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村長は魔王様!  作者: マカロニ男爵
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魔王様と冒険者

「ち、畜生…警備隊訓練が終われば暇になると思っていたのにっ!」

「はっはっは、甘いぞトール!、ハルト村で怠ける暇があると思ったか!、はいこれ依頼書な」


 冒険者の宿『赤犬亭』の一角で頭を抱えるトールに無慈悲にも大量の羊皮紙が積まれていく…これらは全て冒険者への依頼書である。

 リヨンはハルト村周辺で起きたトラブルを対処して貰うために冒険者ギルドを活用することにしたのだ。


「こんなに大量にかよ!?、今までの倍はないか!?」

「魔族は人族より血気盛んで、デフォルトで山賊もどきだからな!」

「警備隊は?」

「良くやってはくれてるが、圧倒的に人手が足りん」

「…だろうな、むしろコボルト200名だけで良く村の中だけでも守れてるものだ」


 魔界で交易を始めるに当たって最大の壁となるのが治安の悪さだ、何せ略奪を是とする神が居る、争いを推奨する神が居る、そして何よりも貧困である。


 その血と血以外にも飢えた者達が大多数を占める魔界に現れた食糧生産地であるハルト村、しかも住む者の八割がコボルトと弱い人族で構成されている集落である。


 鴨、圧倒的に鴨である、鴨がネギをしょって鍋の中でスタンバイしてるレベルで鴨なのだ。


 ハルト村はアントヒルと同盟を結んでいるから、流石に全面戦争を仕掛けて全てを奪い尽くそうという勢力は現れない。


 この辺りに住む魔族は魔界奥地で戦乱に明け暮れる魔王達に破れた敗残兵や逃亡者達なので、アントヒルを敵に回せるような強い勢力は存在しない。


 だが、そのアントヒルでも広域に散らばり山賊と化した魔族達を全て抑える事は不可能なのだ。


「ほぼ毎日と言って良いほど賊が現れるもんなぁ~」

「独房も全然足りないし、強制労働に就かせようにも数が多すぎてなぁ」

「そうなってくると、やっぱ冒険者ギルド(うち)の出番になってくるのか」

「そういう事だ」


 人界においても冒険者とは夢を追う若人よりも、食うに困った社会の底辺層が登録することの方が多い職業である。


 悪い言い方をすれば犯罪者予備軍、その予備軍が犯罪者になる前に犯罪者を倒して金を得る仕事を与える事によって治安を守る、これもまた冒険者ギルドの社会における役割なのだ。


 魔族は犯罪者予備軍である山賊もどきが全人口の殆どを占めると言っても過言ではない、そんな世紀末な世界を少しでもマシにする為には冒険者というシステムを導入するのは理にかなっていた。


「しかし、依頼書も依頼料も景気よくポンポン出すなぁ、金は大丈夫なのか?」

「問題はない、むしろこれによって貨幣が広まる事で商売やってる家の村は更に儲かるようになる」

「そっか、金を使える所がこの村しかないのか」

「一応、アントヒルでも使われ始めてるが…この魔界で圧倒的な需要を誇るのは食物だからな」

「家の村の大農園が守られてる限り経済は揺るがないと」

「うむ、そして我が村には最強の切り札がある!」


 リヨンはふふんとドヤ顔で胸を張りながらある方向を指し示す、其処には…


「はむ、はふぅ、はふっ!、う、うんめええぇぇっ!!」

「もうこの村の料理しか食えねぇぜっ!、金だ、金を稼がねば!」

「ガッハッハ、戦いで稼いで美味いメシ、旨い酒にありつけるとは天国みたいな村だぜぇ!」

「酒!、飲むことを止められないぃぃ!!」


 ハルト村の料理と酒の味にハマった中毒者(ジャンキー)達がいた。


 そう冒険者ギルドは『赤犬亭』にある、そしてこの店の料理は人界でも上位のレベル…一部食材においては人界を凌駕する品質を誇るのだ。


 人界にあっても充分繁盛出来るクオリティの店だが、魔界にあった場合は更にヤバイ。

 ここの味を知ってしまったらもう魔界飯には戻れない、戻りたくない、冒険者に就いた魔族達は一夜にしてここの料理の虜となり、更にもっとここの料理を味わうために危険も顧みずに必死に稼ぐようになる。


 そう、リヨンの言う最強の切り札とは『美味いメシ』の事を指すのだ。


「食に対しての執着は人の事を言えんが、マジで凄まじいな…」

「本人達も満足してるし、麻薬と違って逆に健康になるから幸せ、我々も彼等が村に金を落として経済が回るから幸せ、うむ、完璧な相互利益関係ではないか」

「お、おう…でも、冒険者が増え続けて流石に『赤犬亭』だけじゃ料理を賄いきれなくなって来たぜ?」

「その点ならば心配はない、『食』は当初から目をつけていた武器だからな…これを見ろ」


 自信満々にリヨンは一枚の羊皮紙をトールに渡す。


「これは…広告?、えっと、なになに『第一回ハルト村屋台祭り』!?」

「うむ、コルトにはこの村に来た当初から多くの弟子を育てさせていてな、弟子達による屋台料理の大会を開き、このイベントで優秀な成績を残したものには店を建ててやると言う企画だ!」

「そりゃまた随分と太っ腹な…」

「元々飲食街を作ろうと思っていたからな、魔界育ちゆえに美味いメシへの渇望はよく知ってる」

「で、どうせならイベントにして稼ぎを建設費に回すってか?」

「うむ、チェリーの発案だが中々いいだろう?」


 確かに元々建設予定であるのなら、この手のイベントは悪くない。

 イベントの稼ぎで建設費が浮くし、新しく建てる店の宣伝にもなる…飲食店の需要はこの店に居れば痛いほどによく分かる。


 何せ今も厨房は戦場だ、最近では朝から晩までずっと満席でコルトは必死に料理を作り、スタッフも慌ただしく走り回っている。


 これだけの需要があればイベントも成功するであろう…が。


「イベントは悪くないが、問題は警備だな…この手の祭りは盛り上がるほどに警備の負担が増えるぞ?」


 コボルト警備隊は本当によくやってくれている、格上の相手にだって力を合わせて検挙をしてくれる。


 だからこそこれ以上の負担は厳しい、死傷者が出て戦力が落ちる自体などになったら今後の治安維持のも大きな問題が出てきてしまう。


「蟻人族にも応援を依頼してるが、冒険者達にも働いてもらうさ」

「なるほどね…で、この量の依頼書か」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」


 トールとリヨンが屋台祭りの企画について話していると、話を聞いていた冒険者のケンタウロスが横から口を挟んでくる。


「そんな祭りなら、俺は働かないで一日中楽しみたいのだが…」

「なら依頼を受けずに楽しむが良い…が、一日中豪遊できるほど金を持ってるのか?」

「うっ、そ、それは!?」


 貨幣を覚え始めたばかりの彼等にはまだ貯金という概念はない。

 いや、仮にあったとしてもその日暮らしの冒険者が人生観が変わってしまうほどに美味い料理を前に貯金など出来るはずもなかった。


 そこにコルトが厨房から顔を出して魔族の冒険者達に声をかけてくる


「僕の弟子達は戦闘も出来ないし、皆さんに守ってもらわないと料理作れなくなっちゃいますね」

「な、なんだと!?、それじゃあ俺達の食べる分はっ!!?」

「流石に死者は料理作れませんし、屋台を破壊されたら祭りも中止ですね」

「なんてこった、そんな真似させてなるものかっ!!」


 コルトも弟子達が心配なのだ、ここはなんとしても冒険者達のやる気を引き出さねばいけないと考える。

 そして普段から冒険者達と店主として接してるコルトはその方法を熟知していた。


「これはダニエルの試作品の鳥の串焼き、ジューシーで柔らかな鶏肉に香辛料の香りを移した油を仕上げにジュワッとかけて表面もパリパリに仕上がって…僕から見ても良い出来なのですが、そんな事態が起きてしまったらこれも…」


 当日出る料理の説明をしながら、その串焼きを目の前の魔族達の前で作ってみせる…


 この村の鶏肉は美味い、この店の中毒者(ジャンキー)と化した冒険者達は生唾を飲み込むほどにそれをよく知っている。


 その鶏肉に香辛料の香りと共にアッツアツの油がジュワッとかかり、パチパチと音を立てながら鶏の表面をパリッと揚げる…その香りと音はもはや食欲に対する暴力である。


「お、おい、あれ絶対にエールと合うぞ…」

「アレが食えなくなるとかマジかよ…」

「冗談じゃねぇ!、祭りを邪魔する奴は全員血祭りに上げてやるぜぇ!」


 魔族達の食欲…じゃなかったやる気に火が灯る、そこへとどめの一言。


「警備依頼参加者にはこちらの試作品はサービスしますよ」

「うおおおおおっ!、依頼を受けるぜぇ、トールの旦那ぁっ!俺を登録しろぉぉっ!!」

「こっちもだぁ!、あとエールを追加でもう一杯!」

「安心しろコルト、俺達の料理…じゃなかったお前の弟子には指一本触れさせないぜぇ!」


 この一言によって依頼に殺到する冒険者達、そう、彼等は一匹のコボルトによって完全に胃袋を掴まれてしまっているのだ。


「なるほど、確かにこりゃ最強の切り札だ…おーい、登録はしてやるから少し落ち着け~」


 自分も執着はしていた『食』と言うものが持つ力を改めて認識したトール…


 三大欲求とはよく言ったもの、魔族を…いや、生きるもの全てを動かす力が『食』にはあるのだ。

はたして治安は大丈夫なのか!?


それ以前に料理の表現は大丈夫なのか!?


もちろん実際には作ってない!


実際作ってうまいなどと言う保証はないから注意が必要だ!


と言うかうっかり存在してない調味料とか間違って出したりしないのか!?


そんな様々な不安を抱えたまま…


次回『魔王様と屋台祭り』!


なお、タイトルと内容は投稿時の気分で変わります。

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