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 誤解を解こう。


「なあ、フィーリア。俺と出会っていなくて、詐欺にも合っていない、そんなフィーリアの未来は何処だったと思う?」


「職業の恩恵のない者は、奴隷同等ですね。肉体労働で酷使される未来しかないと思います」


「ここはどんな仕事をしてる?」


「宿屋……な答えではないですね。色街。女性の身体を売る場所です」


「フィーリアの未来の可能性だった場所だ。正確にはバグ持ちでも仕事の可能性のある場所。女性限定だが肉体労働の仕事場だ」


「それと、私の嫉妬、関係があるのですか?」


「バグ持ちを仲間にする。フィーリアと、えっと、ヤっちゃっただろ。身重になったら支えがいるが、俺は生活費を稼がないと将来がない。この色街は自然と女性のバグ持ちが集まるだろう。それを引き入れたい」


 身体を売るにも年齢や体力、顧客の数。胴元が満足しない稼ぎなら捨てるだろう。魅力を高める二文字職は存在する。それに勝てない女性は高い確率でバグ持ち。これが俺の推理だ。


 まあ、三文字バグ転職が成功したら、勧誘を考えようと思ってた。


 あと、飛ばしたが、ゴブリン狩りに問題があるんだよね。そこは明日にでも冒険者ギルドで詳しく聞こうと思う。ミスリルのレイピアを片付けてから悩む予定だったしな。


「うー、怒れない」


「まあコクって数日で別の女性を、何て言われたら怒るのも無理もない。でも、孤立無援の俺らには仲間がいると思うんだ。支え合うチームを作りたいがバグ持ちに優しい人なんて少なそうだしな。いっそ、同じ境遇で固めたら良くないかなってこと」


「しかし、どうやって勧誘するんですか? 色街の裏には大きな組織があるでしょう。引き抜きは敵対しますよ」


「引き抜かないよ。酷な話だが、捨てられた女性を拾う。そうすれば敵に回さないだろう。そんな情報を持つ者を先に見つけたい」


「……抱くのですか?」


「いや、商売で抱かれていただろうが、好きでもない行為を強要する気はない。捨てられる女性がトラウマの一つや二つ抱えていてもおかしくはないからね。純粋に頼れる人手が欲しい。フィーリアを支えてくれる仲間がね」


「ご主人様、嬉しいです。でも、私は醜いです。ご主人様を独占したい欲求が滲み出て、私が私を嫌いになりそうです」


 この晩は柄にもない愛の囁きをして、フィーリアのご機嫌とりをした。その感情は醜いものではないと。俺を想ってくれて嬉しいと。一番はフィーリアだと。愛してると。


「うぅ。もぅ。いいですぅ。分かりましたからぁ」


 行為のない優しい夜を迎えたが、フィーリアの体が暖かくてそのまま抱きついて眠ってしまった。



  ○  ○  ○



 朝、機嫌を取り戻したフィーリアに口付けで起こされた。いい目覚めだ。フィーリアがもじもじと暗に要求してくるが、気づかない振りで起きる。


「うー、火照ってるのにぃ」


 可愛いので、もじもじフィーリアは落ち着くまで楽しむ予定だ。直接的なアプローチより刺激が強くて襲いそうだったが、明るいうちは動かないとな。三文字職業の訓練所とか回りたいし。


 今日のシーツ交換は不要というとおっさんは「不能になったか?」と冗談を言ってくる。領主襲来は問題無さそうに見えるので安心した。夜の蝶御用達の定食屋で朝食。


「あ、お姉さん」


「今日も仲いいわね」


 歳は20代中頃の色気の強い夜の蝶なお姉さん。相変わらずフィーリアの言葉にも迷惑がらずに聞いて答えてくれる優しい人だ。フィーリアは浮気しそうな俺のまだ居ぬ女性に嫉妬してる自分が嫌だと愚痴っている。


 一時の過ちは許して、自分に自身を持って駆け引きするべき。そんなアドバイスを与えているが、微妙に強さを感じない。何と言うか、燃え尽きる前の灯火の儚さを感じた。


「ふぅ。末永く仲良くしてね。()()()()()


 思わず夜の蝶なお姉さんの手を掴んだ。いつもは「またね」とヒラヒラっと舞って去っていくのに、今日はこのままどこかに消えそうだった気がした。


「どうしたの、坊や。彼女さんはこんなにも愛してくれているのに、おいたはダメよ」


「なら、明日もフィーリアの話を聞いてくれるのか? さようなら、って初めて聞いたぞ」


「あら、悪い子。女の子の話は聞いても聞いていない振りをしないと嫌われるわよ」


「聞いちまったら無視できない。誤魔化さずに言ってくれよ」


「……明日は来ないわ。その先も。彼女さんには悪いけど、ここに仕事が失くなったのよ。来る必要がないわ」


 掴んだ手が折れそうなほど細い。綺麗なバランスを越して、少し不健康にも感じる怪しさだ。そんな体で別の仕事とかあるのかよ! この人はもしかして俺の推理したバグ職の夜の蝶か?


「お姉さんに相談があります。フィーリアの為になることですので、お姉さんが考えるような「彼女の不幸」にはあたりません」


「口説いては……いないわね。いいわ。もう予約もないし、聞いてあげる」



  ○  ○  ○



 俺は単刀直入に色街のシステムを聞いた。


「二文字職がレベル上限で分岐よ。有能な三文字職なら残れるわ」


 経験値とは私生活や労働でも微々たる上昇があるようだ。戦闘を経験してなければ10年前後で二文字職がレベル上限に達する。そして職業が適応されるのは成人年齢の14歳から。


 バグ職は成人から酷使されて10年後に仕事を失うのが社会の流れになっている。バグ持ちは、女性なら色街や食堂の給仕が多く、男性は鉱山送りが多い。そして本来なら働き盛りの20代中頃で仕事を失うのだ。その頃には酷使した体が潰れていておかしくないそうだ。


 色街システムを聞いたつもりだったか、察したのかバグ持ちの社会状況を話してくれた。お姉さんは先日、三文字職の転職でバグって今朝首になった。元々が客が取れず仕事も減っていたのも要因である。最後にと、いつもの食堂で食事をしていたそうだ。


「簡単に言います。俺らの仲間になってください」


「結局は彼女さんのスペアね。お断りよ。これでもプライドはあるわ。お情けで住まうほど落ちぶれたくないわ」


「お姉さん! ご主人様の職業を見て考えて」


 フィーリアに勧められ冒険者証の裏を見せる。


「えっ? バグ職業でレベル10? こんな若いのに?」


「ご主人様のバグ職は領主様も認める有能性があります。先日、ここで直に評価をいただきました。ご主人様は有効なバグ職を知っています。諦めないで! あそこよりは危なくないわ!」


「あそこ?」


「スラム以下のバグ職村落です。ギリギリの自給自足のバグ持ちの助け合いで生活していますが、飢餓が頻繁にある上に、高額でしか外部との取引はないので物資はいつも枯渇。私の行き先のひとつでした。いえ終点ですね」


「領主様が妾の娘と逢い引きしたって噂があった宿だけど、坊やに会いに来ていたのね」


 領主様よ。変な噂が流れてるぞ。大丈夫か? 俺には全くの責任はないが、巻き込まれそうで嫌だなぁ。


「聞きましょう。領主様が絡む以上、口外は怖くてできないから安心して」


 この説得にフィーリアの仲間作りがかかっているな。

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