043
夕食中は当たり障りのない会話で終わった。人前では話せないのだろうか? だからと言って会話がランジェリーのデザインで盛り上がるのはどうなのだろう?
「あれは、ご主人様にお金があるとのアピールです」
庶民のランジェリーは野暮ったいトランクスタイプで紐で縛る。女性も似たようなものだ。ブラジャーはない。あってもさらしを巻く。この場合は過度に動く女性だけのようだ。
「俺に資金があると偽った理由は? もう4000ルーク程度しかないぞ」
「あの、返しましょうか? まだ手を付けてないですよ」
「いや、それも作戦なんだろ? 必要な資金だし、明日の昼はコボルト。褒賞金が貰えるからな。まあ、まだ狩れるかは微妙だがな」
モンスター溜まりですぐに撤退するようなら素材は無理だ。勿論、討伐証明すら剥ぎ取れない。
「そこは頑張るぜ! な!」
「はい。ご主人様のためにもコボルトは倒します」
「うん、頑張る。ロザンナ、続き」
「そうですね。先に領主様の動きについて話しましょう」
領主様に会ったのは10日前か。褒美くれよ!
「それが、とても慌てての王都行きだったようです。噂なので確証はないですが、多くの「交渉人」や「公証人」が動いたそうです。この動きは借金のある領主が延滞のために動く行為だそうです」
借金延滞の交渉と、それを確定する公証か。何人ものスキルで借金を借金で返す借金地獄の契約らしい。それがここで? んー、ここの領主様は貧乏だったか。褒美に期待できん。
「ご主人様。借金は揉み消せません。借金奴隷に強制転職です。借金奴隷の持ち主は犯罪奴隷と違って一番多くの財産を貸した者です。領主様は領主である地位という財産すら借金の形になりますよ。私財の全てが支払いに充てられます」
「それを何で調べたの?」
「ここの領地は裕福なのです。冒険者は散財しやすいのでお金が回るのです。褒賞金もある意味では領主様からの借金です。無期限の借金ですが結果的に借金で落ちた冒険者は領主様の奴隷になっています。まあ、領主様の収入の一部でしかありませんが、若い冒険者は高く売れますので、初心者の集まるこの街は景気がいいのです」
経済の循環の後に、初心者冒険者の収入源の褒賞金は、そのまま貸し与えた領主の借金順位を上げている。どこで借金奴隷になろうとも、この街で得た褒賞金以上の借金をしないと領主のものか。うわ、怖っ! 知らぬ間に借金させられてた。
「話が逸れましたね。ファースト領主様は借金に苦しむ立場ではないのです。それが急に金策に苦しんだのです。大体、8日前からでしょうか? お分かりですか? ご主人様に借金していると予想できます」
「マジで!?」
「真の装備。本来は作れません。それがご主人様の戦闘メイドは毎日朝晩に着替えがあるほど用意されています。この情報の根本をお話になったのでしょう?」
「あー、転職の手順は伝えたよ。だって領主様だよ。その前はその娘だよ。逆らえる状況じゃないじゃん!」
「貴族は潔癖です。ちゃんと報酬を払います。報酬以上を払ってその者の上に立つこともあります。ご主人様に正当な対価を保証したのでしょう。これが領主様の動きに推測を重ねた結論です」
大きな話だね。
「ご主人様が領主様になれるかもしれませんよ♪」
「そんな面倒な地位は売るよ。売ったら屋敷くらいは買えるんじゃない? 広い家に住まわせてあげたいね。皆に」
「楽しみです♪」
○ ○ ○
一休憩。俺が領主になったら何をしてほしいか論じられたので放置して聞いてたんだよね。エグいことや可愛い規模のことなんぞ夢物語は好きだねぇ。
「んんっ。失礼しました。私達の友人についてです」
「色街の裏役潰しはもういいの?」
「ええ、言うだけですよ」
目が本気だったよ。みんなもね。フィーリアまで感化されていたぞ。
「従者ギルドで問い合わせてみたら、所属の移籍は一律で1000ルークでした。私達の知る範囲では17人です」
「17000ルークか。遠いな……ん? コボルト1134匹か。意外にいけるんじゃね?」
「ご主人様? 大体の冒険者は日に一人20匹も倒せば大儲けです。パーティなら最大120匹。消耗もありますからご主人様みたいに全額が収入とはなりませんよ」
武器も防具も現地調達だな。性能もいい。しかも消耗なし。自分の魔力さえ回復すれば良いのだからな。店売りの装備は装備したくない。あれに命を預けるとか怖すぎる。
「ご主人様」
「「「よろしくお願いいたします!」」」
「ああ、想定を越えたが、無理ない方向でな。逆に焦るなよ! 命がないと金は意味無いからな」
「「「はい!」」」
「ご主人様は、また女を増やすのですか?」
「嫌か?」
「誠実なので信じますし、ご主人様の行いは救われる人が多いです。うん。第一婦人で我慢しますから、最初に子供が欲しいです!」
「元々がフィーリアの妊娠の可能性を考えての仲間探しだよ。数は多いけどブレてない。フィーリアを支えてくれる女性だよ。仲良くしような」
「私は悪い子です。まだ心が納得してないです」
「フィーリアちゃんの嫉妬は当たり前よ。好きな男は独占したいものよ。ご主人様がふしだらなら私達はもう抱かれているわ。フィーリアちゃん。最近ね、綺麗になったと思うのだけど意中の男性が振り向いてくれないのよ。フィーリアちゃんはどう思う?」
「しゃー! ロザンナさんの近くで今惚れる男はご主人様だけじゃないですかぁ! はっ! みんなも?」
「「「…………♡」」」
「出てけー! ご主人様から離れろー! ここからは私の時間だー!」
フィーリアが壊れた。ここでお開きのようだ。ロザンナが目で謝っているが謝っていないよな。収集つかないし。はいはい。そんなにがっつくな。俺は逃げないからな。
○ ○ ○
朝か。フィーリア荒れたなぁ。まだ、ぐっすりじゃん。フィーリアを置いて水浴び。あ、サロワナがいないとお湯がない。仕方がない。水で我慢するか。
いやな、ロザンナ達はもう出てたんだよ。夜の蝶は明け方が仕事終わりだ。朝食を奢るんだよ。そのまま店を貸しきって全員と合流。残った金で日用品の補充。足りてたら服を与えるかな?
「ご主人様ぁ!」
水浴びしてたらフィーリアが来た。
「ふー! ロザンナさん達は?」
「警戒すんな。友人に飯おごってるさ」
「じゃ、ご主人様と二人きり♪」
そそくさと服を脱いで、一緒に行水させられた。二回目は凍える!
その後はたわいもない話をしつつ、冒険者ギルドの本部へ。薬効ポーションの補充だ。本部の酒場で朝食を。微妙。たわいもない話は、将来は白い大きな庭付きの家に住みたいとかいう未来予想図だったのが年頃で可愛らしい。
必要量の安い治癒ポーションはあったが790ルークは痛い。命の保険である、安いと思おう。
フィーリアの妄想は次に来るコボルト素材についてだ。ちゃんと言葉を選んで、欲しい服を列挙していく。細かいところは正直に聞く。知らぬは一生の恥と言うし、逆に会話のネタになって弾んだ。ファッションの奥が深いのは分かった。
サクサクっと濃縮治癒ポーションは完成。俺が預かる。投擲治癒ポーションはフィーリアが持つ。そのままコボルトネタは続く。宿なので細かいことも言い合える。そう言えばコボルトは片手武器に丸盾を装備していたな。
どんな武具が作れるだろうと考えていたら、ロザンナ達が帰って来た。ちゃんと使いきったらしい。これでコボルトが狩れなかったら痛いぞ! その足で軽く昼食、転職と流れる。
「目的は3層だが、2層も気を付けろ。どのくらいの湧きか確認できていない。多ければいつものフォーメーション。少ないなら各個撃破。いくぞ」
「「「はい!」」」
ちょっと受かれているのを律して、ダンジョンへ。いやさ、新しい武器ってときめくじゃん。律する。平常。クールに。
よし行こう。