003
「バグ職「村正」のもう1つのスキル『正刀弾き』を使ってやる」
ゴブリンは間合いと見るやこん棒を振り下ろそうとする。それに合わせてスキル『正刀弾き』を繰り出しこん棒にぶつける。不可解な強撃に、こん棒を弾かれゴブリンは尻餅をつく。
「なっ!」
普通なら両方の武器が耐久値を減らし、ゼロになれば砕けるゲーム仕様。それであれば最下級モンスターのゴブリンのこん棒と同列かそれ以下の木剣が砕けるのだが、『正刀弾き』はひと味違う。
MPを消費して不可視の膜を張る。それによる効果は耐久値の減少軽減と反動増加。後者の反動増加により自身の攻撃は攻撃を弾く時には通常時の攻撃力以上の反動を与える。
「これが『正刀弾き』。なっ。バグ職も強いだろ?」
「二文字職がこんなに強いなんて、って、起きて、来ます!」
痺れた手を振るい、こん棒が持てるようになったゴブリン。再び単純な振り下ろしで攻撃してきたので実験。八百万では出来なかった二文字職のみでのスキル複数使用。
「『正刀弾き』」
ガゴンッ!
「からの『妖刀刺し』」
ゴスンッ!
おお、出来た。今回は眉間に突きを打ち気絶を狙った。うまい具合に加減もできて仰向けにゴブリンは倒れ、泡を吹いている。
「とまあ、こんな感じで使えるバグ職だよ。止め、よろしく。ああ、『妖刀刺し』を心臓にめがけて刺すといいよ」
「えっ!? あ、はい!」
警戒しつつゴブリンに寄り、両手で剥ぎ取りナイフで止めを刺す。ちゃんと口で『妖刀刺し』と呟いていたので良いだろう。実際に傷口からは一滴も血は流れ出ない。
「なに、この、スキル。気味悪い」
「言うなよ。むしろ血を浴びる方が不愉快だって」
「確かにそうですね。あ、吸い終わった。体感で分かるものですね。それじゃ耳を削ぎます」
実際に今はスキルを各2回ずつ使った。出来てあと2~3回だろう。二文字職の低レベルはMPが少ないし、自然回復も遅い。燃費は悪くないスキルなのだが、最大MPが少ないのだ。MPってあるよね?
「えむぴー? は知りませんが、スキルを使いすぎると倦怠感に襲われますので、それが……あっ、お名前聞いてなかったです」
困った。さりげなく反らしていたが、気付いたか。この世界は知らないがVRMMORPGの八百万は中世ファンタジー。貴族も王様もいる世界だ。家名持ちは特権階級だろう。ゲームでも家名は無しだが、区切って家名っぽくも名前が付けれた。どーすっか?
「……ドライ……だ」
本名の三郎から、中二チックにドイツ語で。フィーリアも家名を名乗っていないので、自己紹介はファーストネームのみでいいだろう。この新キャラも3番目だしな。って、自分の容姿ってどうなってんだろ?
「はい。ドライさんですね。さっきのお答えで良かったですか?」
「参考になった。しばらくは一緒の行動でいいのか? スキルの上限回数が未知数だ一度ダンジョンを出よう。それともフィーリアがゴブリンを倒せば1~2匹は討伐が増えるかもな」
「うっ! まだ、前に立てないです。怖いので」
「では、撤収」
「はい」
○ ○ ○
「ここが冒険者ギルドになります」
この街(ファーストで合ってた)には、職業訓練所が多数あると同時に、ダンジョンも多数ある。規模でいうと5段階評価の最低の星1が7つと星2が1つ。街中に存在している。星2攻略は高レベル三文字職のパーティでギリギリ攻略可能だったと思うが、認識は更新し続けよう。
「そういえば、ゴブリンの耳はどこやった?」
買い取りカウンターに並びつつ聞いてみる。
「アイテムボックスですよ」
なんと、便利機能が身近な世界かよ!
「二文字職だと中樽2つですよ。片方空いていたので入れてます」
文字数で中樽(正確には30センチ四方の箱)の数が増えるそうだ。五文字の職業だと5つ。微妙に容量が少ないが仕方がないのだろう。
「運搬系統の職に就くと容量が増えるそうですが、その分だけ戦闘向けの職を削りますから」
やはり複数の職業を持つ点はゲームと同じか。短期目標は三文字職を狙う、以外に選択肢がないな。俺の知る常識がこの世界で通じるか怪しいからな。ダンジョンに入って稼ぐ。今はこれしか収入源が見えない。くぅ、ファーストキャラでこっち来てたら楽だったよなぁ。
「次の方」
「はい。ゴブリン2匹です」
耳と一緒にカードを出している? もしかして身分証?
「確かに。血もきれいに拭かれていて、こちらとしては嬉しいですね。褒賞金の30ルークになります」
「ありがとうございました」
買い取りの列から外れてカードを聞く。俺って身分証ないじゃん。危ない世界だったら人権ないじゃん!
「すぐそこの空いてるカウンターで発行できますよ」
身分証大事。どこまでの保険かは分からんが、ないよりある方がいい。さっそくたのもー!
「初回発行に10ルーク。再発行は50ルークです」
日本語OKな書類に名前と年齢を書いて提出。ん? 金いるの? この辺もゲームとは違うよなぁ。
「どうぞ」
「サンキュ。はい」
「確かに。ここに手をかざしてください」
タブレット端末? いや、素材は金属か? まあ、かざしてみる。特にエフェクトなし。光るかなーって構えてたらカードが渡された。
「何か?」
「いえ、失礼します」
あっさりした冒険者登録であった。カードには名前と年齢にランクがGとあった。ランク制とはゲームにない仕様だな。
「冒険者登録なしで、なんで転職できたんですか?」
フィーリアの問いに、まだまだ知らないことが多いと実感した。