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村長は魔王様!  作者: マカロニ男爵
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魔王様と凶兆を告げる蟲

「うわっ、デカっ!?」

「あれ、馬ですよね?」

「おう、山羊頭族って言う遊牧民が飼っている馬だな、俺と同じぐらいの体格の奴らだから大きな馬が必要なんだ」


 冒険者のミノタウロスに街を案内してもらっているエリック一行の目に飛び込んだのは、体重1tを超える大型の馬。


 人界で見る馬よりも遥かに大型の品種であり、馬かどうか疑ってしまうレベルである。


 この馬は人界、魔界を歩き回ったリヨンが知る中でも一番巨大な品種で、交易によって是が非でも手に入れたかった家畜である。


 なにせ見た目通りパワーが凄い、農業やら林業には馬のパワーは欠かせないし、この馬のお陰で大型の馬車にたっぷりの商品を乗せられる様にもなった。


 現在社会でも未だに車などの力を『馬力』と称するぐらい、馬の力は車のない世界において、様々な事業で欠かせない大事な物なのだ。


「え?、という事はその山羊頭族ってこの馬に乗ってるの?、ミノスさん並み体格で…」

「ああ、山羊頭族はやばい、あいつら普段は温厚だが怒らせると恐怖の騎馬隊に蹂躙される…」

「あの馬にミノスが乗っかって…それが突っ込んでくるわけか、うん、戦いたくないな絶対に」


 ミノタウロスのミノスは身長は2mを超える巨漢、それがあの馬に乗って集団で突っ込んでくるとか酷い悪夢である。


「この村を回ってレポートを書けと言われても、ネタが多すぎて逆に困るわね」

「でも頑張らないと、前金で魔道具貰っちゃったし…」

「それスゲーな、お前達の中で魔族共通語を喋れるのはこの小僧だけだったのにな」

「言語翻訳の魔道具か…一生懸命魔族共通語を勉強した僕の努力って一体?」

「そ、そう言うなエリック、ほらこの村の文字読めるのはお前だけなんだし!?」


 現在、エリック達はレムから新しい依頼を請け負っている。


 それはハルト村の調査、とりあえず気になった所は全部記録して報告して欲しいというアバウトな依頼。


 エリック達は少しの間ハルト村に滞在していなければならなかったので、折角だからとその依頼を引き受けたのだ。


「たった3年でここまで発展してるとはね、教育に関してはグラムヘルムより進んでるし…」

「まさか、村人全てが読み書きを習ってるとはなぁ」

「街並みも凄い清潔だし…トイレに関してはグラムヘルムは見習うべき、マジで」

「みんな窓から捨てますものね…本当は決められた場所に捨てなきゃいけないのに…」

「やばい、魔族よりも俺らのが蛮族な気がしてきた…」

「一応言っておくけどこの村だけだからな?、他の魔族の集落はこんなんじゃねーから!」


 中世ヨーロッパのトイレ事情はヤバイ。


 基本的に下水などの設備はない、それどころかみんな決められた場所に捨てるとかそういう事すらしない。


 そのまま窓から捨てるなどザラで、汚物が上から降ってくるのをガードする為に日傘やシルクハットなどが生まれたり、汚物まみれの街並みを歩くためにハイヒールが開発されたりしたぐらい衛生環境がひどかったのだ。


 古代まで遡ると下水とかあったのに不思議な話である。


 そして、この世界のトイレ事情も残念ながら中世ヨーロッパと同じなのである。


 自分達の住んでいた国と比べると遥かに綺麗なハルト村、『肥溜め』があるから糞尿も決められた場所で処理され堆肥となるから汚物が蓄積される事はない。


 魔族と称される者達がちゃんと所定の場所に汚物を捨て街を清潔に保つモラルを持ち、尚且つ皆が読み書きを覚えてるほどの学力を持っている…


 この事実は人族としてのプライドかなり突き刺さる、正直かなり凹んだエリック一行であった。


「じゃあ『肥溜め』の方も覗いてみるか?」

「あまり見たいものじゃないですけど、依頼の事を考えると見に行った方が良さそうですね」

「街が綺麗な分、其処に集まっているだろう…臭そうだ」

「実際凄い臭いぞ、だから捨てに行く時ぐらいしかあまり寄りたくはない場所だ」

「ですよねー」

「俺は大丈夫だが、時々『アレ』も出るからなぁ…女は特に嫌がるな」

「『アレ』ってなんですか?」


 何やら不穏そうな存在である『アレ』とは一体何なのか問い質すと嫌な答えが帰ってきた…


「ジャイアントコックローチだ」

「ご、ゴキブリ!?」

「しかもジャイアントってどれぐらい!?」

「うーん、大体こんなものかな?」


 ミノスが両手の幅で示した大きさおよそ1m程度である、人間よりかは小さいらしいが…


「わ、私は留守番しま…」

「ダメよプリム、冒険者になったんだから虫ぐらい我慢しなさい!」

「ね、姉さん、でもあんなサイズのゴキブリだよ!?」

「大丈夫だ、デカくてもゴキブリ…こっちを見たら普通に逃げ出すぜ?」

「飛びかかってきたりはしねぇのか?」

「ジャイアントコックローチはデカ過ぎて飛べないから安心しろ」

「と、飛ばない種類なら少し安心?」


 1mサイズのゴキブリに飛びかかられたら、ダメージを受けなくてもトラウマものであるが…幸いな事に飛ばない品種らしい。


 そもそもゴキブリ自体は飛行が苦手な生物で飛べる品種であっても上から下への滑空が精々である、自身の体が重すぎるのが原因らしい。


 たまに下から上へ飛び上がる猛者も居るらしいがそれは極めてレアケースである。


「さあ着いたぜ、ここが『肥溜め』だ」

「うお、やっぱクセえなっ!」

「でも、思ったほどよりは…」

「なんかビチャビチャしてるわね、水で薄めてるのかしら?」

「ああ、現物そのままじゃ発酵しないらしいから水で薄めてるぞ」


 汚物の集積所でもある『肥溜め』はやはり臭かった。


 この臭いでは民家から離れた場所に設置されてるのも頷ける、捨てに行く時はかなり面倒くさそうだ…


 それでも発酵も多少進んでいて、水で薄めている所為かそのままの汚物に比べれば臭くはない。


「臭いが完全に消えた頃に肥料になってるらしいぜ」

「この臭いが消えるのか…発酵ってすげぇな」

「まぁ、でもそうやって分解されないと世界は今頃汚物に沈んでるでしょうね」

「い、嫌だね、そんな世界は…」


 彼らはまだ菌類やバクテリアの存在は知らないが、発酵という現象は知っている。


 もしそんな現象が起こらない世界だったらと想像するとなんともおぞましい世界だった。


 そんな生命の循環を支える今はまだ知らない存在に感謝の念を捧げていると…物陰からガサガサと音が聞こえる。


 そう彼もまた分解者、いや分解者『だったもの』。


 ジャイアントコックローチらしき物体が物陰から這い出てきた。


「きゃあああああああっ!!!?」

「デカっ!、デカくてキモい!」

「おいおい、なんかこっちくるぞ!?」

「なんだこいつ?、妙に遅い…それにこっちに向かってくるだと!?」


 動きはゴキブリにしては遅い、体が重い事を差し引いてもゴキブリならばもっと早く走れそうなもの…

 実際にミノスの目から見ても異様に遅いらしいから、この個体が特殊なのだろう。


「ていっ!」


 だが、動きが鈍い上に1mほどある巨体はいい的である、エリックが剣で切るとあっさりと首が切り落とされる…が。


「うわっ、まだ動く!?」

「さすがゴキブリ、しぶといぜ…と危なねぇエリック!」

「うわっ!?」


 切り落とされた首もまだ動く、近くにあったエリックの足に噛み付こうと動き出したのでハンスが慌てて蹴り飛ばした。


 蹴り飛ばされた首は木に当たり、多少ひしゃげてもまだ動いている。


「どりゃあああああっ!!」

「やった…う、うわぁ…ま、まだ動いてる!?」


 ミノスの怪力から振るわれる斧の一撃が残った胴を真っ二つに切り裂いた。


 しかし、真っ二つになって尚も足の動きが止まらない、重心のバランス崩れているのでまともに走ることも出来はしないが…


「動きが鈍くもならないなんて…」

「いくらなんでもしぶと過ぎるぞ、妙に凶暴だし…何なんだコイツは?」

「ちょ、ちょっと待ってください」


 ゴキブリとは言え余りにもしぶといので怪訝に思う一同。


 そんな中、ゴキブリ相手にパニクっていたプリムが落ち着きを取り戻し何かに気がついたらしい。


「まさかとは思うけどこれは…少し試してみます」

「何か解ったのか?」

「――光の神ルクスの御名において輪廻を歪めし邪法を祓い哀れなる魂に救いあらんことを――」

「そ、その詠唱はまさかっ!?」

【浄化】(ターンアンデット)!!」


 プリムの聖印が輝き、光がジャイアントコックローチの遺体を貫くとあれだけ動き回っていたにも関わらず、糸が切れた人形のようにピタリと動きが止まった。


【浄化】(ターンアンデット)が効いた…効いてしまいました…」

「なるほど、アンデットだったわけか、どうりで死なないわけだぜ…で、効いちゃ不味かったのか?」

「虫がアンデット化していた…ってのが拙いんですよ」

「そうなのか?」

「はい…」


 分かっていないミノスに対してエリック一行は全員顔を青くしている…

 アンデット化した虫の一体何が拙いのか、その問に代表して神官のプリムは答える。


「まず、自然環境において虫はアンデット化しません、彼らは無念とか妄執とかが薄いので死後に怨霊になって現世にしがみつくような真似はせず、直ぐに輪廻の輪に還ります」

「ああ、そう言う感情がなきゃ化けて出るって事もないのか」

死術師(ネクロマンサー)が使役する場合においても、通常は昆虫などを対象には選びません、アンデットの強さは抱える怨念の強さに影響されるので、虫が素体ですと強いアンデットにはならないからです」

「うん?、自然発生でもなきゃ死術師(ネクロマンサー)の仕業でもないとなると、コイツは何なんだ?」

「考えられる事は昆虫ですらアンデット化してしまう強力な呪物か何かが暴走してアンデットを生み出し続けている…そういう状況です」

「な、なんだと!?」

「だから拙いんだ、虫のアンデットはアンデット大量発生を報せる凶兆だ」


 虫のアンデットの恐ろしさを理解したミノスは慌て出す。


「ま、まずい、まずいぞ…ジャイアントコックローチは森に住んでいる…森には妹がさっき遊びに行っていたんだ…」

「ええっ!?、そ、それは危険よ、探しに行かなきゃ!」

「森って木こりの人達も居ますよね、避難させないと!」

「と言うかリヨン様にも知らせないと不味いんじゃ!?」

「…よし、足の速いハンスは急いでリヨンさんに報告を!、残りのメンバーでミノスさんの妹さんの探索と、木こりの人達の避難を!」

「「「了解!」」」

「ミ、ミウ…無事でいてくれよ…」


 かくして、平和なハルト村に凶兆を告げる虫の知らせが舞い込んだ…

アンデット化した昆虫系のモンスターってあまり聞かないですよね。


この話だとこういう理由で滅多に居ないという設定になりましたが…

あれかな?、アンデットらしい表現が難しいからかな?、腐ってる虫とか見た事ないし…

骨だけになる=外骨格だけだから外見上の変化も乏しいからなぁ。

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