015
折角なので本部周辺の定食屋で5ルーク定食を昼食に。
「んー、ハズレ?」
「量が多いですけどね」
メインのおかずがマッシュポテト。細切れのベーコンが微かに入ってる。スライスのパンに乗せて食ったが、こっちのパンは固いので微妙。黙々とマッシュポテトを食う。パンはやっぱりスープに浸さないと顎が辛い。
腹も膨らみ、過ぎたが、まあいい。フィーリアもしっかりと歩けるようになったのでダンジョンアタックと、色街のダンジョンに戻ってきた。
○ ○ ○
「やっと1本完成。はい、フィーリア」
「あの切れ味に慣れると、普通のゴブリンソードでは手間がかかりますね」
「途中から適当に何本も投げてたから完成が遅れた」
ここのダンジョンは吸血が終わる前に次のゴブリンが来るので、適度にストックの短剣を回転させて使っていた。吸血は微妙に時間を取るのだ。血抜きが終わったらフィーリアが短剣を抜いて、耳を削ぎ、俺の元へ短剣を返却していた。
「ご主人様も投げるのが上手になりましたね」
「おう。あいつら低いから俺らを見上げるだろ。首が狙いやすいんだ」
「いえ、腕前の上昇を誉めたのですよ」
「慣れだよ。距離があっても突きの延長上に飛ぶから狙いを正確に、体の軸をブレないように振ればいいだけだ」
「(無視して良いのですか?)」
「(気にするな。気付いたら敗けだ)」
目の端には女性兵士が隠れている。時々ゴブリンに襲われているが、難なく倒すので放置。で、サービスに『妖刀刺し』投擲を見せているんだ。
「(本部あたりからですよね)」
「(あれで隠れてるつもりだから無視だって)」
残念な貴族令じょ……女性兵士は隠密には不向きなようだ。さらに周囲に微かな違和感があるのは本物の隠密だろう。どこにいるかはサッパリだが、微妙に気配を感じるんだよね。フィーリアは気づいていない様子。
「今日中にもう一本作れたら売り先探すか」
「そうですね。元々が金策の一貫ですからね」
「っと、あと少しで出来そうな色合いだ」
「どのくらいで売れるでしょうか?」
残念な女性兵士がガン見してる。俺らのヘッポコ演技にすら気づいていない様子。しかし、木刀が出せない。あれに目をつけられるとメイン武器を失う。今日は投擲のみでゴブリンを狩ってるよ。
「ご主人様。もう一杯です」
「俺も一杯だ。ちょうど赤いゴブリンソードも完成したし、褒賞金貰ってから帰るぞ」
「はい」
残念な女性兵士がダッシュで帰っていった。どこで出会うだろうか? 律儀な隠密が姿を表して一礼して去っていった。気付いてるのバレてたか。フィーリアはドッキリだったようで尻餅をついてる。
「あの人がフリーなわけ無いだろ。ほら」
「ありがとうございます。ご主人様は気付いてたのですか?」
「よいしょ。いる、とだけな。本職はスゴいな」
フィーリアを起こしてダンジョンの出口へ。ちゃんと宣言したので破ると怖いからギルドに向かう。
○ ○ ○
「今日も80匹ですね。褒賞金の1200ルークです」
「ありがとうございます」
「……あの、……えと、……ですね」
ふむ。残念な女性兵士がカウンターの奥からチラ見してる。ここで売れってことか?
「珍しいゴブリンソードがあるのでs「買い取ります!」……これです」
完成品3本目。赤いゴブリンソード。吸血上限まで吸わせた、見るものは気味悪がるだろう赤い短剣だ。
「ふぁあ、本当に赤い……いえ、何でも! これは珍しいので買い手を見つけ交渉します。手数料で2割いただきますが、宜しいでしょうか?」
「取り分が高くなるような交渉を期待します。どうぞ」
「え゛っ!?」
「では、頼みますね」
残念な女性兵士からオーラが漏れていたから撤収。ギルドの職員さんは悪くないけど、ちゃんと交渉はして欲しい。通常のゴブリンソードは50ルーク程度で売ってるぞ。さあ、売値が楽しみだ。
「ご主人様も意地悪ですね」
「ストーキングされてたからな。慰謝料も含む」
解放されたので、飯食って宿へ帰る。
○ ○ ○
「おう、坊主。客だ。あっしはこれで」
おっさんの逃げ足が洗練されてる? 残念な女性兵士は巻いた筈だが、初老の燕尾服の男性? 連れ込み宿には完全不釣り合いな人だ。
「クリューナルお嬢様より。貸与品を預かっております」
「あー、はい。貸与品?」
受け取ったのは実用向けであるが装飾も綺麗な細身の直剣。鞘まで綺麗だが金属であるため鈍器にもなりそうだ。
「破損には不問です。ですがとても汚れたら別の剣を用意するとのことです。剣士であらせられるドライ様は帯剣されてないのをお嬢様は心配されておりました。どうぞお使いください」
「ありがとうございます。破損には気を付けますが、どうしても血の色は残ります。手入れが未熟で申し訳ありません」
「いえいえ。鞘もミスリル製の逸品です。どのような扱いでも耐えれるでしょう。では、またお伺いします」
「クリューナル様に心からのお礼を」
「伝えておきます」
執事が去ったらおっさん復活。
「迷惑でしたら言って下さい。別を探す……あるのか? 別の宿」
「いやまあ、いいさ。ちーとお礼もらったしな。坊主も変なのに目ぇつけられたな。親と娘で剣のコレクターだってのは有名だ。何か細工を頼まれたんだろ?」
「まあ、そんな感じです」
「悪い領主じゃねえが、趣味のコレクションにはうるさくてな。まあ、上手に付き合うんだな」
「助言ありがとよ」
着替えを取って行水。もちろんフィーリアと一緒に。連れ込み宿は基本的に部屋で桶の水で清めるから出会うことはない。
「注文が鞘まで赤くするのですね」
「そうとしか聞き取れないよ。面倒な」
「どのくらいのゴブリンが必要でしょう」
「分からん。染まりきったのは体感でも色でも分かるから、それまでこれ使うか」
「ミスリルとは豪勢ですね。冒険者なら憧れの逸品ですよ」
「それがさ、帯剣すると目立つじゃん。アイテムボックスを占領するんだよ。困った」
フィーリアの1つは汚さないってことだから、収納量が極端に落ちる。木刀は隠したいし、短剣はいざって時の遠距離攻撃手段だから手放せない。
「支所も近いですし、朝2回、昼2回、それで良いのでは?」
「だな。そうスッか。あー、早く三文字職業になりてー」
そうなればアイテムボックス5つだ。荷物に余裕があって良い。ダンジョンの奥に行くにしても準備は必要だからな。
「では。心労の濃いご主人様を癒す時間ですよ。部屋戻りましょ」
「お、おう」
脱童貞の余裕か、優しくできた……と思う。