038
起きたら珍しくフィーリアが居なかった。俺の衣服も乱れていないので隣かな? と、ノックをしても返事なし。女性の部屋へ無断で入るのは忍びないが、主人特権として安否確認はさせてもらう。
「なに……この……惨状は?」
ベッドに綺麗に散乱するランジェリー達。そして寝落ちしただろう女性達はベッドから転げ落ちている。ひー、ふー、みー、よー、いつ。うん、みんな居るな。
静かに退室。二度寝しよ。
○ ○ ○
「「「すみませんでした」」」
お天道様がしっかり顔を出してる。事情を聞けば簡単だ。デザインで混沌としてしまったらしい。徹夜の会議でようやく妥協点は見出だせたがそこで力尽きた、と。
「骨服師」のオプション設定は事細かにあるそうだ。組み合わせは無限大。色がベースの白とゴブリンの緑しかない。だが、清楚な白は突き詰めれば奥が深く、無限の可能性に一晩では足りなかったようだ。
早々に寝て良かった。
「休みも少ないし、労うのも主人の勤めだ。今日一日休むか」
「「「もっと欲しいです!」」」
モンスター蔓延るダンジョンがどこかのバーゲンセール会場になってる。女性のファッションへの熱意が恐ろしい。
「妥協点は朝食を食ってからしっかり寝ること。昼からなら許可するよ」
「「「むー」」」
「いやいや、街に買い物に行くんじゃないんだよ! 命のやり取り! そんな状況だったら背中の守りを任せられないよ!」
「「「……はい」」」
「ほら、食事に行くよ!」
どっちが大人なんだろうか?
○ ○ ○
朝食、二度寝、昼食、と流れて転職神殿だ。みんなは転職で、ロザンナだけが副業に就くのだな。二文字職業欄に空白が追加されていた。
サクッと転職。俺は「戦士」と「術師」のバグ職「戦術」、フィーリアとエフェロナは「村正」、ミーディイは「剣姫」、サロワナは「杖術」。これがレベル上限で二文字二重職だ。
ロザンナは「術射」の副業に就いた。先に考えを聞いておけば良かったな。二度手間だった。まあ、焦っても仕方がないし、経験したからこの結論なのだろう。
道中は緑をどう活かすかとか、コボルトは何色だとか、やはり白を突き詰めるべきだとか、議論が絶えない。ちなみに徹夜のハイテンションで暴走して、デザイン変更を41回の123枚も消費している。冷静になったら後悔していた。
○ ○ ○
ダンジョン1層、ロザンナと俺のスキルチェック。
「ご主人様、これは良いですね」
あっちの世界で警備の人が犯人を押さえるのに使う刺又にも見えるスリングショット型の杖。魔力で弦を張り、魔力弾を撃ち出すスキル『魔力弓』。弓なのに飛ぶのは弾だ。解せぬ。見事にスリングショットだな。
標準指定の魔法扱いらしく、狙いが少しブレてた程度なら変化球のように曲がって当たる。威力は二文字職の中では標準的であるが、もう一つのスキル『溜め撃ち』のパッシブスキルにより最大3倍まで威力増幅できるので弱点は少ない。
ディレイがない珍しいスキルだが、弦を引くモーションが必須なので慣れないと連打が無理。慣れれば絶え間なく撃てる玄人向けでもある。
「あれいいな。でも、真似は良くないよね」
「ミーディイ、今晩にでも希望を聞くから」
「分かった」
俺は「戦術」のスキル確認。『魔力薙ぎ』と『魔力落とし』。シンプルに横薙ぎで衝撃波を放つのと、撃ち下ろしで衝撃波を放つスキルだ。衝撃波は中心は強く3メートル程度は飛ぶが威力は減衰する。シンプルで使いやすいかも。ゲームとの変化が少ないので勝手が掴みやすい。
各々も他人では見たが、初めて使うので慣れに時間が多少かかった。
「なあ、主人。杖って短くなんないか? 片手には剣を持っておきたいんだよ」
「どうだったかな? 貸して」
「おう」
木の棒の方を渡してくる。サロワナは二刀流になりたいのか? 杖は一応は鈍器じゃないんだけどな。デザイン変更。
んー、短いのか。弱くて折れても嫌だな。実際は下着と一緒で耐久値全損で壊れると思うんだけどね。お、これも杖なのか?
警棒。
杖というよりは鈍器だな。スリングショットといい、マジックスタッフは何でもありなのか? 見た目は短い棒だがちゃんと丸い鍔がある。これなら木剣でいいんじゃね? 棒と付けないとアウトなのかな?
「これ、どう?」
「杖なのに木短剣? 嬉しいけど杖なのか?」
「警棒っていう、立派な棒で、棒は杖なんだよ。俺も知らん」
「あら、それいいわね。ご主人様、私も両手で戦いたいですわ」
「エフェロナもか。ほい。どうぞ」
「これで武器の切り替えの手間が減ります。ありがとうございました」
サロワナとエフェロナは剣に魅了されてきているのか? 作った武器だから使ってほしい。その前に前衛の動きの練習も必要かな。練習する場所が確保できないな。
「ご主人様。杖を二本で持つとどうなりますか?」
「俺の知識だと両方の効果が出るよ。さすがに何本も抱えてってのはダメだと思う。二本持ちたいの?」
「コボルトは強いですよね。威力も欲しいけど、魔力が無くなるのは美味しくないので」
フィーリアが次の素材を大量に求めている。しかし、両方を警棒にしたら区別がつかないよな。良いのがあるか? うーん、ワンドが一番手頃だな。定番の魔法使いの短い棒だ。音楽で使う指揮棒のサイズだが若干太くて軽く飾り彫りがある。握りもあるしこれだな。
「こっちの頼りない太さの方が威力を高める方だよ」
「きれいな彫りですね。大丈夫です。右手に警棒の方を持てば咄嗟の時は殴れます。ありがとうございます」
「ご主人様、私も、お願い」
「ミーディイも? 両手の装備は有効的だからいいか。はい」
フィーリアとミーディイが杖二刀流になった。ジーっとロザンナが見ている。どうしろと?
「ご主人様。その短い方をお願いします。それなら握ったままでも撃てますから」
「みんなが二刀流か。ロザンナ、出来たよ」
「はい。うん。撃てますし、威力も上がりました。欲を言えば私もお揃いが良いですね。一人だけ奇抜な杖です」
「大きさを調整できるかな? 貸して」
下着と同様に柔軟性はある筈だ。ふむふむ。やっぱりサイズ調整も可能か。そのまま縮尺を小さくして、うん、弦のないスリングショットでも見慣れたサイズになった。
「これでどう? みんなと一緒にしたいなら転職になっちゃうよ」
「今日はこの職で頑張ります。手頃なサイズで良いですね。威力も落ちていません」
ついでにサロワナとエフェロナの威力用の杖をロッドに変更。俺のもロッドに変更。誰もが二刀流になった。
こんなにのんびりと調整しているのは、今日の2層へのアタックで殲滅したいからだ。手応えとしてはかなり進めると思う。杖二刀流の実現は失念していたな。まあ、最近まで使い回していたからね。
「さて、行こうか」
「「「はい!」」」
目指せ2層攻略。