041
「はむちゅ~♡ ご主人様、朝ですよ♪」
柔らかい感触と少しの息苦しさで覚醒する。ああ、今はこっちが現実か。夢でゲームしてたや。二週間位の育成で三文字職の途中。フレンドに「育成おっそw 俺は五文字目前w」と叩かれるチャットだった。
「おはよう。フィーリアは今日も素敵だね」
「おだてても、昨晩の続きしかしませんよ♪ むちゅ~♡」
フィーリア達を無傷で育ててるんだ。ゲームのように命が無限には存在しない世界でゴブリンだけで上げてるんだよ。こんな素敵な女の子に無茶させたくないよ。
「ぷはっ。続きは素敵な提案だが、昼までに転職の候補を一つは決めないとね」
「ぶー。元気なのにー」
「生理現象! 水浴びするよ」
「はーい」
○ ○ ○
「「「おはようございます」」」
この宿の裏の庭の井戸は混浴だ。まあ、行水だしな。サッと終わらないと寒い。井戸水って凍えそうに冷たいんだよね。
「おはよう」
隠すことなく妖艶な美貌を骨布で磨いている。ハンカチサイズの骨布は小さいのだが、肌に優しいので使ってたりする。そのまま骨布は使用後でも材料にしたりしてるよ。小さい布なので背中を流すのは助け合い。
ピンって閃いた。
「サロワナ。剣貸して」
「まあ、主人の持ちもんだしな。どうぞ」
火属性の剣を水を入れた桶に少し浸けて熱してみる。暫くしたら湯気が出たので魔力を切る。湯加減は。
「温いけど凍えるよりいいな」
「「「ずるい!」」」
「各自お好みで。桶に突き刺すなよ。フィーリア、背中頼む」
「あっ、暖かくて気持ちいい。はい、失礼します」
フィーリアに背を流してもらいながら様子を見る。微調整が甘いな。熱湯になってるじゃん。流石にそんなのに手は突っ込んでいないからいいけど、冷水で薄め過ぎてまた暖めてる。
「ご主人様、お湯の替えです」
「ありがとう、エフェロナ。フィーリア、布もう何枚か出して」
「はい? どうぞ」
「背中向けて。拭くよ」
フィーリアの背にお湯で暖めた骨布を二枚張り付ける。一時してからその部分だけ拭く。この方が綺麗になるな。
「暖かいです。ご主人様ももう一度拭きましょう」
「それいい。ロザンナ、背中」
「あら、ありがとう」
この日からお湯で拭くようになった。リラックスも出来ていい。行水は何気に苦行だったからな。お湯は有料ではあるがお金の節約をしてるからね。
「はぁ~♪ 気持ちいいわ♪」
お風呂が欲しいな。
○ ○ ○
朝食後に宿に戻った。行水が湯浴み……じゃないけど湯で拭けるのでリラックスした表情のみんなが居る。
「主人! 「村正」より強い剣士あるか?」
早速、サロワナが突っ込んできた。
「「村正」の利点は武器が消耗しないし、吸血で武器を修復できることだ。今後、他の三文字職や上の四文字職で強いスキルがあるだろう。しかしそれ相応の武器への負担がある。「村正」はそんな状況でも戦闘中に武器への負担を修復する。いわば続けて戦うための職業だな」
「ん? 「村正」がないと剣がすぐ折れるってことか?」
「そこまで武器も弱くはないし、『肉飾り魔術』での補強や、普通の鍛冶師に修繕を頼む手もある。まあ、うちの剣は外に出すと騒ぎになりそうだな」
「私には武器の良し悪しは分かりませんが、これは最上級だとは自覚できるほどの物だとは思ってます。外部には見せない方が良いでしょう」
「よし! 「村正」強いし特だし「村正」にしよう!」
「私もこの剣を折りたくないので「村正」を希望します」
「私、ロザンナと、一緒にする」
話の途切れ目に合わせてミーディイが挟んでくる。
「あれは聞けば、燃費いい。でも、もっと良いのがあれば、鞍替えする」
「二文字職業にいい遠距離は少ないんだ。「術射」だって弓の縛りがあるのに威力は控え目だ。杖を装備するなら「杖術」なら楽だけど、他も似たように魔法が遠くまでは飛ばない。魔法は三文字からが本番だからな」
「「術師」に似たの、ないの?」
「二文字職は言うなれば基本で土台だ。それは普通の職業にあるから、バグ職にはない。バグ職なら基礎能力を高めるの方が良いかもな」
二文字職ってゲームでは基本は入門編だ。このゲームの魔法職とは大器晩成型。中級者向けである。操作に慣れてスキル連携にも慣れた頃に手を出すのが八百万運営側の考えだと思う。
「手順は多いけど、「強者」と「術師」のバグ職「強術」はスキルが一つだけなんだけど、『魔力増幅』という魔法使いに人気の強化スキルがある。これに「術射」の『溜め撃ち』で『魔力弓』を放てば威力はステータス次第で四文字職相当の威力にまで近付ける。『溜め撃ち』がなくとも『魔力増幅』で三文字職と同等くらいにはなるよ」
「『魔力増幅』、詳しく」
「簡単だよ。一定時間、魔力の消費は増えるが行使する魔法の威力が上がる強化スキルだ」
「あら、ゴブリンには不要だけど、コボルトには必要かもしれませんね」
「私も、思う。囲まれたときの、『肉皮剥ぎ魔術』、これにもいいね」
そうだな。討ち漏らしが少ないほど乱戦には好都合。過剰であっても元々がデバフ魔法だ。死なないが、復帰されないようにまで落ちしてくれると助かる。ゲームなら弱体化してもモンスターはピンピンしてるけどな。肉離れ強い。
「お姉さん達の方針は決まってきましたね。私です!」
「フィーリア、残念ながら二文字職の治療系は普通職に数個あるだけだ」
「えー! ならどうしましょう?」
「二文字職でも珍しい生産系に属する「調剤」と「治癒」のバグ職「剤治」というのがある。このスキルにポーションを重ねて上質なポーションへと昇華させる『品質向上』のスキルがある。これで皆に上質なポーションを持たせられると思うんだ」
「それって休みの間に作ればいいですよね?」
「もう一つのスキルに『強制治療』というポーションを投げ付けて味方に使えるスキルがある。付随効果で5割増の回復量になる。フィーリアがポーションを多く抱えておけば、誰かが戦闘中に傷付いても投げて回復させられる。どう?」
「それなら良いですね。そちらに就きましょう。もう一つは「村正」にします。サロワナさんとエフェロナさんの次の壁です」
あれー? 五人で完成してない? 前2中1後2。俺の居場所が無くないか? ハブられた?
「ご主人様は前の前に出るときが多いですよね? 私達が無事ならご主人様は十全に戦えると思います」
「確かに入口封鎖で今まで連携してないな。なら、遊撃ってことでいいか」
「私達に戻るけど、前の動きってどうやるんだ?」
悩ましい。俺のはソロが多いから、守る戦い方って苦手なんだよな。ソロ討伐なら指導できるけどな。
「サロワナ、「剣姫」にしましょう。『剣姫の舞』は勉強になります。このスキルに『正刀弾き』を混ぜましょう。練習の時に『骨下拵え術』を重ねたら、よい動きで撃てましたよ」
「「へー」」
「あら? ご主人様も知らなかったのですか?」
「俺の知識とズレがあってな。俺の知識では『剣姫の舞』に重ねるという発想はなかったんだよ。重ねる前提のスキルなら分かるけど、これは連携になるのか? 知らないことも多いな」
「ご主人様は知り過ぎです! 抜けがあっても全く問題ありません!」
「ありがとう。とりあえずの二文字職の方向は決まったな。昼も近くなってきたし、早速転職だ。その後は自由行動。いいか?」
「「「はい!」」」
転職第一段、行こうか。