022
朝、軽い息苦しさと不快でない重みと微かな声で目が覚めた。
「舌を使って、お口の中をマッサージするように蹂躙するのよ」
「ひゃい。はむちゅ~♪」
朝から指導は始まっていたか。さすがに意識があるときにして欲しいな。されるがまま。俺はまだ夢見心地で微睡んでるんだ。
「手はね、優しく撫でるように……」
「むふぅ~♪ んちゅ~♪」
あれ? 気持ちいい。ちょっと朝からは不味い気持ちが盛り上がってくるぞ。柔らかな重みと触られる刺激で……って、朝から止めい!
「ひゃ!? あ、ご主人様、おはようございます?」
「おう。もう少しで堕落するとこだった。俺を悪い主人にさせたいのか?」
「気持ちがいいでしょ。フィーリアちゃんのご奉仕よ。これをするとしないとでは、次の指名に関わっていたわね」
夜の蝶なテクニックはダメだろ。あれは依存させる手だ。金を運ぶ男を作る手だが、それには終わりがあるから次を求める、となるんだよ。俺の場合は料金不要の使い放題だ。ただただ堕落してしまうぞ。
「確かに。お金に困るのは困ります」
「そんなに余裕がないの?」
「行為の先に子宝が待ってるんだ。だからロザンナのようなフィーリアと同じ境遇の同列の仲間が欲しいんだよ」
「あら、失念してたわ。子供を作る行為だったわね」
ロザンナも微妙にズレてるのは、夜の蝶は避妊して子供が出来ないんだったからだな。ロザンナの顔色は……まだ薄暗くてよく分からんな。フィーリアは……見えなくても吐息が発情してる。が、無視。
「転職成功したらその足でダンジョンだから、朝の堕落禁止」
「火照った身体の行方は?」
「自己責任で」
「そんなぁ~、殺生な」
「もう何人か仲間が欲しいわね。ならご主人様が堕落しても私達が働けばよくなるわ」
その口振りからして宛がある?
「私が成功したら、それとなく同じ境遇の娘を誘えるわ。色街も客を取らない女は直ぐに切り捨てるわよ」
なるほど、切り捨てられるように動くのか。あっちが捨てたなら、遠慮なく俺が拾えば良いのだからな。やり過ぎると睨まれるが、落ち目の娘なら数人であればバレないか? 胴元の影響力が未知数なのが不安要素ではあるが、無理なく誘えるならパーティ人数上限の6人になるあと3人は仲間にしたい。
「さて、食事に転職だ。準備しよう」
「分かったわ」
「ふぇ~。一回、一回でいいですから、この疼きを治めて~」
○ ○ ○
「さて、フィーリアにはバグ職「骨服師」を、ロザンナにはバグ職「肉魔飾」へと転職をお願いする」
「ご主人様は何になるのですか?」
「希望はバグ職「残具創」だ」
フィーリアは「拳骨家」と「服飾師」と「術師」のバグ職「骨服師」。
ロザンナには「肉屋」と「魔術師」と「服飾師」のバグ職「肉魔飾」。
この2職は魔法という遠距離攻撃の手段が1つはある。正確にはゲームでは防御力ダウンのデバフだな。こっちでどう作用するかは分からないが、近接戦には不向きな2人だ。近接は慣れがいるからな。
俺は「残虐者」と「武具屋」と「創設者」のバグ職「残具創」。
先のバグ職には魔法があるが、こっちは距離が取れる戦闘用スキルがない。どれも生産職なんだが、一応はゲームの設定で戦闘に使えるスキルは用意されている。俺は転職を視野にいれているがな。
こっちはリアル異世界。ゲームのように飲まず食わずで、着替えも不要とはいかないからな。衣服と装備の調達に重点をおいたのが今回のコンセプトだ。
「私、行きます!」
「手順を教えよう」
フィーリアは。
「拳骨家」選択、【転職しますか? Yes/No】、No。
「服飾師」選択、【転職しますか? Yes/No】、No。
「術師」選択、【転職しますか? Yes/No】、No。
文字列、定義完了。
「拳骨家」選択、【転職しますか? Yes/No】、No。
「拳骨家」選択、【転職しますか? Yes/No】、No。
「骨」の文字、選択。
「服飾師」選択、【転職しますか? Yes/No】、No。
「服」の文字、選択。
「術師」選択、【転職しまスか? Yes/No】、No。
「術師」選択、【転職しますケ? Yes/No】、で「師」を選択しており文字化けしてるのでYes。
となる。ついでにロザンナの「肉魔飾」も伝えておいた。
「「回りくどい」」
「いや、確定目指すならこのくらいは我慢してよ。五文字職までいくと俺でも混乱しそうだよな。まあ、頑張れ。間違えたらキャンセルすればいいんだし、間違って転職したら明日すればいい。気楽にしてくれ」
「分かりました、行きます!」
フィーリアは眉間にシワを寄せて転職神殿に手を合わせる。地味に時間がかかるが、待つ。
手を合わすのをやめて、冒険者証の職業欄を確認している。そして、こちらにカードを突き出して胸を張る。
「出来ました!」
「おお。「骨服師」転職おめでと」
「おめでとう」
「ご主人様が意味ある職だと言わないとただのバグ職業ですよね」
「そうね。不親切よね」
まあ、八百万でも運営は定義だけして、公式には認めていないという不思議仕様だからな。仕方がないよな。
「次は私ね」
ロザンナは正座して祈る。魔力枯渇でフラフラしてるから、目を瞑って祈ったら倒れそうだよね。しばし時間を要したが祈りを解いた。
「バグ職業にしか見えないわね。ご主人様の希望である「肉魔飾」に転職しましたよ」
「おめでと」
「三文字職業おめでとう!」
二人でハグしてるのは微笑ましい。しかし、バグ持ちな二人だ。選択肢は常にバグってるらしいから手順を間違えなきゃ一発だよな。俺は?
……バグなし、失敗。キャンセル。
……バグなし、失敗。キャンセル。
……バグあり、成功。転職!
欄を見れば「残具創」となっている。よしよし。
「ご主人様はバグ体質弱めですか?」
「確かにフィーリアちゃんより長かったわね」
「おう。らしいな。3回目でようやくだ。まあ、狙ったのに転職出来たから大丈夫だよ」
朝も少し過ぎてやっと準備は整った。