097
「こいつらはクランを作っていたんだ。弱い癖に素行の悪い連中でな、一攫千金で遊びたかったんだろうよ」
「なら、被害はパーティ一つだけか」
「ああ。フィールド狩りも非効率でな、素材が傷んで買い取り拒否が多い連中だ。遅かれ早かれ、こんな末路だっただろうな」
素行が悪くても後味悪いな。今回は自業自得だが、命は大事にして欲しいものだ。人に迷惑をかけるなら問題外だがな。小悪党でも気取っていたのだろう。終わったことだがな。
「じゃ、護衛任務があるから帰る。またな」
「旦那様は釣れないな。またを期待しているよ」
○ ○ ○
今日の戦果チェック。
グレムリン、銛2498、双翼2498、骨布17486、カイトシールド2。
「森羅聖霊師」はまだだった。しかし、「怒羅権」はもうすぐ揃うだろう。次か。この時にサロワナは「剣姫」から「杖術」に。
そう。薙刀の配布は終了。俺は小太刀二刀流で一時過ごすので不要だ。「妖刀村正」の過剰吸血で強化中。数がいるからな。小太刀二刀は終わったが、薙刀は順次実行中だ。
薙刀が終了したのでハルバードに圧縮している。仕様はコボルト片手斧と一緒のようなので、グレムリン銛はハルバード、コボルト片手斧はフライパンにする予定だ。
双翼はカチューシャとバレッタ量産。デザインを微妙に変えつつ作っていった。気にくわないならデザインを変更する。ファッションアイテムじゃないぞ。ヘルムなんだぜ。戦闘メイドを含む22人には少し足りなかったが、もうすぐシールドに回せるぜ。
骨布はせっせとブラジャーとショーツのセットに変身。全て黒色に染めていっていたが、足りなかったようだ。一部染まっていないようだが、戦闘メイドへのお土産には十分だろう。
「妖刀村正」のレベルも13になり、『妖刀』の効率アップに「村正」の『妖刀刺し』で吸血の漏れがない。『血狂い』の過剰吸血もあり、武器の耐久値は減らないのに性能がぐんぐん上がる。小太刀が強くて頼もしい。
「帰ったら青ですね」
「緑はみんなが作ってくれてるはずよ」
戦闘メイドにそんなオーダーしてたのか。無理してコボルトに挑んでいないと思いたい。薬師男衆? あいつらは戦わないだろう。調味料作りに真剣だったからな。あと、休み取ってくれていると嬉しい。働きたがるからな。
「(来ましたね。始めましょう♪)」
覗き常習犯になったユーリナお嬢様。今晩もせっせと扉を薄く開けて覗き込んでいる。いや、見せるためにしなくてもいいんだよ。ねえ、女性の方が積極的なのはどうなの? 今さら? あー。
○ ○ ○
ダワス領の関所も無事通過。セバスさんが税をお支払。この人も強いんだよね。物腰に隙がない。有能なんだろうな。
ここから空白地帯。ダワス領もファースト領も兵士が出しにくい。なので要注意の区間となる。そう言えば、ダワスの冒険者ギルドマスターが「ちぃと山が荒れてるから気を付けろ」なんて言ってたな。
この世界はゲームとは違う。平均レベルが異様に低い。ゲームで言う中堅である四文字職が多いのだ。五文字になればそこそこ有名。六文字なら注目の有名人だ。職業レベルでこれだ。
あと、プレイヤースキルが甘い。ゲームより柔軟にスキル行使が出来るのに一撃必殺を狙う。いや、間違ってはいないと思うが、それ一辺倒は駄目だろう。それするなら武器に金かけないとな。
その武器が稚拙だ。どうもミスリルですら普及していない。それに変わるモンスター素材の武器もない。モンスターは肉と毛皮。稀に牙が装飾品。モンスター素材の加工する技術が失伝している。何故だ? 普通職だろ?
「これだけウルフがいると鋼の剣も研ぎ直しが必要ですね」
「そうなのです。血糊で鈍り、骨を砕くのに欠けますからね」
強そうな護衛兵士の装備がゲームの初級武器だ。店売りの中級品。店売りの高級品はミスリル武器ね。ゲームでの店売りの武器なんて初心者の頃にお世話になるだけだ。普通は鍛治職の手製を買うのだが……。
「モンスター素材の武器、ですか? 鱗を繋いだ鎧なら見たことありますが、性能は微妙ですよ」
と、全く常識に存在しない。そりゃ、育たないわ。経験値の高いモンスターは狩れないだろうな。そう、あんな奴。
「警戒! ホワイトドラゴンだ! 森に馬車を隠せ!」
とまあ、幼体のライトドラゴン……こっちじゃホワイトドラゴン……の群れにすら天災のような扱いだ。数は六匹。練習には良いかな。
「みんな。属性解禁。『妖刀刺し』か『魔力杖』で頭か首を狙うんだ。あちらさんは捕捉してるから、間合いに入ったら殺っちゃえ。フォローはする」
「「「はい!」」」
「待ってください! 去るのを待つべきです! って、属性?」
「俺から行くよ。一番間合いが遠いからね。『刺突』」
あ、土属性だった。黒属性が効きそうなのにね。
ピギャッ!
ブレスの構えで首を上げた所、首を一突き。ふむ。属性は関係なかったか。幼体だしな。
他の個体がブレス。と言っても火炎放射じゃなく光の弾丸を打ち出す。左に持つ黒属性の小太刀で『魔力薙ぎ』。着弾前に打ち落とす。
「来るよ! 狙って!」
「「「はい!」」」
「「「『妖刀刺し』!」」」
「「『魔力増幅』! 『魔力杖』!」」
フィーリア、サロワナ、エフェロナは『妖刀刺し』を選び、ロザンナ、ミーディイは『魔力増幅』ありの『魔力杖』を選んだ。それぞれが属性を込めている。
キシャアァア!!!
「フィーリアとサロワナはハズレ。力を込めすぎだ。護衛任務だから危なくなる前に俺が倒すよ。『逆斬り』『妖刀刺し』」
ピギャッ!!
「俺が拾ってくるから、周囲警戒。帰るまで属性解禁」
「「「はい!」」」
ドラゴンの幼体でも馬のサイズはある。ひょこひょこ森を歩いて回収。ふむ。ハルバードでいっか。ちゃんと血抜きは怠らない。ハルバードで吸血。
「お待たせ。アイテムボックスって凄いな。あれが一匹一枠で入るよ」
「ドラゴンのお肉は美味しいらしいですよ!」
「ドラゴンステーキ。強くなれそうだよな」
「くそっ。両手剣だったら慣れてたのに!」
「「「………………」」」
「さあ、進みましょう。野宿は勘弁です」
「……はい、ドライ様。皆も行きましょう」
「「「……はっ!」」」
ふむ。飾りの護衛任務とはならなくて良かった。その後は無事にファースト領の関所も通過して宿場町に到着。
○ ○ ○
今晩は、覗きだけじゃなかったユーリナお嬢様。
「わ、私も抱いてください!」
「護衛任務で護衛対象を害しちゃダメですよ」
何故、夜のお勤め中に突っ込んでくるかな? ミーディイがとっても不満そうじゃん。
「な、なら、これも依頼です!」
「なら、お断りします。ここ以降はファーストの兵士が巡回しているでしょうから安全じゃないですか? ついでに護衛任務もキャンセルしましょう」
ミーディイも話は終わったとばかりに続きを所望する。みんなもユーリナお嬢様から興味を反らす。
「お、お願いします! その為に私なのですから」
「んー、権力には興味がありません。ユーリナお嬢様は肩書きがとっても面倒です。それ以前にこれ以上は増やせませんよ」
俺って政治の世界には全く興味が無いんだよね。もしあるなら「国王陛下」の肩書きで王都で要求してるって。
「わ、私はバグ体質です! 救ってください!」
「俺に知る限りに政治に使えるバグ職はありません。明日とも知れぬ命ならともかく、ちゃんと人生を優遇されてる人に救いは必要ないでしょう。それとも、俺を懐柔できなきゃ領主が出来ないなら、トップが腐ってる。引っ越し先に良い国の候補があるので俺はそっちに行きますよ」
ハーベス王国なら、お姉さんと同じ境遇を冷遇はしてないだろう。今回の王都旅行は良い国を見つけたことが収穫だ。
「うっ! 私はドライ様のクランには入れませんか?」
「先も言ったように、優遇されている方に救いは不要です。ユーリナお嬢様は俺に救われるのではなく、俺と同じくバグ体質を救う側でしょう。俺はバグ職の情報で、ユーリナお嬢様は治世で。うちのクランは死にかけを救って食い扶持を与える程度です。ユーリナお嬢様は領主。仕事がありますよね。うちのクランに入る条件を満たしてません」
無条件に手を伸ばせるほど俺は聖人君子ではない。バグ体質でも救われているなら俺の手は不要だ。ゆるゆるの条件だと、バグ体質の有無に関わらず不幸な人を全て救わないといけないじゃん。それは統治の分野だ。
「せめて、何か意味ある職業に就きたいです」
「十年後に「貴族」が貰えますよ。俺以外に救ってくれる方が身内でしょうに、我が儘ですよ。十年、ファースト領を治めてください」
「ドライ様に近づけなければ不要だと、お兄様に切られたら救ってくれますか?」
「その時はこの国を見限ります。何も反省してないし、俺を利用するだけじゃないですか。本当にユーリナお嬢様がバグ体質で、俺を懐柔しようとしての人選なら、救いようのない血筋だと捨てましょう」
バグ体質の救済。国の単位ですればそれは捗るだろう。だが、俺の情報は一般職すら脅かす。俺らの三文字バグ職で世界が変わる。影響力の計算をしながら救うなんて何処のパーフェクトヒューマンだよ。
俺の情報はバグ体質を選ばれた人種にも出来る。
そんなこと望んでやしない。大体、元夜の蝶が屈強の現役兵士が怯えるドラゴンを一ヶ月以内に越えさせるんだぞ。「残具創」でそれだ。「骨服師」は服の概念すら崩壊させるぞ。俺の情報が俺の手綱を離れたら世界のバランスが崩れるぞ。
「俺と政治をくっ付けるな。世界が不幸になる」
「……はい。お邪魔しました。失礼します」
ホント、この国から始めるべきか悩むぞ。