031
「この杖スゴいな! 思わず抱いて寝ちゃったよ!」
「体が楽になるのに、魔力は減りにくいの」
「もう、体は、動くよ。もっと、働ける」
出掛ける前に俺の部屋で打ち合わせ。特に必要はないが、装備関係は人の耳があるとヤバい内容になってきたので、その辺を重点的に話す。マジックスタッフを絶賛する三人。フィーリアとロザンナのも借りて寝たらしい。
フィーリアのはいつ回収したの? ノックアウトで寝てる間?
「でも、まだ魔力が減っているなら完治じゃないね。治らないと無茶はさせないよ」
「ご主人様。私の方はどう動きますか?」
「俺の下着が装備したまま『皮飾り魔術』できるなら強化お願い。無理なら『肉飾り魔術』でスローイングナイフの強化。余裕があるならゴブリンに『肉皮剥ぎ魔術』を積極的に使おう」
「分かったわ」
「フィーリアは『骨下拵え術』を優先して、余裕の分だけ『骨布変化術』。昨日と変わらないね」
「むふー。骨布集めますよ!」
「三人はぼちぼち完治かな? 「強癒」スキルでの魔力消費が無くなったらフィーリアとロザンナを参考にして戦闘訓練だ。特にロザンナとミーディイの範囲は2層の防衛の要だ。僕を中心に立ち位置を検討してくれ。「骨服師」組はその援護が優先だ。討ち漏らしを狙うイメージトレーニングをしてほしい」
「「「はい!」」」
「ご主人様の「残具創」は戦闘中にスキルを使ってませんね。勝手が悪いのですか?」
「僕の知識では、強敵に対して使うだろう武器破壊の『武具砕き』と、広範囲に継続ダメージを与える『残虐創設』だ。試すべきだな」
「杖、使いますか?」
「そうだな。魔力消費で考えるよ。片手が塞がるのは好ましくない。ああ、ランク下がってランスを作るってのも手か。材料が余ったら考えよう。よし、朝食を済ませたらダンジョンだ」
「「「はい!」」」
○ ○ ○
早速、『武具砕き』を試したが。
「ゴブリン相手だと過剰ですね」
「ひでぇ」
投擲に乗ったのでゴブリンへ。武器が壊れるかと思ったら、四肢が砕けた。首にはナイフが刺さり、手足は砕け、無惨な死骸へと変貌した。こん棒は何故か無事。こん棒に当てたらこん棒が砕けるのかな?
「ご主人様、ちょっと遠いです。近くへ」
「おう」
「『皮飾り魔術』。距離は短いですが出来ますね」
射程は1メートルくらいか。装備中でも強化は可能だった。よしよし。ついでにとロザンナはスローイングナイフを強化する。
フィーリアも射程を覚えたのか距離をおいて骨布を作る。手元に来るので、残った血溜まりに骨布は落ちない。吸血があればゴブリンを余すことなく使いきれるな。
「次は『残虐創設』か。みんな、距離を開けてくれ。無差別だと困る」
俺から距離を置く。10メートルもあれば大丈夫だろう。『残虐創設』を唱えるが、設置指定? みんなとは反対側に……飛んで火に入るゴブリンか。『残虐創設』。
「苦しんでますね。赤く光るエリアが効果範囲ですか?」
「そのようだな。歪だが大体が半径3メートルくらいか」
きれいな円ではない。ギザギザになっている。射程は10メートル程度でそこを中心に3メートル程度の継続ダメージを与えるエリアが発生するようだが、ゴブリンには刺激が強いのか範囲内から出れずに苦痛で地面にのたうっている。
「あ、死にましたね。では、素材を」
「待て!」
「えっ? いったぁー!」
「フィーリアは俺の話を聞いていなかったのか? 味方にも影響がある魔法はあるんだぞ! 攻撃魔法は無差別だろ!」
「いえ、聞いていたので突っ込みました。ちょっと手に傷ができましたね。手だけが範囲に入ったら、手だけに痛みが走りました。これで検証できましたね」
フィーリアの手の甲にはナイフで切られたような薄くとも痛々しい傷ができていた。無茶する。思わず抱きしめた。
「ひゃ!? ご主人様? そんなに心配ですか? 本来の奴隷の扱い方ですよ。それに「強癒」のスキルで、ほら、もう血が止まりましたよ。こっちも検証できましたね」
「……バカヤロウ」
「はい。ごめんなさい」
一応は謝るがフィーリアにはまるで反省の色がない。攻撃魔法は軽減されるがパーティメンバーにもダメージがある。ゲームの仕様であればHPバーが減っていくだけだが、こっちでは仲間に怪我させるということだ。フィーリアへの初ダメージが俺とか辛すぎる。
「おー、主人は純情か」
「そうよ。若いから気は多いけど一途よ。生暖かく見守るのがいいわ」
外野がうるさくて気恥ずかしくなる。フィーリアを解放したが、本人は若干不服そうにしてる。本当に反省の色がない。
「ご主人様、大体5分、ですよ」
「ああ、ありがとう」
ミーディイが気をきかせて話題を検証に戻してくれる。使い勝手の悪いスキルだと認識できたが、設置して置いておけば勝手に倒れるので2層では役に立つ。しかし、魔力消費が多いな。程ほどの練習で終わらせないと枯渇する。
「よし! どんどん狩るぞ!」
「ぶー、もう少しハグを……」
「フィーリアちゃん、こういう時に押すのはダメよ。ご主人様は照れて逃げようとしているのよ。ご主人様の気分よくさせる駆け引きを覚えましょうね」
「はーい」
俺だけギクシャクしてたが、みんなのフォローで安全に狩れた。ある意味ではいい練習になったと無理に納得させる。
戦果、こん棒126、ソード10、骨布124。途中で三人の体調は完治したので骨布集めが加速した。更に歩みも早くなったので少し討伐数が増えた。昼からは倒した全てが骨布に変換できそうだな。
ロザンナの「強癒」がレベル10の上限に達した。三文字職業のレベル上限は20。遠いな。要求される経験値がレベル毎に増えるから遠すぎる。ああ、そうだ。ロザンナに「村正」になってもらえば完璧だな。
昼食と転職、サクッと終わらせて、ダンジョンに戻るぞ。