表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
村長は魔王様!  作者: マカロニ男爵
31/36

魔王様と子供達

「で、これらのルーンに魔石から魔力を供給してやると、この金属板がこのように回りだすのだ」

「なるほど…」


 屋台祭りの後にハルト村周辺の治安もやっとこさ落ち着きを見せ始めて、束の間の平穏が訪れた。


 最近ではコボルト達もアンリの手を借りずに農業や教育などを回せるようになり、社畜まっしぐらだったアンリにも多少は空いてる時間を作れるようになったので、リヨンはアンリに新たに『錬金術』を教え始めたのだ。


「錬金術って金を作り出す学問だと聞いていたのですが…実際には全然違うのですね」

「いや、まぁ…確かに始まりは安い金属を金の様に見せかける加工から始まったのだが…」


 最初は偽物の金塊を作り出すインチキ技術だった『錬金術』ではあるが、金の偽造に対する摘発と調査により判明されたその技術は古代遺跡より発掘された技術を応用したものであった。


 その事件が切っ掛けとなり、その古代文明は『錬金文明』と呼ばれる様になった。


 その後も冒険者達の手によって錬金文明時代の遺跡の発掘と研究は進み、その文明は現在よりも高度な技術を持ち消失半世紀(ロストメモリー)の直前まで続いていた事も判明した。


 現在の『錬金術』とは、この錬金文明の研究によって得られた技術全般の事を指しているので凄まじく広い裾野となっている…同じ錬金術師でも全然違う分野を研究しているなどよくある事だ。


「合成や魔術的加工で新たな金属を生み出すのも、ゴーレムのような魔導生物を作成するのも、今みたいに魔石を使用して稼働する装置を作るのも…全てが錬金術の範囲なのだ」

「そ、それは、恐ろしく幅広い学問なんですね…私などに修められるでしょうか?」

「アンリの才には問題ないが、師となる私に不足があるな…錬金術は専門外だからな」


 リヨンの錬金術に対する知識は冒険者として遺跡を発掘してたのと、仲間の一人であるレムが錬金術の専門家であったためその知識を聞きかじった…その程度の物である。


 それでも好奇心旺盛で古代文明の言語まで修めてるリヨンは一般人とは比べ物にならない知識を持ってはいる、いるのだが…それでもアンリと言う天才の器に見合う師になるには到底及ばない。


「だから、私が教えるのはあくまでさわりだけだ…もし興味を持ったら専門の師から学んだほうが良い」

「は、はい…あの魔王様、錬金術を修めれば、私は魔王様のお役に立てるのでしょうか?」

「もう十二分に働いてくれていると思うが…そうだな、農業を安定させた今、そろそろ手を伸ばしたい分野である事は確かだ…ここで遅れを取れば人界の技術に追いつく事は夢のまた夢だからな」


 アンリの働きもあり、たった3年でハルト村は人界の農業水準に追いついたと言う自負はある、しかしここからが問題なのだ…


 農業はリヨン自身が積極的に研究していた分野であるが錬金術は違う、王である自分が詳しくない分野を伸ばすためには他者の知識に頼らなければならない…技術的な発展に関してはここからが難関なのだ。


 そして錬金術は必要だ、この技術が無ければミスリルも加工できないし、人族が持つ飛空艇などもこの錬金文明の遺産であるし、研究が進めばさらに凄い技術が生まれていくだろう。


 この技術の存在こそリヨンが『魔族はやがて駆逐される』と結論づけた最大の要因である、この技術は魔族の個の力など簡単に蹂躙出来る程のポテンシャルを秘めているのだ。


「分かりました、非才の身ではありますが精進させていただきます」

「うむ、とは言えまだまだアンリも忙しいからな…お前が少しこの村を離れられるようになるまでコボルト達を鍛えねばならない…新世代に期待だな」

「そうですね、いっぱい生まれました…コボルトさんの子供達」


 アンリが非才だとすれば天才とはどんな化物なのか想像もつかないが、その辺りを訂正してもアンリが恐縮するばかりなので言わない、リヨンはアンリが謙虚過ぎるのを矯正するには長い時間と実績が必要だと結論づけているからだ。


 そして新世代、ハルト村には去年辺りから生まれたコボルトの子供達が大勢いる。


 コボルトは下級魔族の例に漏れず多産だ、犬と同じように一度の出産で5~6人の子供を産む、これは過酷な魔界で弱い種族に共通する特徴で子孫を多く生むことによって種を存続させてきたのであろう…ゴブリンの繁殖力は少々過剰すぎる気もするが。


 そんなコボルトの子供達、魔界の環境下ではほとんどが生き残らないのでコボルトが大繁殖すると言う事は滅多にないが、ハルト村は安全であり、食料も豊富で、更には変態どもから薬剤知識を手に入れたので医療も充実、肥溜めの効果で衛生状態も良い…と、子供達が生き残るには十分な条件が揃っていた。


「子供を含めるとハルト村の人口は現在1500人以上…だが、コボルト以外の種族は未だに100人に満たない」

「ハルト村って実はコボルトの集落だったのでしょうか?」

「それに人口が1000人を超えたらそろそろ『村』ではないような気がするのだが…」

「未だに皆さん村って言ってますよね、魔王様を『村長』と呼ぶ人も多いですけど『町長』って呼ぶ人もいませんし」

「家の村、ほぼ農場だからなぁ…市場もあるけど農場に比べたら規模が小さいし」

「確かにそうですね、魔王様も『村』と呼んでますし」

「もう、家の村は永久に『村』でも良いんじゃないかなぁ?」

「分かりました、今後とも『村』で行きましょう」


 こんな他愛もない会話でリヨンは魔王以外の肩書きが『村長』で永遠に固定されたに事にまだ気がついていない…今後ハルト村はどんな規模になっても『村』なのである。


「だが、コボルトの子供達は今後のハルト村の希望だな、人手不足も大幅に改善されるし…何より成長が早いから学習能力も高い」

「子供達もすぐ読み書き出来るようになりましたね」

「うむ、コボルトの寿命は20~30年ぐらいで3~5年で成人になるからな…今の時期が一番伸びる時期なのだろう」

「それにとても可愛いです、ちんまりしててふわモコしてて」

「うむ、ペイロンじゃないが思わず抱きしめたくなる愛くるしさだ」


 ただでさえモフモフで可愛いコボルト達だが子供となるとその可愛さはさらに凶悪になる。

 別にコボキチではないリヨンやアンリでも、ついついほっこりしてしまう程に愛くるしい…


 ペイロン(コボキチ)に至っては余りの可愛さに悶絶しながら「竜生(じんせい)で一番幸せです」とかほざいていた、余りにもキモかったので子供達から隔離したら泣いた、割と号泣だった。


 そんなふわモコの天使達は可愛いだけではない、最も成長する時期に教育を受けられる環境で育った彼らは今の世代のコボルト達よりも高い教育水準で大人になるであろう、そしてそんな彼等に育てられたその孫達は更に…と、ハルト村の教育は更なる発展を迎えるであろう…


「覚えも早いし、基本的な計算も教えてみるのもいいかもな」

「子供だと非力すぎてまだ出来る仕事も少ないですし、教育に重きを置いてもいいかもしれませんね」

「うむ、一定以上の教育水準に達した者は役人として迎えたいしな…商業も今後伸びていくとなると、税の管理やらで役人も必要となっていく…」

「それは確かにです、最近は書類仕事が増えました」


 文明が発展し社会が大きくなって行けば、それに比例して管理の手間は増えていく。


 交易先も増え商談自体はチェリーのドリーム商会が行っているとは言え税の管理は村の仕事だ、経済規模が大きくなればそれだけ仕事は増えていく、農場だって収穫物は一度村で買い上げて貨幣で支払い市場に流すシステムをとっているので膨大な作物を管理するのも大変だ。


 今後は村の経営の為にも読み書き以上に高い教育を受けたエリートが必要になっていくだろう、子供コボルト達にかかる期待は大きい。


「そうなってくるとコボルトの教育制度も改めたいな…1歳から読み書きや算術を教えて、2歳からそれぞれの分野の専門的な教育を受けさせて社会に出すとか」

「それぞれの分野とは?」

「うーん、色々あるな、農業でも商業でもいいし、ドワーフ達から職人技術を学んでもいいし、私が社会学を教えて官僚にしてもいいし、先程言っていたの錬金術も広めたいし」

「ほ、本当に色々ですね、私も錬金術を頑張らないと…」

「アストリアの皇帝も言っていたが『国家とは人、人材は宝』なのだ、質の良い人材を多く抱えた国家ほど強くなれる」

「な、なるほど…魔王様はアストリアの皇帝陛下にもお会いしたことが?」

「と言うか、求婚された事がある」

「ええええええっ!!?」

「無論断ったがな、后なんぞになったら目的が果たせないし…何よりあの皇帝、才のある女性を見ると直ぐ口説く人材フェチなのだ、実際に同じPTに所属したレムも口説かれて結婚したし」

「れ、レム様はそれを承知で結婚したのですか?」

「うむ、「スポンサーになってくれるならOK」の二つ返事だった」

「それで結婚成立しちゃうんですか!?」

「その件に関しては私だってどうかと思うが、本人達は納得してるんだよなぁ…」


 開き直ったエルフこと旧姓レム・スーミア、現在のレム・アストリア第三王妃…美食街道(グルメロード)唯一の既婚者である、一応。


 リヨンにも求婚していたその皇帝もどうかと思うが、お金の為にそれを受けたレムはもっとどうかと思う。


 いや、金や権力に惹かれて結婚すること自体は良くあるだろう…が、その事を思いっきり宣言して王妃になったとなると異常過ぎる、やっぱ夫妻ともに恋愛観念がどうかしている。


 まだ子供で、そういった欲はあまりないアンリには全くもって理解できない世界である。


「未来は子供たちが作るものとは言うが、なるほど子供が生まれてくると色々と先が広がるものだ」

「そうですね、子コボルトさん達には期待が膨らみます」

「そう言うアンリもまだまだ子供なんだ、今後も期待させてもらうぞ」

「はい魔王様!、私がお役に立てるのならば精一杯努力させていただきます」

「うむ」


 そんな未来を切り開く愛しい我が子を眺めながらリヨンは悩む。


 この才能を十分に開花させるにはこの村は狭すぎる、自分では教えきれない事も多い。


 外に出してもっと色んな事を学ばせるべきだと思う…コボルト達も色々出来るようになり、村の治安も安定してきた今だからこそアンリは巣立ちの時期なのかもしれない。


 そして錬金術を学ばせるのならば、自分はおろか人界においても最高峰の頭脳を持つ人物を知っている、知ってはいるんだが…


(アンリをあの開き直ったエルフに預けるのは不安なんだよなぁ~)


 だって情操教育に悪そうだし、皇帝も求婚してきそうだし…あの帝国は中々の魔境だ…


 可愛い子には旅をさせろというが、可愛いからこそ難しいものだと、リヨンはため息をついた。

次回、ようやく美食街道(グルメロード)の最後の一人が出てくるかも?

ご覧の通りかなりアレな人物ですが。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ