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001

 ダンジョンの1層、対するはゴブリン。初手から人型とは()()()()に来て初手の敵とは抵抗はあるが、殺るしかない! 忌避感は捨てろ!


「ええい! 『妖刀刺し』!」


 人型で小人、悪鬼であり手足があるだけで人とはかけ離れたモンスターの喉元に木剣を突き刺す。大降りに振り上げたゴブリンのこん棒は振り下ろされることなく地面へと落ちる。


「強っ! 凄いですね、職業「村正」って」


「ああ、バグ職の「二文字」中でも一番の破壊力だろう。付加効果も美味しいしな」


 ゴブリンの喉に突き刺した木剣が血を啜る。ゴブリンの血を『妖刀刺し』の効果で啜っているのだ。


「やっぱり辞めるか?」


「悩みますね。私って近接向きでは無いですから」


 この女性、フィーリアはさっきナンパし……誘った。転職神殿で味方に見切りつけられた新人冒険者で、どうも()()()()らしい。


「後衛系か、生産系か。どっちにするんだ?」


「その前に一度出ましょう。私のバグ体質の相談に乗ってくれるのでしょう?」


「まぁな。美少女と話せるなら美味しいからな」


「びしょ……んんっ、からかわずに行きますよ!」


「へいへい」


 こうなったのも、少し遡ることになる。



  ○  ○  ○



 俺がプレイしているマイナーVRMMORPGの「八百万(やおよろず)」は様々な職業を選んで自分好みのキャラクターを育成して冒険する定番なRPGではある。


 マイナーな理由はバグ。運営は「仕様」という言葉で様々なバグを容認して混沌としているが、このゲームの中核である職業システムが異常にバグが多い。


 ゲーム面では「仕様」といいつつ、しれっとパッチで修正するのに、職業システムは、しれっと後付けで公式にしている。問題が多いのは転職時のバグ。文字化けするのだ。正確には読めるが意味のない職業になる。


 初期設定では「村人」からから始まるのだが、「村人」から「村人」に転職できる上に、低確率で「村村」や「人人」という全く意味のない職業になってしまう。しかも転職のクールタイムが存在するので冒険に出れない時間も存在してしまう大欠陥がある。


 マニアックな人種によるバグを見つけるという、ある種では肯定的で冒険という根本的な楽しみ方を否定したプレイヤーも多々存在する。俺は公式認定されたバグ職を楽しむ派である。正道職業は面白く感じないのだ。


「新キャラでバグ職オンリーの特化作るか」


 と、意気揚々にある種で定石となったバグ職へと最初の転職を試みる。


【転職しますか? Yes/No】


 Yes。


【本当に宜しいですか? Yes/No】


 No。


【転職しますか? Yes/No】


 このループが存在する理由は職業レベルがリセットされるからだ。2つ目の問いがバグったらYesを押せばある程度の確率でバグる。


 このバグを運営は放置し続け過ぎて、撤収が困難なほどユーザーに浸透してしまった。撤収すれば運営すら怪しいほどの脱退者が出るだろうとの掲示板の書き込みが多数ある。


【転いしますか? Yes/No】


 お、やっとバクった。Yesっと。


【本当に宜しいですか? Yes/No】


 Yes。バク職定番の「村人」と「正人(せいじん)」のコンボ、「村正」に転職確定だろう。文字列操作も八百万バグ職Wikiで確立されているからな。


【転いします】


 珍し。ここもバグってら。



  ○  ○  ○



 それは五感という情報が教えてくれた。何かおかしいと。


 このゲーム、というか世界のVRMMORPGは未だに嗅覚と味覚、それに触覚の再現は出来ていない発展途上なのだ。世界に先駆けて八百万が嗅覚を再現したとは思えない。肌に触れるそよ風すら感じる微細な感覚も初めてである。


 転職時は神に祈る。手を合わせて黙祷する。目を瞑っていたのだが、あまりに自然な感触に思わず目を開け周囲を見渡す。ドットが荒くない。VRMMORPGで一番自然なデザインであっても、ここまでのリアルな描写は聞いたことがない。


「なんだ、これ?」


「おい! 終わったなら、横に避けろ!」


「あ、はい!」


 条件反射で席を譲る。このゲーム、転職をこれでもかと繰り返すので転職神殿は普通に人が多い。ただの社なので街の至る所に存在するが、この街は二文字と三文字の職業訓練の場が多いので人も多い。


 初心者は適正探しに、中級者から上級者まではサポート枠の調整に。主力になるのは四文字から五文字の職業だろう。スキルの柔軟性と威力が違う。生産系でも文字数の多い物は範囲は狭まるが高度な技術を行使できる。


 初期に訪れる街だが、最初でもないのに運営はネーミングセンスもなく「ファースト」と街の名を付けていた筈だ。今の状況で、俺の知識が常識であれば、だが。


「おいおい、バグったのかよ」


「ご、ごめんなさい!」


「使えね」


「俺らは今、三文字職になった。お前はバグりすぎて二文字も使えね。もう補助もねえ。組む理由がねえよ。「正人」になったらワンチャンあったが、「村正」ってなんだよ。他当たれ。じゃな」


 補助。その職の訓練所で初めて該当の職の転職権利を覚えたら貰える支度金だ。職によっては最初期の装備だったりアイテムだったりする。やっぱりゲームなのか?


 適正も必要だが村正は大当たりだぞ。流れからして正人の支援系補助を狙っていたのだろうから、攻撃的な前衛は外れかもな。だからってパーティ外すかな?


「あっ!」


 という間に4人組は1人を置いて去っていった。夜のなんちゃらなんて卑猥な発言もあったが、紅一点は捨てられた。


「なあ。「村正」って強いぞ」


「見も知らぬ貴方が何を? バグ職にスキルなんて無いわよ!」


 開拓した時はな。運営も途中は本気でバグ職にスキル振ったから大体はあるぞ。それにこのゲームでバグ職にスキルがないなんて常識は通用しない。バグ職を見付けて、運営にコンセプトを訴えれば、意外と採用されていた。


 やはり、何か違うぞ。【転いしますか? Yes/No】。あれだろうか? 転移とも読める。今なら真実味を文字通り肌で感じてる。世界がリアル過ぎる。


 ゲームの世界に引きずり混まれたのか、俺。

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