日常
金曜日は何も無くして平和に過ぎていった。強いて言うなら樹の作品が三十万部突破した事だろうか。お祝いで回転寿司に行ったのだが、結局樹がすべて払う羽目になって怒っていた。
徹也も珍しく一緒に来ていたが彼女のことはあまり口には出さなかった。
下手な詮索はあまりしない主義なのだが。
土曜日。
三時間構成の午前中授業がある憂鬱な日。何故か時間を経るのが遅く感じるのは気のせいだろうか。
また気を抜いたら皆の前で醜態を晒してしまうかもしれないので集中して授業に望む。
◆
数学Ⅱ、地学、日本史と三限の授業が終了し早下校時間に差し掛かっていた。
時刻は十二時ともう日が南中していて春なのに眩い日光が街を照らしている。
「おい、今日ようちゃん家に集まろーぜ」
非リア勢の友達である後藤陽介。ゲー厨の廃人ゲーマーである。
しかし、その実力は確かなものであり全国大会でもいい順位を残している程の腕の持ち主。勉強はまあ察っすることができる。
自宅警備隊の癖にスポーツ万能で稀に休日に助っ人として試合に愚痴を垂れながら参加している。
「いいよー」
「ゆうやは?」
「俺も行けるけど五時からバイトな」
「ちぇっ。休んじゃえよ」
「無理なこと言うな」
帰宅してすぐに陽介の家に行っても大体一時。する事と言えばゲーム、ゲーム、ゲーム。ゲーム以外有り得ないと言っても過言ではない。FPSゲームで今日の個人大会に協力で参加するかもしれないが。
飯を食って遊びに行く準備をして右ポケットにスマホを入れ、外出する。
純色の黒のコーチジャケットの中に白いパーカー、ズボンは黒スキニーパンツ。
The・陽キャの貫禄を晒し出しているが決してそんなことはないが徹也のお陰で中間辺りにはいるのだとは思うけど女子が寄ってこない。
ポテンシャルを身に付けたのにくそっ。
雑念を脳内で考えつつ、陽介の家に脚を運ぶ。家からそう遠くはないが近くもない。片道十五分かかる距離を一人で緘黙しながら歩く。
俺が陽介の家に着いた頃にはもう皆集結していた。俺、徹也、樹、陽介の四人。非リアの中にリア充が居るのは辛い。纏っているオーラが場違い過ぎて圧縮されて潰れそうだ。
「今日この大会があるんやけど出ん?」
陽介が今日主催される大会を薦めてくる。
どうせやることも無いので皆に合わせているのだがこのFPS、パズルを組んでハイスコアを狙うゲームは俺の得意分野。
前回の給料を全て注ぎ込んで今回は最強テンプレデッキを作っている。
「ええよ」
樹が即答する。
「何で行く?」
「俺はガブリエルで、四大天使で行こ」
俺はガブリエル、陽介はラファエル、徹也は徹也はウリエル、樹はミカエル。四大天使と言うことだけあってパラメーターもスキルも強い。デッキを組んで四人協力プレイを始める。
特定の番号を入力して固定されたステージに挑戦する。前回は惜しくも四位とぎりぎり表彰されない順位で留まってしまったので今回はリベンジマッチである。
一ターン目は俺の番。一ドロップを動かし、コンボを繋いでいく。
落ちコンはなく場面は九コンボとほぼカンストのコンボを叩き出す。前回の大会よりボスのパラメーターは断然高くなっている。
スキルを最大限に生かしたが四分の一しか減らせないが残りの三人が消し飛ばしてくれるだろう。一人のゲー厨は重課金厨であるからな。
家が裕福で豪邸であるくせに別荘も持っているとかどこのラノベ主人公だよ。
予測通り四ターンでボスの討伐は完了した。ステージ五つを僅か二分台のクリア。いいスコアが出た。
後は集計待ち。前回よりもいいスコアのためか皆スマホを置いて拝んでいる。
結果は四位。
ふぁっ○ゅー。
「ああ、またか」
惜しむ声を発する徹也。
「課金厨もっと頑張れよ」
「うっせ」
樹が陽介に愚痴を垂れている。
その後もゲーム漬けの三時間三十分を過ごし俺はバイトの為、みんなより早く陽介の家を去った。
突如、右ポケットにバイブレーションの感覚が過ぎりすぐにスマホを取り出して確認する。
『ゆうやくん、今どこですか?』
宮坂からのメールだった。初の女子から先にされるメール。高揚していくのが分かる。
『今、向かってるとこ』
『早く来てください』
『ほいほい』
短文でやり取りを済ませ、最終文に既読マークがついたのを確認してポケットに直し早歩きでデイムに向かう。
またバイトか。