023
ちょっと色街付近のダンジョン前、冒険者ギルド支所に寄り道。
「そうですね。ここだと3層目にコボルトは出ます。本部の中級ダンジョンであれば2層目から出ますよ」
「ありがとうございます」
先日、二文字職がレベル上限に達した。その時に買い取りで「ゴブリンの褒賞金はなくなります」と言われていたのだ。ダンジョンモンスターは一律で1匹15ルークの褒賞金。この褒賞金はダンジョンモンスターを減らすための税金投入だ。無限にはない。
そのため、強い冒険者は弱いモンスター乱獲の褒賞金詐欺を防ぐため、ある程度の基準がある。二文字職は無制限。三文字職はゴブリンの褒賞金なしだ。四文字職だとここならフィールドにでるか、中級ダンジョンの奥にいく必要がある。
これは、パーティに一人でも三文字職がいたらアウト。あと、買い取りで別の人に頼むと、犯罪の詐欺になるそうだ。ので、俺らはゴブリンの褒賞金は手に入らなくなった。
「それでもゴブリンなのですね」
ダンジョン入口でフィーリアが確認してくる。
「ゴブリンを狙うのは二点。ロザンナがレベルが低い上に俺らも三文字職業のレベル上げが必要なこと。もう一つは三文字職の生産能力でゴブリンがどの程度の価値のある素材か調べる。スキルに慣れるとも言う」
「足引っ張ってごめんなさい」
「いや、ロザンナの魔力枯渇が収まるまでは、職業レベル上げてステータス上昇しとかないと辛いだろ。支えてもらうための仲間に無理強いはしたくないよ。初期はレベルが上がりやすいからね。魔力もぐんと上がって脱力感が軽減されるんじゃないかな」
「ありがとうございます」
「ロザンナさん。ご主人様に任せとけば大丈夫ですよ。実際、私は戦ってないのにレベル10ですから」
「それはそれで良いのかしら?」
「とりあえず、人目のない場所まで潜るよ」
「「はい」」
○ ○ ○
「ゴブリンこん棒が32個にゴブリンソードが2本です」
「こんなに楽にレベル上がって良いのかしら?」
人目を気にするほど人はいないけど、ダンジョンの奥へと入った。良い具合に袋小路にモンスター溜まりがあったので討伐後に一旦足を止めた。討伐は『妖刀刺し』の吸血投擲で。2人には投げたゴブリンソードの回収とゴブリンの武器を拾ってもらった。
レベルも6に上がり、体感でも威力が上昇したとも感じた。ゴブリンの経験値は1だが、3人でもくり上がって各自1の経験値を得ることが出来た。順調だ。
「ロザンナ。大分、魔力消費の負担も減っただろう?」
「え、ええ。お陰様でゆっくり減ってる気がするわ」
ロザンナのパッシブスキル『治癒強化』と『異常回復強化』のMP消費は、魔力が枯渇するか完治しないと止まらない。なら、MP回復速度を上げれば良いだけだ。さすがに低レベルでは相殺しないが、体感で分かるほどには軽減したようだな。
ロザンナ、どこまで体を痛めているのだろうか?
「さて、皆には生産系のスキルがある。俺もだ。俺のはモンスターの武器を加工できる。試してみよう」
バグ職「残具創」のスキルの1つ『武具創り』。これは八百万での店売りできる金策アイテムの、装備ではない名前だけの武具を加工するスキルだ。どうしてゴブリンこん棒が店で無制限に買い取られるか謎だが、ゲームなのでその辺は突っ込まない方がいいか。脱線。
ゲームであれば、ゴブリンはゴブリンこん棒やゴブリンソードを落として消える。が、異世界じゃ全て残る。まあいい。なので余すことなく使ってやるべきだ。試しにゴブリンソードを加工してみる。
→スローイングナイフ 消費6
ロングソード 消費128
太刀 消費232
ほう。頭に浮かんだ。ナイフ以外の桁が違う。ちょうど良いから6本用意してスローイングナイフを選択。うにゅうにゅと混ざり合って一本の投げナイフが出来た。質量保存は無視の圧縮率。まあ、クナイにも見える形状だが西洋風な作りの先の尖った鋭いナイフだ。
「すごい!」
「綺麗な短剣ね」
「このように俺のスキルはこんな感じだ。次はフィーリア。ああ、ロザンナは今日はなしな」
「頑張れますよ。さすがに仕事が無さすぎて辛いですから」
「んー、少しだけな。なら、ロザンナに先にお願いしよう。この短剣を持って、多分だが、少しだけゴブリンの死骸に突き立ててくれ」
「はい。お預かりします」
「なら『肉飾り魔術』か『皮飾り魔術』を使ってみてくれ」
「はい。『皮飾り魔術』……ご主人様、こちらは防具でないと無理のようです」
そんな変化があったか。
「続けて『肉飾り魔術』。うくっ。魔力が……ご主人様はこれを懸念されていたのですね」
「まだロザンナのレベルは低い上に、常に魔力を消費している。仕事をさせないのでなくて、体を治すのが今の仕事だ」
「短剣に変化があるように見えませんね。ロザンナさん、休んで」
「ごめんなさい。少し座るわ」
ロザンナを座らせて投げナイフを受け取る。若干だが光沢が出たか? これも吸血のように徐々に変化するのだろうな。
「ゴブリンが干からびてますね」
「まあ、血が抜かれて、肉も削がれたんだ。皮と骨しか残ってないな」
見た目はミイラ。無駄に皮の鮮度が良いからキモい。
「次はフィーリアだ。キモいだろうがゴブリンに触れて『骨布変化術』だ」
「この程度は大丈夫ですよ。『骨布変化術』……ふぅ。結構な魔力が、ふぁあ、綺麗な布が湧いてきた」
シュールだな。ゴブリンの皮のみの上にハンカチサイズの布が3枚。ゴブリンを供養しているようだ。
「はいどうぞ。ロザンナさんもどうぞ」
皆で触ってみる。少し伸縮性があるな。手触りも悪くない。これで何が作れるだろうか?
「高級品の絹のようね」
「手触り最高です」
「フィーリア、『骨布服縫製術』を使う余裕はあるか?」
「大丈夫ですよ。『骨布服縫製術』……今の作れるものには枚数が足りません。最低でも20枚は必要です」
聞いた感じではこんなラインナップ。
→ボクサーパンツ 消費20
タンクトップ 消費58
ボクサーショーツ 消費26
スポーツブラ 消費71
まんま下着だな。生地としても肌に優しいだろうから良いかもしれない。ぶっちゃけ欲しい。自分で使いたい。男物の方な。
「パンツとショーツ以外の意味がわかりません」
「フィーリアちゃん、ブラはブラジャーの略称じゃない? あれは高級品のオーダーメイドだから出回らないわね」
ノーブラではなく、文化が追い付いていないだけか。ぽよぽよして幸せなのはこの世界平等だった。ん? 文明を越えたラインナップは大丈夫だろうか?
あ、ちなみにゴブリンこん棒の『武具創り』はこうだった。
→モーニングスター 消費69
ランス 消費84
マジックスタッフ 消費100
魔法使いの杖は欲しいね。鈍器にもなるからな。