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世界の支配者と十二人の巫女  作者: 国分志市
2/4

発端

 楽しんでいってください。

 数時間前。

 その日、トゥリアはいつも通りの時間に目が覚めた。

 と言っても朝ではない。この隔絶された世界からは空が見えない。なので太陽も見えない。ただ、伝承や御伽噺として空や太陽の知識はある。

 この世界には、十二体の機械生命体、機殻シェルがいる。その体内で人間は暮らしているのだ。したがって、いつも暗闇だ。それでも人間は千年以上ここで暮らしてきた。そのため、暗闇には慣れている。

 トゥリアは身支度をして、義父のいるリビングに行く。

「おはようさん、ジジイ」

 トゥリアがそう言うと、義父のバルク・イェンは顔をしかめた。手にはコーヒーのマグカップがある。コーヒーを目覚めに飲むのはバルクの日課だ。

「それしか言えんのか、バカ息子が。それに俺はまだ現役だ」

 バルクは少し白髪が混じった茶髪に精悍な顔をしている。長身で体はほっそりしていて第十二機殻【破炎はえん】屈指のハンターとは思えない。顔のイメージから鷹を思わせる。

 年齢は五十代だがそのやせた体と顔つきから四十代半ばとしか見えない。

 対して、トゥリアは銀髪の頭髪を背中まで伸ばしている。顔も整いすぎて、女の子にしか見えない。こう説明すると女の子に愛されそうな感じだが、性格が軽薄で女の子好きなために全然もてない。それどころか敬遠されている節がある。それでも、トゥリアはめげない。今日も暇さえあれば街に出て、女の子を口説こうと思っている。

「お前とふざけあっている場合ではない。そろそろ行くぞ」

 そう言ってバルクは残っていたコーヒーを飲み干し、玄関に向かった。

「はいよ」

 今日も大切な一日が始まる。今日も楽しい一日でありますように。トゥリアはそう願った。


機殻シェルの中はもちろん機械生命体の体内なのだから機械仕掛けになっている。人間はその中に家などを建てて生活している。機殻シェルは常に眠っているため、体内が動くことは無い。そのため建造物を建てようが改造しようが何の支障もない。もっとも人間は昔の家をそのまま使っているのだが。しかし、人間が住めないエリアも存在する。それがウイルスの出るエリアだ。

 ウイルスが何なのかは研究途中だが、分かっているのは、機殻の体内の部品を壊すこと。増えると合体して大型のウイルスになること。それから最後が一番重要だが、時々人間が生活する場所にも現れ人間に危害を及ぼすことだ。

 トゥリアとバルクが今向かっている場所は、新型のウイルスが現れたと言われている場所だ。

 そこは機械で出来た柱が何本もあり見晴らしがいいとは言えない場所だった。

 ここ、第十二機殻【破炎はえん】に現れる、ウイルスは獣型、特に猫型のウイルスが多い。猫型と言ってもペットのようなものではなく、大きくて獰猛な奴らだ。

 しかし、今回現れたのは、蛇のような細いウイルスだったそうだ。正確には蛇とも異なり、顔がなく糸のように細いらしい。因みにこの情報は偵察専門のハンターがいて、その人がバルクに討伐を依頼したときの情報だ。

 目的地に着いた。

 やはり暗闇と言うこともあって、見えにくい場所だ。それに今回のウイルスは小さい姿と言うこともあって、中々発見しづらいだろう。バルクとトゥリアはそれぞれにオーブのライト機能を起動した。

 オーブは、球型の物体で使用者の周囲に浮かんでいるものだ。使用者一人につき、一つはこの世界の人間は持っている。色々な機能があって、今回のようなライト機能から水を出して洗濯する機能や火を起こす機能もある。製造元はウインターコーポレーションと言う会社でそれぞれの機殻シェルに支店が5店舗ほどあり今急成長している会社だ。

「とにかく、見回ってみよう。お前は左から、俺は右からだ」

「りょーかい」

 バルクに命じられ、素直に返事する。いくらトゥリアでも命に関わる判断をする時はふざけない。……ようには努力している。

オーブのライト機能を頼りに少しずつ、柱が建つエリアを歩いていく。柱が何本も建っている様はまるで本に書いてあった森か林のようだ。一歩一歩を踏みしめるように。今までの経験でこういう時、大胆に行動してはいけないと分かっている。ただ性格的にあまり慎重な行動は好きではない。それでもトゥリアだって死にたいわけではない。だから警戒するように歩いていく。

 ガサガサッ

 何かが蠢くような音がした。

 音がした方向にオーブを向ける。

 いた。

 糸のように細いウイルスがオーブのライトで眩しそうに身体をくねらせている。白い糸のような身体で目は無い。それでもトゥリアが近づいていることやライトの光が当たっていることは分かるらしい。大きさはうさぎのような小動物ほどだろうか。トゥリアとの距離は五メートルほどだ。

『じじい、いたぞ……! 三匹だ』

 即座にオーブの通信機能を使って、バルクに声をかける。オーブの通信機能はスピーカー機能を使用しない限り指定した人にしか聞こえないようになっている。そのため、バルクの近くにウイルスがいてもこの会話は聞こえない。まあ、この糸のようなウイルスに耳のような機能がついていればの話だが。

『こちらも見つけた。こちらは四匹だ』

 バルクもオーブで返事してきた。

 合計七匹か。単体だと有利かもしれないが、集まると厄介かもしれない。 

 三匹のウイルスは少しずつエリアの奥に進んでいく。この奥に巣があるのだろうか。

 さて、どうしようか。

 感電させる短槍のエネルギージャベリンを使用すれば、恐らく行動を封じられる。しかし、感電しないタイプのウイルスもいる。試しに一本使用してもいいが、この後何が起こるかわからないため、節約した方がいいだろう。

 幸い移動するスピードはそんなに速くない。

 なら、近づいて槍で叩き斬るか。そう思い立った瞬間、トゥリアは走り出した。恐らく気が逸っていたのだろう。ウイルスの一匹が方向転換したことに気がつくのが遅かった。

 そのウイルスは、糸のようなものを吐き出して、トゥリアの腕にかけた。

(しまった!!)

 しかし、もう手遅れだ。トゥリアの左腕に命中してしまった。すると、その糸は生物のように動き、たちまち、トゥリアの腕を締め付けた。しかも、その糸を吐いたウイルスと繋がったままだ。

(これは糸を吐き出したんじゃなくて、体を自在に伸縮させる能力か……!? これは厄介だな!!)

 トゥリアはすぐに糸、もといウイルスの身体を槍で斬ろうとした。しかし、ウイルスの方が行動が早かった。ウイルスは地に面している(機械の上なので地面ではないが)自分の身体の方に体をくねらせた。その反動で、拘束されているトゥリアもそちらの方向に体を持っていかれた。そのままトゥリアは地面に転がる。

 このままではまずい。とにかく早く腕に伸びているウイルスの身体を斬らなければ!

 そう思い、トゥリアは転がったままに持っていた槍で腕に伸びているウイルスの身体を斬った。

 これでどうにかなる。そうトゥリアが思った瞬間、甘かったことに気がついた。腕に巻きついていた方のウイルスの身体が、くたっと生気が無くなったが、すぐに動き出し、今度はトゥリアの首に巻きついた。どうやら知性もあるらしい。一方、地面にいた方のウイルスの身体もくねくねと揺れている。そちらのウイルスは、エリアの奥に移動しているようだった。そういえば残りの二匹の姿も消えている。奥に行ったのだろうか。

(こいつ……! 増殖する能力も持っているのか!!)

 首を締め付けられながら、トゥリアはそう思った。

 ウイルスはか弱い姿をしながらかなりの力を持っていたようだ。その証拠にトゥリアの首をすごい力で締め付ける。このままでは死んでしまう……!!

 だが、トゥリアは今度は慌てなかった。まず、首に巻きついているウイルスの身体を斬った。そして、華麗に跳び退(すさ)り、背中に背負っていたバックパックからオイルの入った缶を取り出し、ウイルスの身体にかけていく。そのまますかさず、今度はオーブに命じて発火機能を起動させてウイルスの身体に火を浴びせた。

 ウイルスは痙攣したように身体を震わせて、光の粒子になって消えていった。

 光の粒子になるのは、ウイルスの生命いのちが尽きた証拠だ。

(このウイルスやっぱり……!)

 この糸のような蛇のようなウイルスのことが分かりかけた瞬間、バルクから通信が来た。

『トゥリア! 大丈夫か!?』

 どうやら想定外のことが起こったとバルクも感じていたようだ。

『ああ、今ウイルスを二体消滅させた。ジジイの方はどうだ?』

『…………奥に来てみろ。最悪だ』

 それだけで何が起こったかトゥリアには分かった。急いで奥に向かう。

『あいつら合体した』

 バルクの最後の声はトゥリアには響いて聞こえた。


 トゥリアがそこに辿り着いた時、すでにバルクがウイルスと交戦していた。バルクも通常は槍を使用する。しかし、バルクは銃や剣などのほかの武器も得意としているため、そのウイルスに合った攻撃方法で戦う。今回は収納できる斧で攻撃していた。

 ウイルスはすでに170センチメートルほどあるトゥリアの二倍はあろうかという巨体だった。ここまで大きくなったのだから恐らく10匹以上のウイルスが合体したとしか考えられない。

 そのウイルスのいる場所は機械の地面を溶かしていて白くなっていた。数十本もあったであろう柱もなぎ倒されている。

「ジジイ!! どけ!」

 トゥリアは叫んだ。それだけでバルクはトゥリアの意図を察知したらしく、目でこちらをチラッと見た後、後ろに飛びのいた。

 すぐに背中にあるバックパックからエネルギージャベリンを放り投げる。普通のウイルスならこれで気を失うか麻痺して動けなくなる。しかし。

 このミミズのようなウイルスにはエネルギージャベリンは効かなかった。すぐに怒ったように尾のほうを鞭のようにしならせて攻撃してきた。

「ぐぁっ!」

 トゥリアは避けようとしたが、間に合わなかった。柱が密集している所に体を飛ばされた。バルクはさすがに熟練のハンターなので攻撃を避けたようだ。今度は銃で攻撃していた。

 それを察知してか、今度はウイルスの口と思われる場所が空洞になった。そしてその場所がキラリと光った。途端に、トゥリアは何が起きるか分かった。

「ジジイ! 逃げろ!!」

 そうトゥリアが言うのが早かったのか、バルクが判断するのが早かったのかは分からない。しかし、瞬時の出来事だった。ウイルスは鋭い針のようなものを吐き出した。それもかなりのスピード、無数の針を。

 そのスピードにバルクも追いつけなかった。回避はしたのだが、何本かはバルクの腕に命中した。

「ぐうっ!!」

 バルクの腕は鮮血で赤くなった。バルクは思わず、そこで膝をついた。しかし、そこは長年ハンターをやっていただけのことはあって、咄嗟に後ろに下がり止血する。そこにトゥリアがかばうようにして前に出た。

「ジジイ! 大丈夫か!?」

「ああ、大丈夫だ。しかし、すぐには動けないだろう。お前に任せる。いいか、こいつは……」

「ああ、分かっている。もうすでにオーブに命じてある」

 そう言って、トゥリアはウイルスに立ち向かっていった。オーブが起動するまで恐らく、もう少しかかる。それまで時間を稼がなければ。

 トゥリアは槍で切りつけようとしたが、どうやら皮膚は硬いらしく傷一つつけられない。その間もウイルスは執拗に針攻撃や尾を振り回して攻撃してきた。十分に距離をとって、回避をする。 

 それなら……!

 トゥリアはバックパックから銀色の筒型の箱を取り出した。それの装置を起動させ、ウイルスに投げる。途端に霧が噴霧し、ウイルスの視界を遮る。

 トゥリアが投げた箱は、ハンターが愛用する白い霧が出るスプレーだ。ウイルスは目で見ると言うよりも周囲の温度で獲物や危険を感じ取ることが分かっている。そこでハンターたちは熱源を分からなくするスプレーを作り出した。

 トゥリアが対峙しているウイルスもどうやら混乱しているらしく激しく動いていた。

(よし、これなら時間稼ぎが出来そうだ……)

 そう思った時だった。

 小さいウイルスと同じ様に体を伸縮させ、トゥリアの体にまとわりついた。

(くっ、こいつも伸縮能力があるのか!?)

 当たり前だ。あの時のウイルスが合体した姿なのだから。迂闊だった。そのままウイルスは伸びた頭の部分を縮ませた。でも……。チラッと自分のオーブを見た。赤く輝いていた。

 オーブにウイルスの体に近づくように命じ、すぐに次の命令を起動させた。

「燃えろ!!」

 トゥリアが命じると、オーブは火炎放射器のごとく日を吹き出した。オーブは基本的に命令すれば瞬時に指示を遂行するが、今回のように広範囲に火を放ちたい場合などはチャージに時間がかかる。

 ウイルスにたちまち火が移り、苦しそうにもがく。しかし火は一気にウイルスの体を駆け巡り、体全体が燃え上がった。

 このウイルスは蛇型のウイルスではない。虫、それも芋虫かミミズのようなウイルスなのだろう。いや、芋虫ならさなぎになったり、蛾になったりするからやはりミミズのタイプか。

 トゥリアがこのウイルスが虫なのではないかと思ったきっかけは糸のように伸びる伸縮能力を見たときだ。蛇ならそんな能力は無いはずだ。更に確信したのは、ウイルスを槍で切り抜いた時、二匹に分かれたときだ。ミミズは二つに切っても、そこからまた体が生えるという。ならこいつは虫なのだ。トゥリアはそう思った。先程のバルクとの会話からバルクもどこかで分かったのだろう。もしそれが熟練のハンターの勘だと言うのなら癪に障るが。

 そんな事を考えているうちにミミズのウイルスが絶命し、光の粒子になって消えた。


「ジジイ、本当に大丈夫か?」

 バルクは、包帯で傷口を覆い、手でその場所を触っている。

「何度もジジイ、ジジイ言うな! ……大丈夫だ。止血もしたし後で傷薬も塗っておく。それよりも最近新種のウイルスが増えたな。見回りや他のハンターとの連絡を密にした方がいいだろうな」

「ああ、そうだな」

「それよりお前はこれからどうするんだ? 街に行ってまた女を口説くのか?」

 バルクは傷を癒すために一度家に戻るらしい。

「真顔で言うなよ、そんな言葉。恥ずかしいだろ! まあ、朝食もまだだしどこかのカフェで食事しながら何人かに声をかけてみるさ」

「まったくお前の女好きは病気だな。それで百回も振られるのだから恐ろしいほどの鋼の精神だな」

「百回じゃねえ!! 九十九回だ! 次は記念すべき百回目だからな! 絶対に今度こそいい女にめぐりあえるはず!!」

 バルクは、深くため息をついた。

「わが息子ながら、嘆かわしい。……まあいい。とにかく俺は先に帰って休んでいる。お前も早く帰れよ」

 そう言ってバルクはきびすを返した。

「もう子供じゃないんだから……」

 そうつぶやきながらトゥリアも街のほうへ向かった。


 バルクとトゥリアは本当の親子ではない。

 トゥリアの一番初めの記憶は【破炎はえん】の街の外で泣いていたときのことだ(トゥリアはそのあと推定で五歳ほどとされた)。そのときは自分が何者か分からない恐怖やこれからどうすればいいかわからない不安で押しつぶされそうになっていた。いわゆる記憶喪失だ。そこを仕事帰りのバルクが通りかかった。

「ボウズ、何しているんだ。ここはウイルスが出るから街に入れ。父さんや母さんはどこにいるんだ?」

「おれは誰?」

 この時のトゥリアにはバルクが救いの主に思えた。自分はこれで安心できるとなぜか分かった。一方、バルクはこの質問でこの子供に何かが起きていることを察した。トゥリアとしては純真で素朴な質問だったが、バルクからしたら異常な質問だったことだろう。

 それからバルクは【破炎はえん】のありとあらゆる街にトゥリアを保護し、両親を探しているという張り紙をした。もちろん、トゥリアの身体的特徴を含めて(【破炎はえん】の中に銀髪の人間はいない)。それでも両親は見つからなかった。結果、バルクは自身が引き取ることにした。当時、バルクは妻を病気で亡くし、失意の中にあった。それが理由ではないのだろうが、トゥリアを引き取ってからのバルクは街の人々から生き生きしていたと後に言われることになる。

 バルクは護身のために、トゥリアに槍の基本を教えたが、トゥリアは素養があったらしく、バルクでさえ驚くほどに上達した。バルクとしては、危険なハンターの仕事には就いて欲しくなかった。しかし、トゥリアはハンターとして生きることを選んだ。

 いつしかトゥリアはいつかまた記憶を失うのではないかと思うようになった。それがいつからかは覚えていない。しかし、その不安は成長するにつれて大きくなった。

 だから、寝る前に日記をつけるのが日課となった。それから毎日朝起きると、『楽しい一日でありますように』と祈るようになった。

 バルクもトゥリアも本当の親子ではないと分かった上で接しているが、他人からは普通の親子のように見えるらしく、ひとまず仲は良好だ。

 トゥリアには夢がある。

 それは十二体の機殻シェルを支配することだ。記憶喪失だったトゥリアが、この世界に機殻シェルがいると分かった頃からの夢だ。もちろん、推定で十六歳になったトゥリアにとっても漠然としているとは思う。だが、いつかこの世界の王になりたい。子供のような夢だがそう思っている。

 そのためにやることも、頭の中では予定が組み込まれている。

 トゥリアが自分の夢のために、やるべきだと思っていることはそれぞれの機殻シェルの巫女と仲良くなることだ。

 巫女は機殻シェルを眠らせている存在だ。

 何千年も昔、機殻たちは自分が世界を支配するために戦争を起こした。それを巫女と呼ばれる十二人の少女が眠りにつかせ、戦争を止めたのだと言う。巫女がどうやって現れたのかは定かではない。

 しかし、それだけでは終わらなかった。今度は世界に謎の病原菌が発生し、人間が住めなくなってしまった。そこで人間たちは巫女が機殻シェルを管理しながら機殻シェルの中に住むことになったのだ。機殻シェルは機械生命体なので病原菌が効かなかったらしい。

 ただし、トゥリアとしてはこの話は御伽噺おとぎばなしではないかと思っている。もちろんただの勘だが。


 街に向かっている際に女の子が通りがかった。リュックを背負い、小走りに走っている。赤毛で可愛らしい可愛らしい顔をしているが、意志が強そうな雰囲気をまとっている。

 トゥリアはその女の子とすれ違い、そのまま街へ向かおうとしたが、そこではたと立ち止まった。

 さっきの女の子の顔を知っているような気がしたのだ。トゥリアは口説こうとした女性の顔は全部覚えている。しかし、先程の女の子は今まで口説こうとした女の子の一人ではない。では誰なのか。考えてハッと気がついた。

 彼女は第十二機殻【破炎はえん】の巫女セアラ・ハースだ!

 巫女は機殻シェルの象徴なので有名人なのだ。

 街に向かっている場合ではない。やはり口説くのが百人目だからついている!彼女を口説かなければ!!

 トゥリアはそう思い、きびすを返した。幸い、一本道でセアラはまだ遠くに行っていなかった。

 トゥリアは、セアラに気付かれないように少しずつ近づいていった。

 トゥリアはハンターをしているため、尾行にも自信がある。ウイルスに音もなく近づいて、一撃で仕留めるのは特にバルクから教わったことの一つだ。とはいえ、トゥリアは性格上あまり静かに尾行するのが好きではない。ウイルスと戦う時も、立ち向かう方が好きだ。

 それでもバルクの戦い方が効率がいいのは分かっている。だから、尾行も練習したのだ。

 今回も、どうやらセアラには気付かれていないようだった。

 それにしても、どこに向かっているのだろうか。巫女が日常どうしているかはよく分かられていない。機殻シェルをどうやって眠らせているのかもまったく見当もつかない。

 トゥリアがそんな風に考えていると、セアラが立ち止まった。トゥリアは尾行に必死で気付かなかったが、今までトゥリアが来たことがないところまで来たらしい。

 そこには今まで見たことがないものがあった。球状の透明な膜である。それは人間がすっぽり隠れることが出来るほどの大きさがあった。それにしても、機殻シェルにこんなものがあるとは。機械生命体である機殻シェルには似つかわしくない。

 セアラはその膜に手を触れると、水のようにセアラの手を中心に波打った。そのままセアラはその膜の中に入っていった。透明な膜なのにセアラの姿は見えなくなった。

 セアラがいなくなった後、トゥリアはしばらく考えた。ここでセアラを待っているべきだろうか。この膜が何なのか分からない以上、近づくべきではないような気がする。

 しかし。

 セアラを迎えに行った方が好感度はいい気がする。よし、入ろう!

 トゥリアは、一度決めると突っ走るタイプである。それで失敗を何度もしているがそんなことは気にしないのだ。

 トゥリアは、ゆっくり膜に触れた。冷たいとも温かいとも感じなかったが、何かに触れた感じはした。手をそのまま伸ばすと、その中は空洞になっているらしかった。トゥリアそのまま膜の中に入っていった。

 中は蒸し暑かった。それもそのはず。マグマと所々に足場がある山みたいな場所だ。本で呼んだことがある火山のような場所らしい。トゥリアは火山の麓にいるらしかった。人一人が入れる位の膜だったのに入ってみると広い。

 セアラはどこだろうか。とりあえず山の山頂を目指した。

 それにしても暑い。元々【破炎はえん】は熱攻撃に特化した機殻シェルだったらしい。そのためかどうかは分からないが、体内も温暖で、なおかつそこら中に装置があり、エリア一帯の温度をコントロールできる設備がある。食材を保存する場所なら温度を下げられるし、洗濯物を乾かす時は温度を上げればいい。

破炎はえん】では、その特徴を生かして、農業が盛んだ。牛や馬などを育てている農家が多い。また半機植物マシンプラントと言って半分機械で出来ている植物がある。これは地面が機械でも生えて、実をつける。実際、食べてみると半分機械なのに普通に食べられる。【破炎はえん】では半機植物マシンプラントの栽培も盛んだ。この世界では、肉は高級で、普通の食事は半機植物マシンプラントの葉や実を食すのが一般的だ。

 しかし、そんな温暖な【破炎はえん】でもここの暑さはトゥリアが今まで感じた暑さの中で一番の暑さだった。

 そんな事を考えているうちに、頂上近くまで来た。どうやら山自体はそんなに大きくないらしい。その場所は火山なのに火口がなく、代わりに大きな機があった。樹は青白く光っている。

 どうやら半機植物マシンプラントではないらしい。半機植物マシンプラントなら機械じみている

から分かるが、これは普通の樹のように見える。と言っても、トゥリアは普通の樹を見たことが無いが。

 辺りを見回してみる。しかし、セアラはいない。違う場所を探してみるか。そう思ったときだった。

 ざぁっ。

 樹が風など無いのにざわめいた。まるでトゥリアに「触ってごらん」と言っているようだった。

 トゥリアは何となく樹に近づき、触れた。この時のことをトゥリアはあまり覚えていない。ただ、誰かに操られたように気がついたら樹に触れていたのだ。途端に樹が先程よりも強く光り始めた。いや、輝いているといった方がいいくらいだ。

「ちょっと、あんた!」

 ハッとして後ろを振り返ると、セアラがいた。

「何でこんなところに……。って言うかそれに触んないで!!」

 セアラは、トゥリアに近づき、強引に樹から引き離した。

「やあ、俺はトゥリア・イェンだ。お近づきの印に食事なんてどうかな?」

「はあ? 何言ってんの? とにかくここから出てって!! ……あんた何したの?」

 それはぞっとするような声だった。怒りをこえて冷静になっているような声だ。

「いや、俺は君を見かけて、ただ樹に触っただけで……」

「【破炎はえん】の封印が解けかけている……。【破炎はえん】が目覚める!!」

 その瞬間、トゥリアとエアラは別の場所に飛ばされた。

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