございます。あの、自分はクリューナル様に無礼な行いをしていますでしょうか?」
妙に私服兵士が殺気立ってるんだよね。
「んー、立場を晒した以上、この距離は害意があれば危険な距離だな。一部には有名だが、私は影からこの街の治安を守りたいのだ。なので、気付かずに近寄ったので無礼ではないぞ」
フィーリアと一緒に数歩下がる。さっきまで荷物を手渡しできる距離だったからな。下がって私服兵士の間合いにどっぷり浸かる。そしてようやく殺気は消えたが、警戒はまだ濃いな。
「大きな悪の尻尾を掴んだからな。忙しくなる。ドライ、フィーリア、ご苦労であった」
飛び込んだ場所は嵐のような権力者だった。さて、ほぼ無一文でどうスッかな。
○ ○ ○
「えーっと、俺が命令というまで、フィーリアの言動の自由を許可する。なお主人への暴行も許可する」
「なんでまた極端な」
「だって、同室でベッド1つじゃん。嫌なら拒めるようにしないと、俺って暴走するよ」
フィーリアが今日の分までは前払いで宿賃を払っていたため今日の宿はある。が、素泊まり一泊40ルークが用意できず、この部屋は明日は使えない。所持金は2人で26ルーク。今日のゴブリンの残りを足して26ルークだ。フィーリア、崖っぷちじゃん!
「だから、私は床でいいです。奴隷ですよ」
「この問答は終わりがない。俺を床で寝かすの「却下です」……だろ。肉体的疲労は明日のダンジョンアタックに支障を来す。俺の精神疲労は置いておいて、一緒に寝る。フィーリアは襲われて嫌なら拒む。いいね」
「……へたれ?」
「立場を利用した乱暴は俺が嫌なの! 寝相で触れる位は許せよ」
フィーリアはブツブツ言っているが無視。出会って半日で主従になるとかあり得ね。そしてそんな半日程度で強権を振りかざす気にはなりません。美少女と添い寝で十分な極楽です。
寝たらログアウトするかな? そもそも寝れるk……zzz。
「ご主人様、おやすみなさい」






