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013

「ただい……ま?」


「おう、坊主。客だぞ」


 そこには数人の兵士。使いって言ってたから一人だと勝手に思っていたが、まさかの展開。


「あっしはこれで失礼します」


「よい」


 おっさんが揉み手で逃げてった。ありゃ、正体知ってるな。


 クリューナル・ファースト。領主ファースト家の長女な貴族令嬢様が、以前と変わらず兵士の格好であっちから来た。さすがに俺もフィーリアも呆然とする。


「クリューナル様。部屋に異常はありません」


「そうか。ドライよ。部屋にいくぞ」


「…………あっ! はい!」



  ○  ○  ○



 俺らが借りてる隣の部屋。空き部屋が続いている無駄に広い部屋だ。クリューナル様が先行して入り、連れの兵士も入ってから俺らも入った。逃げる選択肢は無いからな。


「ドライ、座れ」


 テーブルに対面する形で椅子がある。向かいにはクリューナル様が座り、残りの椅子は1つ。指名だし、俺が座る……前に回りを見る。兵士は反応なし。


「失礼します」


 一礼して座る。側にフィーリアが立ち、囲うように兵士が立っている。妙な圧迫感が場を支配する。


「私は回りくどいことも嫌いだ。腰も軽い。だから来た」


「ご足労をお掛けして申し訳ございません」


「よい。話を進める」


 あの事件って終わったんじゃないの? 俺、関係なくね?


「司法では窃盗犯の所有物の権利は捕縛者にある」


「はい」


「その荷物の大半は無価値だが、一点、1万ルーク硬貨の権利についてだ」


 おー? それってその時点ではフィーリアの窃盗物だったから俺に半分権利があると? それって、あの詐欺グループの裏の人の物じゃないの? うーん、ややこしい。


「結論を申すと、ファースト家が逮捕の権利を買うことにした。捜査に支障が出ては困るので、この件に関しては5000ルークを支払い手打ちとしたい」


「質問を宜しいでしょうか? 状況によっては相談の必要がございます」


「聞こう」


「その権利は、フィーリアの所有権、要は逮捕した者が犯罪奴隷の所有権を得るという権利すら買い取るのでしょうか?」


「どうだ? ……ふむ。そうなってしまうな」


「フィーリアを手放したくはありません。奴隷の相場は知らないのですが、先の5000ルークで譲ってください。これが自分の妥協点です」


 フィーリアは手放さない! 大切にするのがこの世界での俺の生き甲斐になってるんだ!


「ちと待て。フィーリアの事は調べた。バグ持ちには奴隷の価値も低い。不要な荷物なのだ。若い女であるが、それだけの価値しかない。奴隷所有者は最低限の命の保証が義務だ。使い捨てなんぞ私が許さん」


「誤解しています。自分の命と同等の価値を見いだしています。社会が無価値と評そうとも、自分には千金の価値です。一生捨てることはあり得ません」


 フィーリア自体も大切なことに疑いようはない。そして、俺一人でこの世界を歩く自信はない。フィーリアの命と、俺の人生、二重の価値が存在しているのだ。


「ふむ。本気だな」


「本気です」


「では、フィーリアの価値を示せ」


 これはバグ職の価値を示せと取れるな。ゲームでは一般常識並みのあれしかないか。


「フィーリア、赤いゴブリンソードを」


「はい。兵士様、アイテムボックス開閉の許可をいただきたく存じます」


「……許可する」


 ほぼ無価値のゴブリンソード。初心者の剥ぎ取り用ナイフとしてしか価値はないだろう。それが、ここまで強化されているならどう評価する?


「こちらを、どうぞ」


 フィーリアは丁寧に柄の方を向けて兵士に差し出す。それを受け取った兵士はにわかに動揺する。


「おい。私に見せろ!」


「はっ!」


 ん? クリューナル様が異様に食いついた? 短剣を色々な角度から見て値踏みをしている。


「ほぅ♡」


「はぁ?」


 人目に出しちゃいけないほど蕩けてるぞ! 兵士止めとけ。もしくは俺らを退室させろ。目が夜のフィーリアみたいに怪しく光ってるぞ!


「ドライ、これは?」


「先ずは自分の冒険者証をご確認下さい」


「よい。見せよ。……「村正」? ドライもバグ職だったか」


「はい。職業「村人」と「正人」のバグ職です。この「村正」の職業にはスキルが存在します。『妖刀刺し』というスキルを使えば対象の血を傷口から吸い上げます。そのゴブリンソードにはゴブリン50匹ほどの血を吸わせました」


「それがフィーリアの価値か?」


「いえ、世のバグ持ちの可能性です」


「ふむ。私はフィーリアと添い遂げる覚悟を聞いたつもりだったが、大層な情報であるな。世の一部が狂うぞ」


 あれれー。間違えた? フィーリアとは……ああ、結構本気かも。でも、まだ、そんな時間経ってないし、もっと、仲を、深めて、から?


「そちら方面には女々しいのだな」


「ぐふっ!」


「この度の情報はファースト家が買い取る。支払いは奴隷フィーリア。この件は、先の取引成立と同時に施行する。意義はあるか」


「えっと?」


「簡単に言えば、ドライに5000ルークとフィーリアをやる。ファースト家は逮捕の権利とバグ職業「村正」の情報を得る。分かったか?」


「はい! お願いします!」


 よし、フィーリアを守ったぞ!


「ん? ……そうか。それは父上に叱られるな。ドライ」


「はい?」


「『判定』。このバグ職業「村正」の情報はファースト家に多大な影響が出るやもしれん。その時は余剰分を支払うこととする」


「わ、分かりました」


「では、引き上げ……これ、か? えっ、返すの? 嫌だ!」


 相当気に入ってる。


「クリューナル様にわざわざお越しいただいたので、せめてもの感謝の気持ちにそちらをどうぞ。ゴブリンソードなぞ差し上げる未熟な冒険者で申し訳ございません」


「ほら、ほら! んんっ。感謝は気持ちである。ありがたく受け取ろう。では、失礼する」


 嵐は去った。ちゃんと兵士が5000ルーク置いてった。あのお嬢様、微妙にスキップして帰ったよ。武器マニアか?


 まあ、俺にしては及第点じゃね? フィーリアは守ったぞ!

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