いざ夢の安泰生活へ!
「っしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
俺は心の中で全力で叫んだ。
たぶん志望していた大学に合格したときぐらいに。
右手に握り締められているのは一枚の書類。
そこには短く、こう書かれていた。
「貴殿の採用が決定いたしましたのでご通知申し上げます。
國鉄本社」
短い、だがこの先の人生を決める超重要な書類だ。
「くぅぅぅ…この日を何度夢見たことか…」
やばい、嬉しくて泣きそうだ。
とりあえず家に帰って友人に報告しよう。
國鉄本社のある渋谷から東急田園都市線に乗る。
2駅先の三軒茶屋で降り、しばらく歩く。
15分ほど歩いた先にあるアパート、サニーレジデンス02の201号室が
俺の家だ。ガチャリと鍵を開けて部屋に入る。
部屋の汚さはお察しだが、一応掃除は週一でやっている。
壁にもたれかかり座り込み、大きく息を吐く。スマホを取り出して、通話アプリを開いた。
トルルル、トルルル、トルr、ピッ
「はい、もしもし。んー、なんだ大翔かよ。」
「おう、御来屋起きてたかー。」
「当たり前だろ。今何時だと思ってる…まあいい。何の用だ。」
「國鉄の最採用試験受かったぜ!これで一生安泰だ!」
「おぉ!マジか〜。すげぇな!よかったじゃん!」
「そういうお前も司法試験受かったんだろ!やっぱエリートは違うな!」
「いやいや、大変なのはこっからだよ。弁護士事務所を開くまではな。」
「そういや言ってたな。そっちも頑張れよ!」
「お前もな!」
しばらく他愛もない話をしてから、電話を切った。
御来屋直樹とは中学のときからの付き合いだ。
運動もできたし、勉強もそこそこ、さらにルックスも良い。本人は「別に俺なんか大したことないからー」とか言っていたが、普通に大したことあると思う。俺みたいなパッとしない人間と並ぶと尚更だ。その後同じ高校に就職、そして大学も同じ東應大学に入った。ちなみに俺は教養学部、直樹は法学部だ。そして俺は國鉄へ、直樹は弁護士へ、それぞれの道を歩もうとしている。
あれから1週間後、俺は國鉄本社の前にいた。
書類には9時集合と書かれていたが、余裕を持って早めに来た。
國鉄本社ビルは30階建て。周りの高層ビル群の中でもかなり高い方だ。
少し時間を潰してから会場に向かう。会場の第3会議室はすぐに見つかった。
「失礼します」
そっと扉を開けて入る。だが、中にいたのは椅子に座った2人の学生だけだった。
1人はいかつい強面な感じの男。身長は180cmぐらいだろうか。筋骨隆々とした体つきは正に「漢」と言った感じだ。
もう1人は気弱そうな女の子。小柄で、やや茶色がかった髪をふんわりと伸ばしている。控えめに言ってかなりの美人だ。強面男と美少女。不自然な組み合わせだ。
9時になった。國鉄の制服を着た職員が2人入ってくる。
初老の職員と三十代くらいの若めの職員。
「今年は君たちか…ふむふむ…なかなか期待できそうだな…」
初老の職員がうなづきながら呟く。
そして、このあと言われた言葉を俺は一生涯忘れないだろう。
「君たちに外地國鉄への異動を命ずる。」