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世界の支配者と十二人の巫女  作者: 国分志市
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邂逅

楽しんでいってください。

 第二機殻【圧鎚あっつい】は、重力を操る機殻シェルである。そのため、【圧鎚あっつい】の体内は浮島が幾つかあり、その上で人は生活している。浮島は少しずつ移動しているが、主に浮島と浮島の経由は”箱舟アーク”と呼ばれる専用の飛行船で移動が出来る。

「くそっ! ミリと通話が出来ない!」

 レイオンは腹立たしげだ。ミリとは【圧鎚あっつい】の巫女、ミリ・ウィンストンのことである。

「ミリが自分の意思で戦争を仕掛けていると言うことか?」

「分からない。ミリがそんなこと承諾するとは思えないが……」

「ちょっと……! 私にも説明しなさいよ…………!」

 どうやらエアラが目を覚ましたみたいだ。

「エアラ起きて大丈夫か?」

「大丈夫よ! それよりレイオン様何があったか教えてください!!」

「【圧鎚あっつい】が【破炎はえん】に戦争を仕掛けた。【破炎はえん】の人々を救済すると言っているが実際は、強奪や反抗をしたものを殺害しているらしい」

「ひどい……」

 エアラは自分の体が引き裂かれる思いだった。当然だ。故郷がひどい目に遭っているのだから。

「でもさぁ、なんかおかしくねぇか?」

 トゥリアが疑問を口にした。

「何がだ」

「だって全部の機殻シェルに通じるゲートがあるだろう? あれを使えば悪さをしたら他の機殻シェルの人々から逆に制圧されるんじゃないのか?」

「……実は巫女にはあの膜の中にある世界樹を使って自分のところにあるゲートを閉じることが出来るんだ。それに他の機殻シェルの位置が分かる能力も巫女にはある。そしてこれが一番重要だが、巫女は自分の機殻シェルを寝させたまま移動させる能力があるのだ」

「でも移動させるだけじゃ【破炎はえん】に行けないだろ? 外の界に出るわけにも行かないし」

「いや、機殻シェルは全ての機殻シェルと合体できるのだ。それを悪用してミリは【圧鎚あっつい】と【破炎はえん】を合体させてそこから人を送り込んでいるのだろう」

「ふぅん。じゃあもう一個。なんか情報や展開が早くないか?」

「…………」

 これにはエアラもレイオンも言葉に詰まった。

「確かにおかしいですね。まるで今日ここまでのことが起きると計画しているようだし」

 エアラが手を組みながら言った。

「誰かがどこかで状況を操っている……? それだけじゃない。情報の集まり方も妙だ」

「そう。【破炎はえん】で起きていることまで分かるのはおかしい」

 トゥリアが静かに、そしてはっきりと言った。

 三人共しばらく声が出なかった。その口火を切ったのはトゥリアだった。

「俺、【圧鎚】に行くわ」

「「はぁ!?」」

 レイオンとエアラの声が重なる。

「レイオンと一緒に【陣斬じんざん】まで行く。そのあとレイオンが【圧鎚あっつい】と一時的に合体させて俺がミリに会ってくる」

 決断したようにトゥリアは言った。

「待って。ミリ様と話してその後どうするの? 戦争を止めるように言うわけ?」

 エアラが呆れたように言う。

「俺、ミリのこと知らないけど巫女がそんなこと考えるわけ無い!」

「巫女だって人間なのよ」

 エアラが深いため息をつきながら続ける。

「巫女だって、食事するし、疲れもする。邪悪な考えに囚われる人だっているかもしれないじゃない」

「いや、ミリとは長い付き合いだが、そんなことを考えるような奴ではない」

 トゥリアにレイオンが助け船を出す。

「レイオン様……」

「トゥリアを弁護しているわけじゃない。私の経験から言っているのだ」

「ですが……」

「じゃあ、レイオン頼む」

「まったく、レイオンさんと呼べって言っているのに。君は言うことを聞かない奴だな」

 レイオンが苦笑している。ただ怒っているような口ぶりではなかった。むしろ楽しんでいるようにエアラは感じた。

「か、勝手にしなさいよ! 私は【破炎はえん】に向かうからね!」

「エアラ」

 レイオンがトントンとエアラの肩を叩いて、トゥリアに聞こえない声でささやく。あっちに行こうとジェスチャーしている。

 何事かと思ってそちらに向かってみると、

「エアラ、トゥリアと一緒に【圧鎚あっつい】に行ってくれないか?」

「レ、レイオン様っ!?」

「あいつだけだと何をするか分からない。もしかすると、あいつの不思議な力でまた【圧鎚あっつい】を目覚めさせてしまう可能性すらある」

「ですが、私は【破炎】を再度眠らせないと……」

「それなら、心配は要らない。【破炎はえん】が完全に起きるまで一週間かかるという見積もりが出ている。もしそれまでに【圧鎚あっつい】の件が終わらないようであれば【破炎はえん】に向かえばいい。万が一【破炎はえん】に何かあったら連絡する。」

「でも、私オーブ持ってないんで……」

 なんとか、エアラは抵抗しようとした。しかし、

「トゥリアが持っているだろ」

 完膚無きまでに理論武装され、エアラは従うしかなかった。


『トゥリア、もうすぐ完全に【圧鎚あっつい】と合体する』

 レイオンがオーブを使用して、話しかけてきた。

 今、トゥリアたちは【迅斬じんざん】に来ている。

「了解」

『【圧鎚あっつい】は、無重力状態の機殻シェルだ。そちらに着いたら、泳ぐ感じで近くの浮島に行けばいいだろう』

「ああ、分かった」

『……すまないな』

「あ? 何で謝るんだ?」

『私にもっと力があれば君たちの力にも慣れるかもしれないのに……。私には情報の出所を調べるくらいしか役にたたない……』

「それだけでも俺たちは助かる。それにその役目は色んなところにパイプを持っているレイオンにしか出来ないだろ」

 トゥリアの正直な感想だった。

『ふふっ、ありがとう。トゥリア。さて、はじめるぞ』

「よし! はじめてくれ! …………なあ、エアラ」

「高いの怖い、高いの怖い……」

「そんなところにうずくまっていても何も変わらないぞ」

「高いの怖い、高いの怖い……。分かっているわよ! そんなこと!!」

 エアラは【迅斬じんざん】の通路に頭を抱えながらうずくまっていた。

「なあ、お前本当は高所恐怖症なんだろ」

「ち、違うわよ!」

 エアラは隠せてると思っているがトゥリアにはバレバレだ。

「もしかして、【圧鎚あっつい】に行きたがらなかった理由って……」

 エアラはガバッと起き上がった。

「そ、そんなことないわよ。さあ! ミリ様を説得するわよ!」

 トゥリアは、自分が抱いていた巫女のイメージとかけ離れているエアラに驚いた。しかし、そんな仕草も愛おしかった。

「よし、いくぞ!」

 【迅斬じんざん】の出入り口が開く。


 その先は、真っ暗闇だった。

 その中にポツポツとランプのついている浮島がある。

 一番、近くで大きな光が見えるのはトゥリアたちのいるところから、下の位置にあった。どうやらあれが街だろう。

 エアラを見ると、

「きゃああああああああああああああぁあぁぁっ!?」

 パニックになっていた。

 とりあえず抱き寄せた。そのまま下の街に向かう。

「ちょっと、離しなさいよ!」

 足をバタバタさせて、反抗するが、かまわず泳ぎだす。

 20分くらい経っただろうか。

 やっと街に着いた。しかし、そこには人影が一つもなかった。

「どういうことだ? 戦争が起きているから皆家に隠れているのか?」

「しらないわよ! そんなこと! ……でもおかしいわね前に来たときは、この街じゃなかったけれどもっと活気があったわよ」

「とにかく少し歩いてみよう。それから”箱舟アーク”の船着場を探そうぜ」

「ええ、そうね」

 それからしばらく歩いて、船着場を見つけた。受付には四十代くらいの男性がいた。

「こんちは。おっさん。俺たち首都に行きたいんだけど」

「なんだ? 観光者か? 残念だったなあ。こんな時期に観光なんて……。今、首都からお触れが出ていて”箱舟アーク”の発着を停止しているんだ。でも、あんたらみたいな人もいるから俺がここにいて説明しているんだ」

「なんで首都は”箱舟アーク”の発着を停止しているんだ?」

「実はな、これは噂なんだが機殻シェルのトップに反抗しているレジスタンスがいてな……。そいつらが首都以外にも拠点があるらしくて、それを阻止しているんだよ。ただでさえ戦争状態に入ったからなぁ」

 レジスタンスとは政府や権力に抵抗する運動を差す。

「レジスタンスはここにもいるんですか?」

 エアラが質問した。

「分からん。だが用心に越したことは無いだろう。……正直ほとんどの国民が戦争なんて止めて欲しいと思っているよ」

「もう一つ質問。何で街に人が一人もいないんだ?」

「それも首都からの命令だ。相当レジスタンスを警戒しているんだろうな。戦争に行かないものは外に出るなってさ。商売も上がったりだよ。なあ、それよりそこのお嬢さん。どっかで見た気がするんだが……」

 割と口の軽い男性に急いで「ありがとう」と言って、その場を離れる。エアラは有名人だからめがねとかつらを使って変装しているのだ。しかもそれらはあのコスプレ喫茶で買ったものだ。

「これからどうする?」

 トゥリアが聞くと、エアラは、

「しょうがないから【破炎はえん】に行きましょう。それがいいわ!」

 と言った。

「……ミリが心配じゃないのかよ? それにどうやって行く気だよ?」

「分かったわよ……。でもどうする気?」

「…………ちょっと歩いて見ようぜ」

「はぁ? どういう意味?」

「いいから!」

 いつもお気楽そうなトゥリアがピリピリと殺気だっている。エアラには何が何だか分からなかった。とりあえずトゥリアと一緒に歩いてみる。だがやはり意図が分からない。

「ねえ……」

 しびれをきらして、トゥリアに声をかけると、トゥリアは立ち止まった。

「……やっぱりだ。」

「やっぱりって?」

「誰かに尾行されている。しかも複数。…………! 危ない!!」

 トゥリアがエアラを突き飛ばした。その後ヒュッと風を切る音がした。その後、奥の家の壁からドスッと音がなる。

 エアラには何事か分からなかったが、奥の家の壁を見ると、投げるタイプのナイフが刺さっていた。誰かに襲われたのだと今更分かった。

「誰だ!?」

 トゥリアが体勢を整えながら、後ろに声をかけた。いつでも槍で応戦できるように槍のある腰のベルトを持ちながら構えている。

「そちらこそ何者だ?」

 トゥリアが声をかけたほうから人が現れる。全部で4人だ。そのうち一人は女性のようだった。軽装の鎧に白いマフラーで顔の下半分を隠している。髪の色は黒い人から二人。白髪の女性が一人。金髪が一人だ。皆、中肉中背と言う感じである。黒髪の長身の男がリーダーのようで、トゥリアと話す。

「お前ら、追手か?」

 ここにきて、エアラも応戦できるように体勢を整える。

「追手? 何のことだ? 俺たちは町で見かけたことがない奴がいるとの情報を聞きつけて尾行しただけだ」

 それを聞いて、トゥリアは構えを解いて、頭の後ろで手を組む。

「なんだ。エアラ追手じゃないんだってよ」

 馬鹿……! この状況で私の名前を出すなんて……! エアラは舌打ちしそうになった。

「エアラ……? まさか【破炎はえん】の巫女、エアラ・ハース様ですか!?」

 四人の男女はパニックに陥り、膝をついて、手を胸でクロスさせる。この世界の正式な礼拝だ。

「不敬をお許しください。我々はレジスタンス”白の鴉”です!」

「なんだ。ちょうどよかった。なあ、俺をあんたらの組織に入れてくれよ」

 トゥリアが飄々と言った。

「「はいぃっ!?」」

 これにはエアラを拍子を抜かれた。


 トゥリアとエアラは、”白の鴉”のメンバーに連れられて、ある民家に入った。因みにその際、4人は後ろ前に分かれ、真ん中にトゥリアとエアラを入れて歩いた。完全には、信じていない証拠だ。しかし、無理もあるまい。こんなところに【破炎はえん】の巫女がいるとは思わないだろう。

 連れて行かれた家の中は、寂れた一軒家と言う感じだった。

 奥にダブルベッド。そして玄関の左側にはキッチンがあるだけだった。

「少し、お待ちください」

 そう言って、黒髪の男が金髪の男ともう一人の黒髪の男に目で合図を送る。すると二人は、奥にあるベッドを後ろの部分から縦に動かし始めた。

 すると、ベッドの下の床がパカッと左右に割れた。どうやらベッドを立てたのが仕掛けになっているらしい。

「お入りください」

 言われた通り、トゥリアとエアラは目配せしながら入っていく。目配せは「この際しょうがない。言われた通りにしよう」「了解」と言う合図だ。

 床が割れた下は階段になっていて地下と繋がっているらしい。階段はそんなに深く続いていなくてすぐに部屋に着いた。

 そこは身奇麗な部屋だった。地下室と言っても岩がむき出しになっていることもなく、部屋として整然としている。中央には机があり、そこに地図らしきものがあった。そのほかは、角に書棚があり、奥の壁に黒地の旗に白い鳥が描かれているものが貼られている。中には他に二人がいた。こちらも黒髪だ。トゥリアは本で見たことがあるが、【圧鎚あっつい】の国民はほとんどが黒髪で黒い瞳らしい。

「おい、誰だその男女」

「失礼だぞ! 【破炎はえん】の巫女、エアラ・ハース様だ!! 拝礼をしろ!!」

「はっ!? 申し訳ありません、エアラ様!!」

 二人は拝礼をした。

 第二機殻【圧鎚あっつい】の人々は礼儀を重んじる民族だとエアラは聞いたことがある。しかし、実際にここまでされると、かえって居心地が悪くなる。

「私、そんなに気にしないから……。そこまでしないで」

「そういうわけにもいきません」

 リーダーの黒髪の男性が言った。

 黒髪の長身の男が、全員が地下室に入ってきたのを確認すると、マフラーを全員が取った。そして、外から来た四人全員がもう一度膝をついて、拝礼のポーズを取る。

「申し送れました! 私は”白の鴉”のリーダーのガザン・アーシェアです!」

「分かったけど、拝礼はもう止めて! 私そこまで礼を尽くされると逆に困る!」

「……分かりました。おい」

 ガザンがそう言うと全員がサッと申し合わせたように立った。

「それでエアラ様たちはどうしてここに……?」


 エアラは全てを話した。因みにトゥリアは秘密基地みたいな地下室に興味があるらしくそこら中を見回している。

「なるほど。この男が【破炎はえん】を起こしたと……。おいっ!」

 ガザンがそう言うと、トゥリアの近くで待機していたメンバーがトゥリアを拘束した。

「なんだよぉ、しょうがねえだろ。起きちまったことは」

「少しは反省しろ! お前のせいで【圧鎚あっつい】と【破炎はえん】は大変なことになっているんだぞ」

「反省してるって」

 トゥリアはそういいながら手を上げる。降伏したといわんばかりだ。しかし、顔は笑っている。

「チッ! おれはふざけている奴が一番嫌いだ! その首切ってやろうか……?」

「待って! お願い!! こいつはあとで【破炎はえん】で裁くから!」

 エアラはそう言いながらも何でトゥリアをかばっているか分からなかった。

「分かりました。エアラ様がそう言うのでしたら……」

 ガザンは部下に目配せして、トゥリアの拘束を解かせた。

「それで今どういう事態なの?」

「はい。実は……」

 ガザンは【圧鎚あっつい】の実情を話し始めた。

 第二機殻【圧鎚あっつい】は、元々科学技術を発展させてきた機殻シェルである。また、国民性も穏やかで礼儀を尽くす、平和な国だった。それが変わり始めたのが一年前。この機殻シェルのトップ、総督が変わったことが大きかった。前総督は穏やかで理知的な性格だったが病弱で35歳の若さでなくなってしまった。それにより、新しい総督が任ぜられた。それがバルスト・ゲウスである。50歳と若くは無いが、【圧鎚あっつい】の法律を定め、監督する独立組織『密法院』でリーダーを任せられていた人物で、その知識、手腕はさすがのものだった。しかし、そのゲウスが総督になった頃から武器の開発、輸入、それから軍の強化に予算を盛り込むようになった。

 この世界では、他の機殻シェルへの戦争、及び政治への介入は暗黙の了解でしてはいけない定めになっている。とは言ってもそれはあくまで法律で定められているわけではないのでそれはその機殻シェルのトップの判断にゆだねられてしまう。

 とにかく、【圧鎚あっつい】はその性質を変えていくことになった。

 もちろん、その変革を良しとしないものはたくさんいた。しかしゲウスは慎重かつ有能な人物だった。あらゆる組織にパイプを持ち、それでいてスパイを送り込んで、内部から破滅させるのである。ただし、これは噂で憶測の域を出ない。

 しかし、あらゆる組織、団体が崩壊したのは事実だ。”白の鴉”が結成されたのもそんな頃だ。白の鴉は、近しい友人、親戚から結成されたこともあって、中々崩壊することは無かった。そして、”白の鴉”は、政府に反抗し、武器をもって対立した。

 そんな中で、【圧鎚あっつい】の巫女、ミリ・ウィンストンは政府から独立した人物でありながら政府に進言できる唯一の人物だった。しかし、ミリもなぜか政府に力を貸しているらしい。ゲウスはミリを総督府に隔離しているのだと言う。

 そして、今日急に「【破炎はえん】が目覚めたので、【破炎はえん】の国民を救済する」と言いながら侵攻したのだ。

 尚、この街にガザンがいたのは、定期的な見回りだ。いつもは首都のテトラへヴンにいる。


「……と言うわけです」

 ガザンはそう言って締めくくった。

「なるほど。よく分かったわ。でも私たちに出来ることは無いかもね」

「いや、やっぱり協力するのが一番いいと俺は思うな」

「あんたは黙ってて」

「なんだよ。発言くらい許せよ」

 エアラはトゥリアを無視して話を進める。

「私たちはミリ様に会うために来たけど、この状態では会うことも難しいでしょう。だからとにかく【破炎はえん】に向かいたいと思っているの。そうすれば戦争も回避できるかもしれない」

 ガザンは考えながら言った。

「でも、そいつの言うことは癪ですが、もっともです。ここは協力しませんか? エアラ様がこちらにつけば戦力が大幅に増幅します。それにエアラ様なら総督府もミリ様と会わせるかもしれません」

「そうかしら? 逆に戦争をしている機殻シェルの巫女が行けば、拘束されるのがオチじゃないかしら?」

 エアラが言っていることも筋が通っている。

「ですが……」

「なあ、ちょっと聞くけどさ、結局ガザンはこれからどうするんだ?」

 不意にトゥリアが聞いた。

「テトラへヴンに戻るが……」

「ちょっと、あんた……」

「専用の”箱舟アーク”でもあるのか?」

「ああ、あるけど……」

「なあ、エアラやっぱり”白の鴉”と協力しようぜ。ミリを救えば、ゲートも使用できるし、その総督って奴を失墜させれば、【破炎はえん】との戦争も止められるんじゃないか?」

「そうだけど、あと一週間しかないのよ? ううん、そもそも今まで機殻シェルが目覚めなかったんだから、いつ完全に覚醒するか分からない! だから早く行かないと!!」

「……エアラ、焦りすぎると周囲が見えなくなるぞ」

「えっ……?」

 焦っている? 私が……? そんなこと今まで気がつかなかった。もちろん、トゥリアの勝手な思い込みとねじ伏せることもできる。しかし、トゥリアのその言葉が深く突き刺さった。

「エアラ様! お願いします! どうかそのお力をお貸しください!!」

 ガザンが頭を下げた。

「二日……」

「えっ……?」

「あと二日以内に解決しなかったら、私を【覇炎はえん】まで送り届けて」

 ガザンを見るエアラは今までどおりに見えた。しかし、その瞳には決意の炎が燃え滾っていた。


トゥリアたちはそれからすぐに首都テトラへヴンに向かった。”箱舟アーク”の乗り心地はとてもよかった。しかし高所恐怖症のエアラは頭を抱えていた。

 因みにテトラへヴンに向かったのは、エアラとトゥリアと”白の鴉”からはガザンと白髪の女性、ディエン・ジルバだった。

 ディエンは黒い髪で黒い瞳の【圧鎚あっつい】の人々のなかで浮いているほどの美人だった。白い肌に青い瞳。眼鏡をかけ、理知的に見えた。

 三十分程度で着いた首都テトラへヴンも戦争に際して、外出している人がいなかった。店などもやっていない。ガザンに聞いたところによると三日後、食料の配給があると伝えられているらしい。

”白の鴉”のアジトも先程と同じで一軒家の地下にあった。しかし、テトラへヴンの”白の鴉”のメンバーはかなりいるらしく街の一つかと思えるほど広域だった。

 ガザンはメンバーを集めてエアラたちを紹介した。メンバーはほとんどが驚いていたが、これでどうにかなるという安堵や喜びもエアラには伝わった。

ただエアラは楽観視していない。巫女だからと言ってミリと会えるのならそれほど難しくないのだ。

「エアラ様は二日後に【破炎はえん】に向かわれる。それまでに解決するのだ!」

「おーっ!!」

 ガザンが決意を表明し、メンバーがそれに続いた。

 そして、エアラも一緒に作戦会議に移る。

「それで、どうする? 具体的なことは考えているの、ガザンさん?」

「呼び捨てで結構です。そうですね……。ってあれ? トゥリアはどうした?」

「あれっ? そういえばいないわね。ねえ、私と一緒に来た人どこに行ったか知らない?」

 エアラは近くにいた”白の鴉”のメンバーを呼び止めた。

「エアラ様と一緒にいらした客人なら出て行きましたよ」

「「はぁぁぁっ!?」」


 トゥリアはテトラへヴンのメインストリートに来ていた。ここまでくれば、店の一つか二つは開いているかと思ったが、やはり開いていない。

 トゥリアは考える性分ではない。その場の気分で行動する。今回、アジトから出てきたのも、せっかく別の機殻シェルに来たんだから面白い店でも探そうかと思っただけだ。

 しょうがない、戻るか。そう思ったときだった。

 メインストリートの奥に小さな人影がある。

 誰だろう……? こんな人気の無い場所に。

 近づくと、13、4歳くらいの女の子だった。

圧鎚あっつい】特有の黒い髪に黒い瞳。髪は三つ編みにしている。服装は黒いドレスだ。多分、お金持ちの家のお嬢様なのだろう。顔は、年の割りに大人びていて年齢を感じさせない。

「なあ、こんな所で何しているんだ?」

 そうトゥリアが呼びかけると、女の子はゆっくりとこちらを見て驚いたような顔をした。まるで今までいることに気がつかなかった顔だ。

「えっと……。ここのおかしがたべたかったんだけど、おみせがあいていないの」

 実際に話すと、同じくらいの女の子より舌足らずだった。

「そりゃ、今戦争中だからな。腹減っているのか?」

「うん」

「しょうがねえなぁ……」

 そう言ってトゥリアはポケットをがさごそと何かを探し始めた。

「あったあった。ほら!」

「……あめ?」

 それは指の先ぐらいの大きさの飴だった。

「これくらいしかないけどやるよ」

「いいの?」

「ああ」

「ありがとう、おにいさんやさしいね」

 そう言って女の子は飴をなめ始めた。

「あまい」

 表情は無表情だったが、喜んでいるのがトゥリアには分かった。

「さて、家まで送っていくよ。家どこだ?」

 そう言って辺りを見回すと、いつの間にか女の子はいなくなっていた。

 幽霊……? 思わずトゥリアは身震いした。

 それにしても不思議な女の子だった。よし、今度こそ戻ろう。

「おい」

 突然後ろから呼び止められた。後ろを見ると、トゥリアくらいの歳の少年がいた。

「俺に用か?」

「ああ。探したぜ。トゥリア・イェン」

 そう言って笑いながら少年はナイフをトゥリアに振るった。

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