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011

「おはようございます」


「おう。その顔だと、まだ汚してないな」


「ぐっ。フィーリアは大切にしたいので」


「手を出すのも男ってやつだぞ。あっちはウェルカムじゃねえか」


「そうです! 今からでも!」


「貧乏に暇はないの! おやっさん、前払い3日分。そういえば、隣の部屋って客来ねえな」


「確かに180ルーク。まあな。ありゃ趣味だ。2階で十分な稼ぎがある。心配すんなって」


 確かに朝に出ていく客は多い。男に寄り添う夜の蝶が一緒に出ていくのを見る。しかし、夜の演舞の声は聞こえてこないから、泊まってる部屋の作りはしっかりしてるな。助かってる。


「シーツ替えとくか?」


「いえ、そこまで汚れてないので大丈夫……だよね?」


「はい。替えて貰う時は、赤い染みが付いたときで大丈夫です」


「あははっ。わかった。嬢ちゃん頑張れよ!」


「はい! 近いうちに♪」


 くっ! 逃げる。この攻防に勝ち目はない。


「あっ、ご主人様、待って」



  ○  ○  ○



 朝食がカウンターなのは、連れ込み宿の客が別れる前に食事を奢ってるからか。テーブル席の空きが少ないし、猥談が多くて自然と避けてたのか。


「ご主人様は不能ではないんです。でも押したら引かれて……」


 フィーリアは昨日の夜の蝶とまた話してる。夜の蝶も内気な客を興奮させる誘い方や、童貞の殺し方やらと、親身に教えないでほしい。あと、聞こえてる……夜の蝶の微笑み。わざと俺に聞かせているのか!


「がんばってね、お嬢ちゃん♪」


「むふー、はい♪」


 フィーリアは相談で精一杯で朝食手付かず。対する夜の蝶は綺麗に食べて去っていった。フィーリア、食ってくれー。



  ○  ○  ○



 朝も早くにダンジョンアタック。今日も冒険者はまばらだ。ここのダンジョンは不人気だな。女っ気はフィーリアしか見ていない。あと、マナーとして冒険者の戦闘には不干渉。すれ違うときも互いに壁際を歩いて無意味に近付かない。


「ゴブリンで4人パーティとか過剰じゃないか?」


「ご主人様が居れば過剰ですよ。普通の二文字職は一撃でゴブリンを仕留めません。無茶して怪我したら食い扶持が失くなりますよ」


 少しはチートっぽいことになってる俺。まあ、スタートダッシュができているだけだろう。


「お、真っ赤」


「すごい赤い。これがゴブリンソードですか?」


 剥ぎ取り用にしていたゴブリンソードが『妖刀刺し』の吸血の上限に達したようだ。50匹程度かな。光沢のある赤い片刃短剣。情報は少ないのが悔しいが、ゲームであれば性能が2割程度と色褪せるまでは耐久値が自動回復する筈だ。


「売るのはもう少し悩もう。フィーリアの武器として装備してくれ」


「あのー、私、戦ってないですよ? 不要ではないですか?」


「剥ぎ取りに使ってよ」


「勿体ない気がしますが、ご主人様の赤黒い……木刀でしたっけ、それが強いですから不要ですね」


「まあ木刀は使うけど、効率を上げよう」


「はぁ、十分にハイペースですが」


 ちょうど来るゴブリンに未使用のゴブリンソードを突きの構えで持つ。間合いが離れているが躊躇わず『妖刀刺し』で突き出し、その勢いのまま手放す。


「グギャ!」


 狙いが甘いが肩に深く刺さった。これでいい。


「あれ? 動きが鈍く、あ、倒れた」


「吸血が効いてるからな。ゴブリンなら首や心臓に刺して即死。ついでに血抜きも出来る。強敵であれば、血を奪って動きを鈍くさせる。『妖刀刺し』の応用だ」


 このゲームでの技術、出血のバッドステータス狙いの技である。強敵にはそこまでの被害はないが、少しでもステータスダウンを狙うなら初手によくやる裏技だ。


 こっちだとゴブリンなら即死が狙えるから、技術として精密投擲を覚えていきたい。ゲームだと刺さればオッケーで、精度は当てる程度しか鍛えてなかったからな。


「即死じゃなくても吸血で血を吸い付くしたな。最弱ゴブリンは最弱か」


「ご主人様、微妙にインチキっぽいですね」


「複数を相手するの時に、フィーリアを守れる技術は磨くさ」


「惚れ直します! 抱いて♪」


「またな。耳削いでくれ」


「ぶー」


 話している間にもう2匹、投げナイフの餌食になってんだよ。フィーリアの剥ぎ取りの方が遅れてるぞ。


「ナイフの通りがいいと剥ぐのも楽ですね」


 途中、俺のアイテムボックスにゴブリンの耳を移して、計80匹を倒してダンジョンを後にする。帰り際の数匹は剥ぐのは諦めた。街中で抱えて歩くには見た目がな。



  ○  ○  ○



「すごい量ですね。ソードマン以外はいましたか?」


 買い取りでゴブリンの耳を数えながら問われる。今日はゴブリンソードマンは5匹。投擲用を計8本確保している。


「いえ、見てないですね」


「数以外の異常なし。ありがとうございます。80匹討伐で褒賞金の1200ルークです」


「ありがとうございます」


 懐が1440ルークととっても潤った。


「あと、言付けが」


「知り合いは少ないので間違いでは?」


 寂しいかな、フィーリア以外に親しき者はいませんよ。ホント。


「えっと、領主ファースト家の長女であらせられるクリューナル様からですね」


 ああ、詐欺を裁いた人ね。特に呼び出される理由が分からないが、聞くだけ聞くか。


 要約すると、近いうちに詰所に来て兵士の案内で来い。って感じだった。用件は先の詐欺グループの事らしいが詳細は不明。


「フィーリア、どう思う?」


「ご主人様。貴族の出頭を断る平民はいませんよ」


 選択肢がないようだ。


「分かりました。今から行ってみます」


「はい。不安に思っているようなので1つ。罪人はこんな丁寧に呼ばれません。特に怪しいことはあり得ませんよ」


「少し安心しました。ありがとうございます」


 貴族と対面。まあその娘だが、貴族相当で間違いはない。不敬にならないようにしたいが、村人の古着しかないし、まあ、詰所で聞くか。



  ○  ○  ○



「冒険者のドライ、冤罪奴隷のフィーリア、確認した。クリューナル嬢様はお忙しいので、出頭はこちらの都合に合わせるよう」


「分かりました」


「定宿を確認しておく。どの区域の何の宿だ」


「色街手前の……えーっと「オリバー亭」そう、オリバー亭です」


「ふむ。今回はこちらからの要請につき、日時は使いを出し伝える。近い内に出頭要請があると考え、予定を空けておくように」


「ダンジョンに行くのも駄目でしょうか?」


「明日までは控えよ。命を落とされては敵わん。それまで生活費は持つか?」


「大丈夫です」


「ならば明日までに予定は伝えよう。行ってよし」


「失礼します」


 とまあ、暇ができた。万が一の怪我の可能性もあるし、素直に従うか。密かに燃えているフィーリアが怖い。今日の昼がフリー、明日も一日フリー。やること探さないと猛烈アピールが来そうだ。


「どうしましたか?」


 笑顔が怖いわー。

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