宮坂とバイト①
六限目の授業と終礼が終わり今日の学校の日程は全て終了した。
予定通り今日はバイトのシフトが入っているので学校から直行する。ほんの三分程徒歩で行くと見える距離にあるほどの近さ。
家からも割と近いのがデイムを選択した決定的な理由になったのだが。
野球部のグラウンドを駆け回る掛け声が聞こえる中、学校を去る。
夕日に照らされる街並の光景は何とも美しく言葉を失い唖然としてしまう。
「今日、お前バイトだよな?」
「ああ、そうだぞ」
「茶化しに行っていい?」
「それ普通言うか、てか来んな」
口角を上げて微笑んでいる樹。俺のゲー友でもあり、小説家でもある奴だ。徹也が居なくなってからは付き合いが深くなった。元々話は合うやつだったのでネタは尽きない。
こいつも非リア勢の一人であり毎日のように暇している。時々、締切に追われて地獄のような顔立ちをしている時もあるが。中学からの付き合いで古参友である。
よく帰宅時に俺の家に遊びに来てゲームをすることもあるが今日はバイトのためそういう訳にもいかない。
「じゃあ、俺はここで」
「おう!」
手を振ると背を向けて樹達は再び脚を動かして帰宅する。
デイムの前で樹達と別れると背中を向ける姿を少しだけ目で追い裏口から入店しようとしたその直後だった、背中に紅葉の衝撃が加えられ、思わず前屈みになってしまう。
「いたっ」
衝撃の加えられた方向を振り向くと宮坂の姿があった。
こいつやっぱり通り魔か。
「ご指導よろしくお願いしますね」
「ほいほい」
適当に返事を済ませると宮坂は俺の手首を掴んで裏口に勢い良く入る。
あーなんていい気分なんだ。
幸せそうな表情を露出して鼻の下を伸ばしていると橘さん、つまり俺の上司に当たる人に痛い視線を送られる。
「橘さん、これは違うんです」
「あーはいはい、分かったわ」
咄嗟に弁解を試みたが、適当に返事を済ませてすぐに仕事に戻って行った。
橘さんは俺がこの店に来る半年前から働いているバイト生でありまた大学生でもある。
痛い視線を送ってきたのも、橘さんは非リア勢の仲間であり情熱を語れる間柄であったのに急に俺が女子を連れてきたからであろうと検討はつく。
端正な顔立ちをしていて、華やかな曲線をえがいている目元から鼻の筋。
ポニーテールの茶色の頭髪。繊維一本一本が蛍光灯の光を受けて光沢を出しそうで純白の艶のある肌に対して際立っている。
胸部には二つの膨らみが存在を強調している。
街中を歩くと人目を盗む程のルックスを持っている癖していい男がいないのよぉとぼそぼそと愚痴が口から漏れていた。
愚痴が言えるだけ良いと思うのだが不満なようだ。俺が彼氏になりたいくらいだ。
大学生とだけあって少し色気があり、目を惹かれてしまう。
「宮坂、着替え室はこっちな」
「着替えたら次は仕事の説明な」
「えー面倒臭いです」
嫌気が隠れきれずに表情にそのまま現れている。
「文句言うな」
「覗かないでくださいよ~」
「覗かねーよ!」
ニヤニヤした目付きに自分の欲望を抑えていると宮坂は「はーい」と言いながらスタッフ室に入室していった。
はあ、世話のやけるやつだ。目の保養になるからいいけど。
これからもっと忙しくなりそうだ。
俺も男性用のスタッフ室に入室して着替えを済ませて宮坂を部屋の外で待つ。
三分経過。長いな。
五分後。遅い。
十分後。何してんだ。
「お待たせしました」
「お待たせし過ぎだ」
「すいません」
謝る気のない微笑みを浮かべながら謝罪の言葉を垂れる宮坂。仕事用の制服を着てもやはり似合っている。いつも肩まで下がっている短髪は下結びされていて整えられている。
美少女と美人は何も着ても似合うようだ。
こんなの拝められるなんて今日はついてるな。