偶然
結局何の縁もなくその日も次の日も通過してしまう。
どうして、どうしてだ……。
つくづく縁がないことを必然的に悟る。周囲の友達は着々と彼女を作って充実した日々を送っている。
劣等感と焦燥感が込み上げてきて悲しくなってしまう。ただ憧憬の視線で見ていることしかできない。
最近、徹也も囲いを作って俺と会話する機会も少しづつ減っていっている。
俺ら剰余の非リア勢は集結して寂しい飯の時間を過ごすだけ。
「ゆうやー、進展どうだー?」
気が抜けた腑抜けた声で息を吐くように軽く口から出ている。お決まりのパターンのようなものだ。
「あるわけねーだろ」
「お前らは?」
「残念ながら、まだ」
「まだって、、一生だろ」
「それ以上はよしてくれ、ほんとに悲しくなるわ」
弁当をそそりながらの非リアの会話。リア充爆発過激派組織があるくらいである。
俺を含めた四人の男子生徒の集団が二つの机を囲むようにして存在を抹消するかの如く静寂の空間で食事をとる。
徹也は何故か最近ノリが悪い。まあ、とうとう奴にも春が訪れたようだ。
徹也の正面に座り込む一人の女子。ルックスは勿論、容姿も校則の原則に則っている着こなし。
明らかに優等生である。名前と顔が一致しているなら学年成績二位の御方である。
残念ながら一位は俺なのだが。
スポーツに関しては皆に遅れを取る俺だが、勉学の方は国立大学を志望している為怠っていない。
進学校で一位なら割といい大学を志望できるに違いない。
いや、本音を言えば、なんか勉強できるってポテンシャルあればモテると思ったんですよ。
なのに、なのに、勉強できるのにどの美少女も勉強の仕方とか分からない問題を聞いてこないじゃないか。
質問してくるのは僧侶のような坊主の野球部とか非リアの友達だけである。
そろそろ台パンしていいっすか?
ポケットからスマホを取り出して、web小説を漁る。ジャンルは勿論現代恋愛、これを読むのが心を癒す一時にもなる。現実逃避をしつつ、幻想の世界へと浸っていく。
周囲の奴らも割とオタクが多く、小説をネットに投稿している奴もいる。
「俺の幼馴染がこんなに可愛いわけがないの次話出てんぞ」
「まぢか、チェックしとこ」
現代恋愛ジャンルの中のトップの小説である。日間、週間、月間と三冠を維持している超売れ作品である。
最近、書籍化したらしく既に観賞用、持ち運ぶ用、貸し出し用と三冊常時持ち歩いている。
流石に授業中に読書するということはしない。内定が消えたら困るからな。
タイトルに俺の幼馴染と入力し決定ボタンを押すと最上に掲載されている。すぐに、小説状況を確認して、最新部を黙読する。
小説を読んでいた為か満腹感が芽生え、お弁当を残す羽目になってしまった。申し訳ないと思う罪悪感に押し潰されそうだ。
弁当の蓋を閉めて自分の席に重い足取りで帰り着席する。
枯渇した喉を潤そうとお茶を手に取るが中身が空っぽであった。
ほんとについてないな、、。仕方ない、自販機まで行くか。
財布をポケットに入れて更に重くなって脚を椅子から伸長して自販機まで歩を進める。
イチゴオレを購入しようと財布を開けるが前回小説を大人買いしたせいかあるのは五十円玉一枚と一円玉が三枚ほど。
こんな寂しい財布見たことないぞ。
前回のバイトで入った給料をすぐに本屋で使い果たしたのが脳裏に鮮明に投影される。
あぁ、おわた。
自販機の前まで来て何も買わずに教室に帰る奴は俺を除いて居ないだろう。こんな醜い姿見て欲しくもない。
その瞬間だった頬に冷たいという感覚が過ぎる。
「冷たっ」
咄嗟に右側を振り向くと、前回不注意で転倒した美少女がにししっと微笑んでいる。
右頬を抑えて驚愕した俺の顔が可笑しかったのか、何も購入しなかったのが可笑しかったのかは不明である。
「これ前回のお返しです」
「あ、ありがと」
俺が買いたいと願望を抱いていたイチゴオレ。ぎこちないが感謝の意を示す。
ザ・コミュ障モードに突入している。女子生徒と話すことなど学級日誌届けててとか命令を下されるくらいしかない。
仕方の無いことなのだ。
「あっそいえば、デイムでバイトしてますよね?」
「う、うん、えってかなんで知ってんの?」
「バイトしてるんですよ、私も。」
再度驚愕の表情を浮かべるとまたくすくすと失笑された。
デイムは学校の近所のファミレスであり、学生も割と入店が多い。
下校の途中に寄り道をする感じであり、値段も割と安く学生の間では好評である。
バイトしている俺を茶化しに来る奴もいるが。
シフト表に確かに新人の名前があったな。宮坂葵だったかな。まさかこんな身近にいるとは思わなかったが。
店長に「教えてやってくれ」と頼まれていてコミュ障だから不安を抱いていたから割と安堵した。
これから俺の新時代。美少女ハーレムを作ってやる。
「じゃあ、また後で」
イチゴオレだけ俺に渡して背を向けつつ、手を振り教室に駆けていった。
凛とした橙色の髪が風に靡き、艶の出そうな白い肌は日光を受けて少しだけ赤く染まっていた。
いやー、可愛いな。