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一層は練習にもならない。ゴブリンの群れでも三匹が限度だ。瞬殺されて跡形も残らず素材となる。
二層は練習した。今回の改善点は討伐優先。俺も前回は余裕が少ないのにサロワナとエフェロナにソロで戦わせた。正確には二人で進軍を食い止めていたのだが、あれは甘い判断だった。
今回はサロワナにロザンナ、エフェロナにミーディイ、このペアで戦わせる。これであれば『魔力弓』の援護もあり余裕ができるだろう。この連携を二層で練習する。質は劣るが数がいるのでゴブリンでも連携の練習にはなるだろう。
「助かる!」
「サロワナは視野が狭く感じるわ。仕留める事に集中しちゃうようね。ゴブリンでは上手くいくけど、コボルトは固いわよ」
「だな!」
サロワナの穴をロザンナは上手く埋める。援護射撃が適切だ。やはり戦い慣れないと隙があるな。
「ここじゃ、暇ね。でも、エフェロナは、守りに入りやすいわ」
「そうですね。どうしても殴られることに恐怖があるわ」
「私が、仕留める。無理に、攻勢に出なくて、いい」
エフェロナは数が来ると危ないか。攻めあぐねるから圧殺される。ミーディイが今回で気づいたお陰で火力不足は補える。こちらもいい具合だ。
「ご主人様、暇です」
「練習は本番で強く発揮されるんだ。支援のフィーリアはみんなの動きを覚えることが大切だな」
「はい! ポーション投げちゃいますよ!」
○ ○ ○
「『魔力増幅』! 『肉皮剥ぎ魔術』!」
お決まりになってきた初撃。状況が同じ方が良いので、三層には前回と同じ転移魔方陣を利用した。密度は減っていない。
「先に環境を整える! 俺が抑えておくから、回収だ!」
「「「はい!」」」
入口奥に『残虐創設』を設置。少しでも削って倒しやすくする。『肉皮剥ぎ魔術』の範囲外のコボルトが直ぐに入口からこちらに向かってくるが、二文字職スキルを駆使して直ぐに黙らせる。
「焦るなよ。こっちは大丈夫だ」
「すぐ行くって!」
サロワナはやはり戦うのは好きなようだな。視線をすごく感じる。
「サロワナ! 私も一緒なんだから、先走らない!」
「は、はい、姐さん!」
ペアはいい方向で働くな。組み合わせも良かった。補い合えるから昨日のような無理した戦いにはならないだろう。回収が後手に回ってもいい。お金は欲しいが、経験値も実戦経験もどっちも欲しい。将来的にフィールドに出るだろうから実戦経験の方が宝になるだろう。
みんなは早く友人を解放したいだろう。だから、焦っては不味い。余裕があってこその未来だ。助けて終わり、なんてことはない。最初は衰えた体を癒すこと。次は生活するための術を磨くこと。その間は支えてあげないとダメだ。
うん。これでいい。
「よし、みんな行こうぜ!」
「ご主人様、下がって」
「ああ、助かる。少し集中が切れてた。無理するな」
「「「はい!」」」
ロザンナとサロワナのペアは討伐が早いが、息が切れやすい。サロワナが先走るな。ロザンナが注意しないとポジションが前へズレる。昨日はそうやって多方向から狙われたのか。納得。
逆にミーディイとエフェロナのペアは堅実だ。双方に負担が少ない。ミーディイがちゃんと火力になるし、敵を抱えすぎないように調節してる。エフェロナも慎重になり過ぎてはいない。ちゃんと攻める。
フィーリアは戦線を見つつ、出来るだけの討伐証明と骨布を集めている。ふむ。これは三交代ではなく二交代の方がいいな。俺が留めている間に休息と回収をさせよう。そのくらいなら持つ。
「ミーディイ、一発撃て! 俺が前に出るから回収しろ!」
「分かった。『肉皮剥ぎ魔術』」
戦線を先程より数メートル前に張る。それだけで察して、散らばったコボルト武器を回収してくれる。この戦いの一番の負担はコボルトの死骸を後ろに投げ捨てることだな。なるべく回り込んでは後ろに吹き飛ばすが、そうすれば自ずと前に出る。戻るときの防戦が面倒だ。
進みながら倒せればいいが、コボルトの数がな。処理班が欲しくなる。パーティの枠が六人ってのが面白くないな。新しい仲間の育成が難しいや。ゲームだとなんかいいシステムあったかな? クランの上納分配か?
「なあ、クランって意味ある?」
「戦いに余裕がありますね。クランは集団でダンジョンに入る時に良いと聞きますよ」
「確か、パーティが纏められるとか」
「なので、上級ダンジョンなどで日帰りが不可能であったり、狩場に長期滞在するときに交代要員や世話係を連れていくそうですよ。世話係でも最低限の戦闘能力を求められます」
上納分配システムなし。しかし、パーティ拡張か。お誂え向きだな。しかし、最大人数無限、過剰じゃね? まあ、治療班や給仕も必要か。安全も確保するべきだし、命は一つか。
「たしか、それなりの金がいるんじゃね?」
「パーティ枠一つに、1000ルーク」
「微妙に高いな。目標額が上がったぞ」
「大丈夫です! 今日も儲けてます!」
確かに順調ではある。二交代制は『残虐創設』の張り替えで行うリズムも出来てきた。切れる時間は術者の俺に分かるからな。俺のソロは「心技体」のステータス底上げで体力と魔力に余裕ができている。
「交代だ!」
「「「はい!」」」
戦線を下げて、ホールの入口、通路を抜けて来たコボルトを広い場所で迎え討つ。これで4人で戦っても広さが確保できる。さすがに俺も疲れるのでこの間は回収が追い付かないな。フィーリア一人になるからなぁ。
連携はペアから四人へと移りつつある。どうしても重複する範囲があるからだ。ロザンナとミーディイがいい具合に指示して連携が出来つつあるな。
「これを一人とか、主人はパねえな」
「参考にしたいのですが、『剣姫の舞』のアシストがないと未熟な腕は補えませんね」
「普通職の技術アシストがないと独学になるよな。バグ職にはその辺のパッシブスキルがないから初心者向きではないよ。親切なのは「剣姫」位だけど効果時間が一連の動作だけだからな。経験を積むしかない」
普通職の「剣士」とかならパッシブスキルで対応したシステムアシストを受けれる。VRMMORPGをするやつの大半は喧嘩すらしたことない人達だ。どう動くべきか誘導するスキルが存在する。
が、バグ職にそんな考えはない。ゲーム玄人が好きに作った職だ。システムアシストなんぞ不要だよ。もうアシストなしで十分に動けるテクニックを覚えているからな。
「ん? ロザンナ! リセット!」
「はい! 『肉皮剥ぎ魔術』」
「一時撤退。二層でしっかり休む」
「コボルトが消えちゃうぞ!」
ちっ! サロワナが興奮しすぎだ。冷ます時間を稼ぐか。
「自分の動きが鈍ったのに気付け! ああ、もう、俺が引き付けとくから拾ったら二層に移動だぞ!」
「ありがてぇ。痛っ! 姐さん、何を!?」
「もう! 今回はご主人様が動いてしまったから回収するけど、サロワナ、あれが引き際よ! ご主人様の指示に従わないならサロワナの処遇検討をしてもらうわよ!」
「す、すみません」
「手を動かす! 拾って撤収するのよ!」
「「「はい!」」」
二層でこってりサロワナがみんなに叱られた。熱が入ると周りどころか自分の動きすら管理が疎かだな。その辺を含めて一時撤退を繰り返しつつ、なんとか無傷で今日の狩りは終えた。
サロワナが危なっかしい。それが今回の収穫だろう。取り零しより身の安全だよ。さて、お金貰おうかな。約束破ったけど褒賞金をくれるかな?