表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/106

002

「……ねえ、本当にバグ職の「村正」は強いの?」


 ちょっと思考が追い付いていない俺に、反論の威勢はどこに消えたかという美少女が弱々しく声をかけてきた。


「あ、ああ。強いぞ。俺も村正になってるからちょっと試そうぜ」


 とりあえずの情報収集で現実の確認を一旦保留することにした。確かこのファーストの街には3階層程度の修練のダンジョンが存在している筈だ。インスタントダンジョンであるから邪魔は居ないだろう。


「ホントに! 私とパーティ組んでくれるの?」


「いいぜ! よろしく」


 固くない握手を交わしてパーティを結成する。ふむ。この辺はまだゲームだとも思えるが、女の子の手が柔らかくて、柔らかくて、柔らかくて……いや、触感があるのに驚く。童貞拗らせたソロプレイヤーだからじゃないぞ!



  ○  ○  ○



 初戦闘、初討伐、初めて生物を殺めた。ゲームとは違うと思っていたが、生の触感、肉を抉る感触が尋常じゃなくゲームを否定する。救いがあるとすれば、初期装備の木剣がバグ職「村正」のスキルによって血を啜るので血塗れにならないことだろう。


 血の臭いは微かにする。それだけで滅入りそうなのに、返り血を浴びたら気絶できる自信があるぞ。


「あっ、討伐証明!」


 と、美少女、改め、フィーリアは両耳を削ぐ。うわっ。っと、ここで疑問が2点できたのでフィーリアに聞く。


「ダンジョンに人がいる? 当たり前でしょ?」


 VRMMORPGの八百万ではダンジョンはパーティ貸し切りのインスタントダンジョン方式だった。ああ、フィールドは違うが、ダンジョンだとモンスターの奪い合いで殺伐するとの運営の方針によりインスタントダンジョン方式でなされていた。


「モンスターが消える? 確かにダンジョンは死骸を吸収するけど、30分は残ってるって聞くわよ」


 ゲームではすぐに消えて、ダンジョンのどこかでリポップする。討伐の際にドロップアイテムが自動収集される訳だが、ここでは違うようだ。低確率ドロップのレアアイテムとかの扱いはどうなってるのだろうか?


「……ねえ。パーティ分配はどうなの?」


 ん?


「私って少しお財布が不安なのよ。もう少し倒したいなって、ね」


「ゴブリン程度で金になるのか?」


 ゴブリン、最初級ダンジョンの一階に存在するようなモンスターであり、はっきり言ってゲームでは試し打ちの的だった。的にすら怪しいほどの弱さでもあったので俺が最初の敵に選んだのもある。先ずはそこを確認。


「ゴブリンも侮ったらダンジョンから出るほど増えるわよ。常時討伐依頼のモンスターね。まあ、この街のダンジョンは年に数件しか聞いたことはないし、ダンジョンから出ても兵士が片付けるわ」


 さらに突っついて聞けば、素材にならない部位を討伐証明として採取して冒険者ギルドに提出。大体のダンジョンモンスターなら褒賞金という微々たる金銭が貰えるようだ。


「そんなことも知らないで、今までどうしてたのよ?」


「ちょっと訳アリでな」


 濁すにも苦しいが、実際はゲームとこの世界のギャップでいっぱいいっぱいな上に、現実……元の世界に帰れるのかと不安で仕方がない。さりげなくゲームのログアウトを色々と試しているが、そもそもメニュー欄がない。


 職業システム等を盛り込んだような、異世界。


 こう断言するしかない気がしてきた。となると、この美少女フィーリアを逃がすわけにはいかない。少なくとも街を一人で歩ける程度の常識が欲しい。それまでは付き合ってもらいたいので、付き合うか。


「倒すのも問題ない。パーティ分配は折半。フィーリアも戦闘にできれば参加。こんな具合でどうだ?」


 ダンジョンから出ると言った発言からの真逆の提案への答え。このフィーリアさんは発言を勢いで言ってしまうようだな。そして言った後に反芻して撤回したりする常時ツンデレ発言なのだろう。


「そう。訳アリなら仕方がないわね。その提案でいいわ。バグ職の使い方を教えてよね」


 もう何度か戦闘をすることとなった。



  ○  ○  ○



「バグ職の「村正」は主に2つのスキルだ」


「二文字職がスキル2つ以上なのは当たり前よ!」


「フィーリアはどうも口が先に出るな。まあいい、簡単に説明すると攻撃と防御のバランスが良いのだが、二文字職が1つだとスキルをどっちかに選択しないといけないよなぁ」


「両方使えば?」


 噛み合わないのですり合わせ。


 ゲーム八百万では、職の数でセットでいるスキルに上限があった。計算式でいうとスキルがなら文字数の数だけ用意されている。五文字の職ならスキルは5つだ。しかし、セット出来るのは4つ。文字数から1つ引くのだ。なので使えないスキルが絶対に存在していた。セットし直せば使えるがな。


 こっちではその制限はない。スキルは覚えただけ使える。スキルの数は曖昧らしい。何故なら用途が違えば同じスキルでも結果は違う。バグ職「村正」の『妖刀刺し』の血を啜る効果は、肉の血抜きに使えば生活スキルに分類されるだろう。という曖昧な感じらしい。


 更に聞けば、このスキルも先人の知恵を受け継いでいるもので、見つけなければ無いのと一緒。他にも判定が曖昧であり、名称もスキルの発見者が命名するため地方によって呼び名が違ったりもする。


 確かに『妖刀刺し』は攻撃が掠めても血を啜る判定はある。この場合、捉え方の問題で、突きが外れたのか、刃で押して斬ったのか。後者の捉え方であれば斬撃にもスキルは乗る。奥が深くなったな。


「ちょっと! なに考え混んでるのよ! ゴブリンよ! ゴブリン!」


 リポップはするのかな? ゴブリン(同胞)の死骸を気にもせず短足で走ってくる。スキル検証の実験になってもらうか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ