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「おっさん。薬師男衆を使ったのか?」
「いや、唆したんじゃ。親分のシマが荒らされるぞってな」
「正直に言え。共存共栄って事だろ」
「なんじゃ。言わんでもいいじゃないか」
このおっさんは。
「最近はの、街が荒れ気味じゃ。特に酒と女のある色街はの。冒険者の若造ですら大きな顔をするんじゃ。だからの、独立自治をしておるんじゃ。元は娼婦ギルドの仕事じゃたが、ありゃ達が悪い。その点、薬師男衆ときたら初じゃのう。ちょっと女に誉められただけでデレデレじゃ」
「あいつらを利用するだけなら断るぞ! 別に俺のシマって訳じゃねえ。そりゃ荒れるのは良くねえけど、俺以外の奴が使うのはおかしいだろ? 男衆も対価を断ってる状況だ。案を出せ」
「あの三階に女を呼ぼうかの。いい男が女を知らんのは損じゃ」
「治安維持の対価は女遊びか。溺れなきゃいいが」
「なに、多少なら金があるじゃろうに。自分の責任くらい自分で取らせろ。坊主は過保護でいけんの」
うーん。確かに成人だ。いい大人だ。働いた労賃は自分の好きにすればいい。そこまで面倒は見れんか。
「治安維持の対価は、その晩に働いた男衆の労働に釣り合う接待だ。場所は三階で、時間は仕事明けから昼まで。……寝る時間がないか」
「ご主人様。話を聞けば夜番は昼に仮眠を取って出勤しているそうです。娼婦も一晩中起きているわけではありません。客と一緒に寝ますよ。そこまで心配しないでいいと思いますよ」
「では、坊主の案を通しておこう。なに、悪い女は回さんよ」
「ああ、頼むぞ」
○ ○ ○
夕食後。
「「「黒よ~♪」」」
お土産を配る。ランジェリーセット一人五着。染まってないのもあるが、配った半分以上は黒色。ついでにソックスとグローブ……布製の手袋……も配布。靴下と手袋は四組ずつ。薬師男衆には一組ずつ。
「「「素敵♪」」」
カチューシャとバレッタは奥さん達が譲り、戦闘メイドに一人一つずつ配られた。基本はシルバーアクセサリー。特に変なデザインではないが気分で仲良く交換してほしい。
戦闘メイドは「戦利品はご主人様の物です」とストックいっぱい。ゴブリンの戦利品だ。なので19日ぶりの新作である。武器に関して問う前に渡したのが不味かった。
「後衛は「杖術」に切り替えました」
とのこと。あっさりしていたが、俺がスリングショットに作り替えてなかったのが失敗だ。そちらに慣れたようなのでそのままにする。
計画としてグレムリンが必要だろう。前衛にシールドと小太刀。中衛と後衛に薙刀。これでコボルトでも安心して送れる。色街ダンジョンの三層掃除が必要ではあるが、ファースト領の中級ダンジョンの様子次第では潜りたいな。
祭りが続くので退散。
○ ○ ○
奥さん達が戦闘メイドを相手にしているので、静かなベッドだ。二階は騒がしいぞ。
「何もない夜。これもいい」
静かに就寝。zzz。
○ ○ ○
朝は早起きして薬師男衆の元へ。夜の蝶はこの辺で仕事を終えるからな。見回り警護も終えているだろう。
「親方! 女性が宴会の準備をしていまっす!」
「昨日の夕方の話なのにな。説明されたんじゃないのか?」
「はいっす! 親方の許可でお礼っす!」
「なら受け取れ。警護の報酬だから、警護した奴が接待されるぞ」
「む、無理っす! 親方なら楽しめるっす!」
「俺を何だと思ってるんだ。これは無償の警護に対するお礼だ。俺の報酬ではなく、お前らの取り分だ。好意は受け取れ。あと楽しめ。ああ、乱暴はダメだぞ。同意でしろよ」
「「「マジっすか!?」」」
「マジっす。借金しないようにな。油断すると溺れちゃうぞ」
「「「んぐっ!」」」
挨拶くらいしとくか。
○ ○ ○
「うちの男衆は慣れないから優しく頼みます」
「「「はーい♪」」」
「私がここを見るラーニャよ。オリバーに聞いて早速用意したわ。本当に助かるのよ。払わずに剣を抜いて暴れる客を取り押さえてくれてね。惚れた子も多いわ。食べちゃっていいのよね?」
「同意の上でなら。あと、溺れさせないように、去り際はさっぱりでお願いします。ゆっくりと女遊びを教えてあげてください。うちから暴漢は出したくありませんので」
「ホント、過保護ね。子供相手じゃないのよ。でも、そうね、上手になって貰う方が互いに楽しいわね。うふっ。紳士に育てて、あ・げ・る♪」
「「「うふふ♪」」」
貢ぐ君にならないようにな。頼むよ。
○ ○ ○
二階に戻ればてんやわんや。美味しい役なのに「お前、代わりに行けよ」って譲ってるし。結局は全員が楽しむのにな。
「おい。順番を譲るのは無しだ。金より貴重な彼女達の気持ちだぞ。男なら受けて立て!」
「「「う、うっす」」」
「「「頑張るっす!」」」
どうもノリが修学旅行で女部屋に招待された思春期男子だ。まあ、誘ってるのは歴戦の猛者だがな。漏れなく卒業するだろうなぁ。薬師ギルドで奴隷のように扱われてたんだ。自分で掴んだ至福の一時、満喫しろ。
「ほら、女を待たせるな!」
「「「う、う、うっす」」」
俺が該当の男衆を三階へと押しやる。
「「「いらっしゃいませ~♪」」」
「「「ひゃい!」」」
一人に一人。漏れはないな。手を引かれてそれぞれの席へ。広い三階で良かったよ。足りないソファーとかは持ってきてくれたのかな? まあ、好きにしてくれ。
「(任せます)」
「(いいわ。天国魅せてあげるわ)」
ラーニャさんに任せて退散。野太くも女々しい声が響く。うん、パニクってるなぁ。
○ ○ ○
二階から応援する子羊達を置いて、宿に戻る。
「どうじゃったか?」
「準備良すぎに、準備早すぎ」
「ええじゃろうが」
「まあ、ラーニャさんには加減するようには言っておいたよ」
「なぬっ!? ラーニャか? んー、まあいいかの」
えっ、不穏だけど。どうなの?
「いやの、ここの最高級店のオーナーじゃ。動くとは思わなんでな。あれは上手にする。男衆を大切にしたいんじゃろう」
へー。報酬が大きいな。貰いすぎは良くないが、好意を金に変えるのもおかしいしな。どこかでランク下げるだろう。最初だけだよな。な?
「あら。ラーニャさんが動いたのね。安心していいわよ。ご主人様、お食事です」
「ロザンナの知り合い?」
「一方的に恩を受けただけよ。優しすぎる人なのにトップを維持してるわ。尊敬に値する人よ」
うん。安心した。飯だ、飯。
飯食ったら、ギルドに行こっと。