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 翌朝、出立。


 今日の俺は馬車の中。ユーリナお嬢様のお相手です。会話のな。


「だから、脱がなくていいぞ」


「着たままの方が宜しいのですか?」


「話すにはな。それ以上を求めるなら降りるぞ」


 ぐいぐい押してくるようになった。困る。外から薙刀が刺さってもおかしくないぞ。さっきからウルフが爆散を越えて霧散する。気配だけで分かる怒気。怖いわぁ。


「それでどんな魅力的なお話なのでしょう?」


「その魅力的な話には夜の行為は欠片もないことは言っておこう」


「しゅん」


「新事業を展開してほしい」


「新事業?」


 きょとんとする姿は年相応だな。確か15のタメだ。無駄に行為中に売り文句で暴露してた。ちゃんと生娘らしいぞ。


「ユーリナお嬢様にはさ、職業の知識を売る」


「えっ!? 国単位の価値があるのは無理です!」


「あれはバグ職の全ての職に繋がる情報だ。規模が大きすぎたんだ」


「他にもお持ちなのですか!?」


 近い、近いって! 扉に薙刀が刺さってる! ゆっくりと俺に向かって進んできてるから席に戻れ! 席に座らせたら、薙刀も引いた。危ないなぁ。


「一般職業の四文字職を二種類とその派生を二種類。その四種の情報を十年の返済猶予を持って授けようと思う。だから、ユーリナお嬢様も転職情報を与える奴に契約しろよ。売値の七割以上は奪え」


「売値? それは商品なのですか?」


「対象は「鍛治職」と「革職人」の四文字職業枠が解放されているものだ。武器に防具が果てしなく幅が広がり、強くなる。これを越えるものも作れるかもしれんぞ」


 小太刀に魔力を通して黒オーラを出す。それだけでユーリナお嬢様は身を引く。そりゃそうだ。この世界にはダンジョン宝部屋からしか属性付きを用意できないんだ。価値は計り知れない。


「き、金額は?」


「この小太刀になんぼ付ける? それが作れるんだ。作り始めたら領主のユーリナお嬢様なら大量の職人を抱えるだろ? 一気に量産だ。この情報は小太刀一万本で売ろう」


「属性の光で約一千万ルーク。の一万本? それは十年では払えません!」


「一兆ルーク。これで中堅冒険者が「今日はホワイトドラゴンの幼体を狩るぞ!」なんて言う世界になるぞ」


「中堅の冒険者が? それ程ですか?」


「俺らが本気出してドラゴンを倒してたと思うか? 武器の性能だけで、スキルは奥さん達の使ったのは二文字職のものだ。この小太刀を越えない武器でも四文字職のスキルで戦えば同等以上の成果が出るだろう。魅力的じゃないか?」


「いえ、でも……」


「最初はゆっくりな成長だろう。しかし、途中の段階でミスリルゴーレムを安全に倒せるようになったらどうなる? そして、ミスリルゴーレムがレアモンスターになるくらい狩られたら市場にミスリルは溢れるだろうな」


 このお嬢様、多分だが、14でバグ体質に気付いてから必死に勉学に取り組んだだろう。あらゆる分野での知識を吸収している。じゃなければ、15でファースト領の新領主にはなれない。


 セバスさんが言っていた。治世が安定するまでの露払いに俺が未定の婚約候補だと。言い換えれば、他の貴族の力を借りずにユーリナお嬢様が統治できるということだ。結婚とは家族間の繋がりだ。支援だ。それを必要としないと言ったのだ。


 ユーリナお嬢様は聡い。


「分かりました。現状では価値がないので「交渉人」を挟めばその金額にはならないでしょう。一兆ルークで『王級公証契約』をしましょう。ドライ様は四つの職業の転職手段を提供。私は十年以内に完済する。これで宜しいでしょうか」


「ああ、この情報を好きに使え。今から転職情報を提供しとくか?」


「いえ、五日ほど待ってください。「王級公証人」の存在が不明です。なにぶん、ファースト領は荒れておりますので」


 ん? 荒れてる? みんなは無事か?


「いえ、施政ではなく統治者不在で上が滞ってます。仮にファースト卿の嫡子を置いていましたが、私が行くことで余命も尽きます。まともな政策は行っていないでしょう。まあ、変な行動をすればその瞬間に亡き者ですけどね」


「死を待つものがまともに働くか?」


「街の状況を見て、正当な労働をしていると私が判断したら、情状酌量の余地を考えます。ファースト領が平穏であれば死は免れるでしょう」


 ふむ。死ぬ気で働いて死なない努力をしろと。ファースト卿の一家には同情するよ。ファースト卿には同情出来ないがな。あの剣好きのクリューナルお嬢様はどうなったやら。


「じゃ、俺が降りて歩くよ」


「いえ、ここで私を貰って……いえ、いいです。どうぞ」


 薙刀がユーリナお嬢様に向いたな。馬車の扉が穴だらけだ。隙間から目がイッたフィーリアの顔が見える。嫉妬魔神は健在ですね。



  ○  ○  ○



 やっと帰ってきたファーストの街。空気は淀んでいないな。善き善き。門を潜ったら依頼完了だ。そう言えば口頭でしか依頼契約してないや。まあ、タダ飯に宿賃もタダで、夜なんて毎晩ハッスルな護衛は無給でも仕方がないよな。


「こちらをどうぞ」


「あ、はい」


 金貨一枚、一万ルークなり。手渡しかよ!


「昨晩の言質に関してはユーリナお嬢様との善きパートナーとして今後もお付き合いの間にお支払します」


「はい。()()()()パートナーとして、お付き合いをしましょう」


「では、四日後の夕にでも契約の手続きは連絡いたします」


「聞こえていたのね。まあいいです。よろしくお願いいたします」


 穴の空いた馬車は去ってった。ここまで何度フィーリアさんのご機嫌取りをしたやら。それでも今晩はフィーリアの独壇場らしい。お姉さん達も引くほど嫉妬してたからな。


「さて、帰るか」


「「「はい」」」



  ○  ○  ○



「おう、坊主。やっと帰ってきたか」


「おっさんの土産、忘れたわ」


「置き土産が美味しいのでな。毎日、坊主のメイドに世話になっとるよ」


 ふむ。それは良かったが、おっさんに特定の女は居ないか。


「口説けると思うな! わしは枯れとるぞ!」


「恋愛自由なんだけどな」


「あー、坊主が薬師男衆と呼んどる奴等ならモテとるぞ」


 俺のいない間に何があった?



  ○  ○  ○



「「「おかえりなさいませ」」」


「「「親方、おかえりなさいっす!」」」


 屋敷の方に行くと休み組と思われる人数が……薬師男衆が多くね?


「「村正」班はこれから勤めっす!」


「勤め?」


「うっす。色街の治安維持活動っす!」


 ほー。もしかしておっさんが旅行前に言いかけてたのって。


「あら、実行されたのね。ご主人様の許可なしに?」


「無給も覚悟っす! ここの女性が横暴な客に暴力を振るわれていたっす! 親方のテリトリーっす! 舐められたらおしまいっす!」


「ご主人様。薬師男衆はボランティアで巡回しております。実際に二文字二重職になり、暇がありましたのでオリバー亭の店主の案で動いております。勝手な行動をお許しください」


 薬師男衆は俺のプライドを守り、戦闘メイドはその行為を止めなかった事を詫びる。うーん。誰も悪くないな。おっさんが唆したから、あっちに事情を聴こう。


「状況はおっさんと話し合う。薬師男衆は今晩は予定通りに動け。俺らが横暴になってはいかんぞ! 横暴な奴を抑える善き隣人であれ!」


「「「うっす!」」」


「「「ありがとうございます」」」


「親方に相談があるっす」


「ん? なんだ?」


「無給は働く女性に負担っす。何かしらの対価を貰う必要があるっす」


「今日は聞かれたら、オリバー亭のおっさんと話し合ってるって言っとけ。どこかで折り合いは付ける。ってか、戦闘ができたの?」


「親方の貸与された「心技体(オールステータス)」で守りは大丈夫っす。攻めはこれっす」


 見せられたのは斑に毒っぽい模様の投擲ポーション。そんなのあったっけ? 体に悪そう。


「投擲麻痺ポーションっす。これで無力化してお縄っす」


 状態異常のポーション? どう作ったらそんなのが出来るんだよ!


「廃液を煮たっす。捨てるのを減らしたら出来たっす。重廃液は『乱視鑑定』で加工すると死ぬって出たのでダンジョンに捨ててるっす」


 あー、失敗で出る廃液は毒なのか。聞けば、麻痺、睡眠、毒、重病、この四種が出来るそうだ。「剤治」の『強制治療』でポーションを投げ付けるらしいが、治安維持に麻痺と睡眠、ゴブリンに毒と重病と使い分けているらしい。だが、使うより余っていくそうだ。


「必要量以外の生産中止! 売ってないよな?」


「うっす。冒険者ギルドマスターに流出禁止が出てるっす」


 どんだけ強力なんだよ! アリエッタさんなら麻痺と睡眠は冒険者の保険に欲しがりそうなのに禁止か。人的被害が強そうだ。平気で毒殺できるのか。怖いって!


 今、薬師男衆は二文字二重職を、一つは「剤治」で固定。ポーション投げるからね。もう一つを、「乱剤」→「乱剤」→「村正」→「強癒」→と回しているらしい。「乱剤」班がポーション作りと、何故か冒険者ギルドに出張しているらしい。


「『乱視鑑定』っす」


 薬草採取が増えて選別の応援ね。いいポーションを作るには材料からなんだって。薬草以外も雑多に持ってこられるから、買い取りの判断を薬師男衆がしてるんだな。ふむ。明日はアリエッタさんに会いに行くか。


「それでは「村正」班、治安維持に出動するっす!」


「気を付けろよ」


「「「うっす!」」」


 さて、おっさんに説明をさせよう。

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