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「入れ」


 との声に執事が扉を開ける。こんな連れ込み宿では不要な無駄に洗練された所作だよ。開けられたら入るしかないな。


 フィーリアも戸惑っているが、一蓮托生。手を繋いで一緒に入る。フィーリアの微妙な抵抗が心境を語っているな。


「初めまして、ドライと申します。礼儀には疎いので無礼をお許しください」


 しっかりした体つきの高級感漂う服の男性と、その隣には残念な女性兵士……じゃなくて、ちゃんとドレス着てるクリューナル様。


「そうだな。奴隷を客として私の前に連れてくるのはお主が初めてだ」


「自分はフィーリアを奴隷と思っていません。仲間であり恋人です」


「冤罪とは聞いておる。許す」


「ありがとうございます。ヴィリューク様」


 執事が席を引くので、まあ座れってことだろう。貴族と対面で座るってどんな拷問だよ。あっちじゃ、知事と対面って感じか? いや、不敬で処される世界だからもっと重いよな。


 渋々席に座る。


「私も回りくどいのは性に合わん。先に見させてもらうぞ」


「はい。本日、完成しました」


 領主ヴィリューク様がミスリルの逸品を品定めしてる。お嬢様よ、指加えて見詰めるな。残念過ぎるぞ。あ、ヴィリューク様が立って軽く振ってる。うん? 意外に似た者父娘か?


「完璧だな。折れた形見がこうも生き返るとは」


「折れた? あ、失礼しました」


「聞いておるぞ。このレイピアが粗悪品だと」


「重ねて申し訳ありません。実際に違和感がありまして……」


 思わず言い訳してるが、どこまでの無礼が許されるんだ? 未だ繋いでるフィーリアの手が若干冷えてきてる? あれ、ヤバめ?


「いや、事実だ。先のゴブリンソードを私なりに分析しての今の結果だ。あの赤みのゴブリンソードの再生とも言うべき修復力に賭けたのだ」


 ヴィリューク様の語りを聞くに、先ずクリューナル様は妾の子で母親の死後に正式に養子として本家に入ったそうだ。正妻はクリューナル様の母親とは親友の間柄で軋轢や抵抗は無かったらしい。


 クリューナル様の母親は、妾とは言え本家に入るのを良しとせず、兵士として勤めていたそうだ。その任務中に幼いクリューナル様を残して戦死した。フィールドのモンスターの鎮圧任務だったらしい。結果、愛剣であったこのレイピアのみが形見となったらしい。


 しかし、折れた剣は死んだも同然。修復は試みたが見た目を繕う程度の武器としては欠陥品。丁重に飾られて終わるはずだった。が、俺のもたらした『妖刀刺し』の吸血(作用:耐久値回復の後、武具性能向上(上限有り))がヴィリューク様の念願である完全修復の可能性を見出だした。


「父上! 何故、母上の形見だと教えてくれなかったのですか!」


「これは武器だ。命を預け、相手と命のやり取りをするものだ。お前は必ず振るうだろう。亡き母へと近づくために。今までは一太刀も耐えれぬ武器としては……やはり欠陥品だな。どう言葉を飾ろうとも武器としては死んでいたのだ。そんなものに執着させたくはなかった。今まではな」


「なら!」


「そうだ。私は賭けに勝って、ようやく娘に母の形見を預けられる。これであれば娘に託せる。悔やまれるのは、あの時にこのような強き武器があれば、と感じることだろうか」


 重い! とっても重い話だ! 聞いていい話なのか? いや、持って帰って家でしろよ! 部外者を巻き込んでホームドラマすんな!


「ドライよ。この武器の性能を語れ」


 急に素に戻って振ってきたー!


「武器の基本性能より、吸血武器の効果を語ります。本来の2割程度の性能向上と赤みが薄れるまでの完全修復の効果が期待できます。実際には自分も検証の段階であり、知識からの引用と付け加え、自身の見識とさせていただきます」


「ふむ。ゴブリンソードを折って確認もしたが、確かにそのような結果に類似する。して、赤みが薄れた後はどうする?」


「バグ職業である「村正」の『妖刀刺し』による吸血にて赤みを取り戻します。なお、自分の知識では完全破損の武器の修復は不可能であると思っておりましたので推奨できません。定期的な吸血による現状を維持する考えが適切だと考えます」


「私は「村正」になれるのか!」


 おーっと、秘匿情報を直接聞いてくんな! こっちは弱者で答える意外の選択肢が無いんだぞ。手順を守れば可能なんて知れたら、バグ持ちの可能性をまた否定しちゃうじゃないか。


「クリューナル! これ以上は交渉だ。現状で「村正」の有望性が大きすぎるのだ。強権で奪ってはファースト家の名に傷がつくぞ!」


「す、すみません!」


「だがしかし、私も興味が尽きない。そちの言い値で情報を買う。欲しいものはバグ職業「村正」の利用法と、転職の方法だ。知っているのであろう」


 金? そんなの一時的な金額で世の中を揺らしたくはないな。ならば、フィーリアのような境遇への救済の方が俺が楽だ。


「バグ持ちの救済。これが条件です。「村正」は取りようによっては生産系の恩恵もあります。吸血装備は自分の知る限りでは世界の常識になり得る情報です。どうでしょうか?」


「そちの利益にならん報酬よの。その心はなんだ」


「自分の恋人が心を痛めるからです。フィーリアは、自分だけ救われたと楽観できるほど強くはありません。フィーリアには心から笑って欲しい。先の情報もフィーリアの身の保証で十分でしたから」


「民の救済ともなる。よかろう。ヴィリューク・ファーストの名においてバグ持ちと称される職業難民を誓おう」


「ありがとうございます」


「では、ここで話せ。ちとの屋敷では耳が多いのでな」


 それで、ここか。おっさんには迷惑かけるが、領主の力で何とかするだろ。さて、ゲームの知識がどこまで通用するかって確認も出来ずに話すが、良いのだろうか?


 首切られたら、どうしよう。

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