039
「ミーディイ、撃って!」
「ロザンナ、了解。『肉皮剥ぎ魔術』」
「数が少ない! 各個撃破! そのまま回収に当たれ!」
「「「はい!」」」
密度が最初とかなり違う。ミーディイの『肉皮剥ぎ魔術』の範囲内で立っているゴブリンはいない。威力が敵の許容数を越えると減衰する魔法であるのに、しっかりと効果が出ている。
他四人は範囲外を仕留めていく。俺は出入口へと倒しながら進み、『残虐創設』を出入口通路とギリギリ射程に入った十字路交差点に設置。出入口前に陣取り増援を防ぐ。杖の範囲増加の効果が効いて十字路交差点に設置できた。
後ろは任せて大丈夫。ちゃんと考えてサロワナとエフェロナは剣で魔力を節約。フィーリアも杖を使い「村正」のスキルで仕留めている。ロザンナは射撃を止め、ミーディイと一緒に素材の回収に走っている。みんなもゴブリン相手になら接近戦も大丈夫になったな。
○ ○ ○
「主人。飛び込んで切ろうか?」
「三方から囲まれて痛い目みるぞ。弱っても最弱でもモンスターなんだ。それにサロワナはちょっと調子に乗ってるな」
「そうね。サロワナには躾が必要ね」
「ひぃ! 姐さん、勘弁だよ! 主人も止めてくれよ!」
「いや、本当に危ないからな。ギリギリの戦いなんて求めてないんだ。お金は欲しいけど、死んだら使えないからな。あと、怪我したら、当分働けないぞ」
「うっ!」
「サロワナの希望があれば尊重するが、俺とフィーリアの支えにならないなら考え直す。サロワナと俺の先の目標は重なってると思ってるんだが違うか? また、友達に飯奢ってやりたいだろ?」
「主人、すまねえ! こんなに楽に進むから天狗になってた。立場を弁えず、優しさに甘えていた。主人よ、厳しく躾てくれ」
いや、お姉さんを虐めると俺が調子に乗っちゃうよ。フィーリアの将来の支えであって欲しいだけで、所有物扱いは嫌。今ぐらいが丁度いいんだよ。
「……いい具合にやってくれ」
「甘い」
「そうね。私も甘えているけど、サロワナは一度しっかり怒るべきよ。ついでに私にも指導してほしいわ。ご主人様はご主人様らしくないもの」
「どうしたらご主人様なんだ? っと、警戒!」
「「「はい!」」」
「なら、罰を含めた作戦だ! 『残虐創設』が切れたら、サロワナ、正面に突っ込め。フィーリア、ロザンナ、エフェロナ、援護。ロザンナの判断で『肉皮剥ぎ魔術』。俺とミーディイは最後尾だ。ミーディイ、十字路中央で『肉皮剥ぎ魔術』。その後に俺が『残虐創設』を設置して塞ぐ。奥を制圧するぞ!」
「「「はい!」」」
「そんだけ援護があったら罰じゃねえな! よし、行くぜ!」
十字路交差点の『残虐創設』の効果が切れたと同時に駆け出す。サロワナが火の粉を散らせながら確実に仕留めつつ進む。サロワナの手の届かない場所は援護で打ち落としていく。
「ご主人様。使う!」
十字路中央、左右の通路からゴブリンは来る。まだゴブリンは多いか。許可の合図を出す。
「『肉皮剥ぎ魔術』」
前を追いかけて、入り口転移魔方陣の部屋と同等の広場が見えたところでロザンナが『肉皮剥ぎ魔術』を発動した。ちゃんと部屋中央まで進んで最大効果で発動。
俺も十字路交差点に『残虐創設』を再設置。後方からの挟み撃ちに警戒する。
「密度は多くない! 各個撃破。他の二ヶ所も制圧予定だ。魔力は節約しろ」
「「「はい!」」」
サロワナとエフェロナを見ておくと、うん、フィーリアにも剣がいるかな。残敵の掃討なら「骨服師」組が優位。『骨下拵え術』で弱らせて剣で止め。流れがいい。
役割が分かっているロザンナとミーディイは戦局に揺るぎが無いのを確認して早々に素材を集めている。効率のいい回収なんだよね。
「肉魔飾」組が肉と皮を削ぐ。血溜まりになるが「骨服師」組が後から骨布集め。おびただしい地面を彩る血溜まりは最後に「村正」で吸い上げてる。
吸血による強化はスローイングナイフは終わり、各自の武器へと移っている。真っ赤で光るスローイングナイフ、格好いいかも。
「広場の掃討と素材回収、終わりました」
「了解。さっき設置し直したから、それまでの通路の分も回収しよう」
「「「はい!」」」
○ ○ ○
右も左も同様の作りだった。2層は、四方に丸いドーム。それをつなぐ十字路。杖二刀流により高威力でも魔力消費が抑えられている。結果は。
「2層、制圧完了だ!」
「「「お疲れさまでした!」」」
「だいぶん、ダンジョンに吸われちゃいましたね」
「いや、元々は持ち帰る方がおかしい。生産系バグ職だから可能なんだ。それにロザンナのアイテムボックスが増えてて助かった」
「いっぱい拾いましたね」
「骨布はかさ張らないけど、こん棒にソードがな」
もう少し余裕はあるが、すべて拾うのは骨が折れた。過去最大の戦果を更新したが、こん棒は余るな。むしろソードが足りない。みんなには剥ぎ取り用に刃物を持たせたいが、兼用で武器としたい。まあ、希望を聞くか。
「さて、欲は出さずに帰るよ」
「確かに、囲まれると押し潰されますね」
「疲れた」
俺を含むロザンナとミーディイの範囲攻撃がない以上、予想される飽和状態の3層に行くのは自殺行為だ。
「最近は駆け足であったし、みんなが夜更かしするほどに自由時間を与えていなかった。明日の昼に行う二文字二重職の転職はするが、明後日の昼前まで休みにする」
「良いのですか?」
「今日だって休ませてもらったぞ」
「それも私達のせいですよね。明日も働きます!」
「いや、これは有効な二文字職に二つとも就くためだ。半端な状況ではコボルトに十分な対応ができないだろう。休みと言っても自分の戦闘スタイルをイメージするための考える時間だ。ロザンナのようにもっと適切なバグ職があるかもしれない。二文字職は弱いが手数が多いのは柔軟な戦闘ができる」
「そうね。「術射」は杖を小さくしたらとても相性が良かったわ」
「ロザンナ、真似は、いい?」
「いいわよ。私達には単体攻撃が無いもの。やっぱり、殴るのは性に合わないのよね」
「剣いいぞ、剣は! 第一、格好いい」
サロワナはガキか?
「物理攻撃は有効ですね。私も剣は推しますよ」
「ここで論じるな。休息と余暇と、そして対コボルト戦への役割を明確にするための休みだ。時間が余るだろうから、昼に宿で物作りはしてくれよ。さて、撤収」
「「「はい!」」」
転職がな一日のクールタイムが辛い。それを理由に休みを与えられたし結果はいいかもしれない。
さて、帰ろう。