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村長は魔王様!  作者: マカロニ男爵
23/36

魔王様とお薬

「さて、法で裁くと言って見たものの法律がまだないぞ、どうする?」

「無難に死刑でしょうか?」

「アンリ様を傷つけたのだし縛り首が妥当かと」

「コボルト達の殺意が酷くない!?」

「気持ちは分かるが、暴行とセクハラだけで死罪判決を出すのもなぁ…」


 朝っぱらから騒ぎを起こした変態どもは簀巻きにされ村の広場に吊るされたいた…

 さて、裁判を始めようと思ったのだが、そもそも法律がまだハルト村に無いと気が付き会議が始まった。


 アンリにまで被害が及んだ為にコボルト達の判決は異様なまでに厳しかった。


 しかし、許されざる犯罪だったとは言え殺人や放火レベルの重罪ではない、コボルト達の案を採用するのは今後の事を考えるとちょっとマズイ。


「魔王様を侮辱したのですから、それなりに重い刑が妥当だと思います」

「あ、アンリもだいぶ怒ってるようだな、で、それなりに重いとは?」

「メリッサさんの【重過ぎる愛】(ヘビィ・ラヴァー)をかけて発酵中の肥溜めに沈めるとかどうでしょう?」

「それ実質死刑だからっ!、しかも凄くエグい部類のっ!!」


 リヨンが恥ずかしい目に合わされた所為でアンリもとても怒っていた。


 因みに発酵中の肥溜めは摂氏70度の高温に達するので普通に死ねます。

 多分、最悪な死に方ランキングで上位の位置に行けるほどに酷い死に方であろう…


「後始末大変そうだし、堆肥がダメになるかも知れないから却下で」

「う、その点は失念しておりました、ごめんなさい」

「我等の命は肥料以下!?」


 もちろん肥料以下です、ウ○コは農家の財産だが、こいつらは害にしかならない犯罪者である。


「チェリーはどう思う?」

「乙女を辱めたのですから、それなりの賠償金を請求したいと思います」

「ふむ、賠償金か…ところでお前たち金は?……ないか」

「金のボールなら二つ付いてます」

「もぐぞ?」

「ごめんなさい、お金無いです、もがないでください」


 見るまでもない、持ってないというか身ぐるみすらない。

 魔界の森林の中に住む裸族の変態に支払い能力を期待するだけ無駄であろう。


 余計な事をほざいたから、軽く脅しをかけて案を却下する…が…


(う~ん、でも賠償か、なんか引っかかるな…)


 賠償という言葉を聞いて何か思いつきそうで思いつかない。

 何でこんなアホの為に悩んでるんだろうと言う徒労感が思考を鈍くしているのかもしれない。


「トールはどう考える」

「俺か?」

「うむ、治安部隊の長としての意見を聞きたい」

「(あれ?、訓練すると言ったけど責任者になったっけ?)あー、うーん、えっとだなぁ…」


 トールは生前の事を思い出しながらどうするべきか考える。


 直ぐに出た結論は『こいつらは面倒臭い』


 彼等がアホだからとかそう言う理由でなく立場が面倒臭い、そう考えた。


 元の世界の基準で考えるのなら、こいつらは外国籍の宗教家で思想信条の自由をもって変態行為に及んでいる。


 犯罪なのは間違いはないが、こう言った相手の取り締まりには煮え湯を飲まされた経験しかない。


 迂闊に手を出すと権力の横暴だとか騒ぎ立てる上に外交問題まで関わってくる連中、これをどうするかとか考えるだけでも頭が痛くなる。


「リヨン、こいつらは一応外国…と言うと大げさだが村の外の連中で、しかも近くに集落があるとなると、一応外交問題とも言える話だから、そう言った政治的判断も要ると思うぞ?」

「ぬお!?、トールから意外と知的な返答が!?」

「俺を何だと思ってやがる…と言う訳で、こいつらの始末は向こうとの始末の付け方も考えてお前が決めるべきだと言うのが俺の考えだ」

「え?、要するに丸投げ?」

「治安維持部隊の役割としてはここまでだ、警察が勝手に司法や政治的な判断を下したら秩序が滅茶苦茶になるぞ?」

「それは確かにそうだな…うーむ」


 丸投げと言えば聞こえが悪いが、これは確かに官憲が判断を下すべきではない分野の話だ。


「しかし、外交か…余り考えたくはなかったが、今後の事を考えるとこいつらの本拠地をどうするかも考えないとなぁ…」

「こいつらは戦力的にはどうなの村長さん?、正直、武力は大したことなさそうだけど」

「殲滅はメリッサ一人で余裕だな、ただ今は時期が悪い、周辺と友好的に交易を結んでる最中に気に食わないからって勢力一つ叩き潰すのは余所の集落への心象がな…」

「魔界じゃそれが普通だけど、村長さんは今までとは違う関係を作ろうとしてるからそれがネックになるって事かしら?」

「そういう事だメリッサ、殲滅は最終手段になる」

「うーん、ホントこいつら面倒くさいわね!」


 ぶっ飛ばすのは簡単だけど、それが他の大事な目的への妨げになってしまう。

 しかし、ここまでされたのに何もせずに許すのもよろしくない…相手は調子づくし周辺からも舐められてしまうだろう。


「魔王様!、迷惑料としてあの不思議な聖水の製造法を聞き出すのはどうでしょう!」

「そうです、あの聖水を我らの手に!」

「…貴方達はまた地面に埋まりたいのかしら?」

「あ、い、いえ!、そ、そうじゃなくてメリッサさん!」

「こいつらそれぐらいしか価値あるものを持ってなさそうなので!?」

「確かにアレを作り出した技術は凄いが、あんなものを貰っても……あ!」

「魔王様、どうしました?」


 カインとアベルが何時もの様に馬鹿なことを言い出したが、意外にもそこに答えがあった。

 そう、技術は凄いのだ、あんな聖水は要らなくても技術そのものには価値が有るのだ。


「おい、貴様等…あれは『薬品』と言ったが、あれ以外の普通の薬も作れるのか?」

「は、はい、そりゃモチロン!」

「我々はこの格好で暮らしているので病気になりがちです、故に様々な薬剤技術を身につけました!」

「技術付ける前に服を着ようよっ!?」

「それは我々の信念に反しますので、無理」

「いつか来る、そう信じている女性信者の為にもこの程度の苦難は試練として乗り越えてきました!」

「駄目だこいつら…努力の方向性が間違ってる」


 ハルト村周辺の冬は厳しい、日本で言う東北地方並みに雪が降るのに、それなのにこいつらは裸なのである。


 そんな非常識な環境を、非常識な執念で生き残ってきた彼等だからこそ、非常識な薬剤知識が身についたのであろう、非常識な話ではあるが。


「病気ばかりは回復魔法でも治せんからな、賠償として薬学知識と薬剤を要求しよう」

「それならば我等と交易を結べば良かろう?、最近ここはそうしてるようだし…」

「いや、今日、本日をもってお前達の宗派を禁教と定めたから無理」

「権力の横暴だー!!」

「民意を無視するなー!」

「じゃあ多数決、反対の者いるか?」


 しーーーん


 誰もいない、一応変態宣教師どもが手を挙げてたが参政権が無いので無視された。


 流石のカインとアベルも禁教に対しては反対はしない…

 女体は見たいが見苦しい男の裸なんて見たくないという現実的な判断であった。


「よし、ではこいつらの本拠に交渉しに行くぞ、戦える者は付いてこい!」

「了解、面倒くさいしとっとと終わらせましょうね、村長さん♪」

「俺も行くか、コボルト警備隊はまだダメだ、お前達には実戦はまだ早い」

「面白そうですので、私も行きますか」

「あ、駄龍(ペイロン)、お前居たんだ」

「失礼な!、ずっとこの村に居ますって働いてないだけで…」

「私の部下じゃないとは言え、仮にも古龍(エルダードラゴン)がずっとニート生活もどうかと思うぞ?」

「何を仰るのですか、ドラゴンなんて大体がニートです」

(え、古龍(エルダードラゴン)って我等に対して過剰戦力過ぎじゃね!?)


 今まで出番がなかった古龍(ニート)も仲間に加え、敵地に乗り込むのハルト村の戦力はたったの4人!


 まぁ、この中では最弱であろうメリッサ一人でどうにでもなる相手だから問題は何もないが。


「いやぁ、メリッサさんと戦列を共にするのなんて何時ぶりでしょうかね?」

「う~ん、多分、ライオス様自らが出陣した死術王ネイガスとの戦争以来かしら?」

「150年ぶりってところですか」

「八旗将一の怠け者と穏健派だからなぁ、そりゃそうそう組まんだろうなぁ」

「そんな連中の向かう先がこんな変態達の巣だとか…」

「あ、あの、我々滅ぼされたりしませんよね!?」

「交渉次第?」

「ご、ご慈悲を~~!!」


 一応、ライオスの愛騎であり親友であるペイロンの地位は八旗将の長となっている。


 なので現在の戦力は魔王の幹部が2名と英雄級の冒険者が2名、なんかこのままラストバトルに行けそうなメンツである、PTの中に自称『真の魔王』が混じってはいるが。


 そんな一行はやがて、間違ってもラストダンジョンであって欲しくない変態の巣窟へとたどり着いた。


「あ、あれは我等が派遣してた宣教師達!?」

「き、貴様等、神も恐れぬ蛮行を悔いよ!、皆の者迎撃だ、聖水を構えよ!」

「「おおっ!!」」


 変態教団の連中はリヨン一行の姿を認識すると同時に迎撃態勢に移行した。


「うわっ、キモっ!!?」

「こ、これはちょっとした悪夢ね…」


 何故かブリッジの体制で股間の聖印を前方に突き出しながら四足歩行でワラワラと集まって来た。

 こんな体勢のまま器用に走る姿は最早人間とは思えない、というか思いたくない。


 戦力的な脅威度は低いがおぞましい光景にリヨンとメリッサは鳥肌が立った。


「今だ!、怯んだぞ!、聖水投下!」

「ウヒョー、濡れ透け!、聖なる状態になるがいい!!」


 聖なる状態と言うか性なる状態だろう、煩悩にまみれた性職者どもは一斉に聖水を投下する。

 しかし、不意も打たないでそんな物を投げた所で通用するような相手ではない。


「…そう言うのいいから」


 ガシャン、パリンパリンパリン!


 案の定、防壁によって全弾防がれる。


 目的があるとは言えこんな馬鹿どもの巣窟に来た事を少し後悔したリヨン

 汚物を見るような蔑んだ目線と呆れ果てた声で防壁の向こうの変態どもに告げる。


「お前達の仲間は我々に危害を加えた、我々はお前達に賠償と再発防止の施策を請求する」

「な、何を言う!、我々は聖なる教えを広めようとしているだけだ」

「そうだ!、そうだ!」


 攻撃が防がれたと言っても4人しかいない事に気を強くした変態どもは反発をする。

 それを見た、捕虜となっている宣教師達の顔は真っ青になった。


「ちょ、ダメ、この人達ヤバイから!、早く謝って!」

「このままでは我々の命が死んでしまう!、洒落で終わらなくなってるから!」

「…え?」

「だ、大丈夫だろ!、あ、相手は4人だぞ!?」


 捕虜達の訴えに、ざわざわ…とうろたえ出す変態達。

 しかしまだ戦力差は理解できないのか、強気に出ようとするものも居たが…


「うーん、いけませんね…天丼はギャグの基本と言っても、この手のやりとりはテンポ良く行きませんと」

「いや、天丼とかテンポとか何を言って…いっ…て…っ!?」

「うわひゃああああああああああっ!!!!」


 たった4人の内の一人の男が急に変なダメ出しをしたかと思ったら…急に体が膨張し始める。


 体長20mをゆうに超える巨大な体は、如何なる刃をも弾きそうなほど強い力を感じる漆黒に輝く鱗に覆われていて、その鉤爪は如何なる鎧をも容易く引き裂く事を想起させる程に鋭く、その形状は畏怖すべき生物の頂点、最強種たる『竜』の姿であった。


「あわわわわわわわわっ、ぐ、成龍(グレータードラゴン)っ!!?」

「いえ、そのような若造と一緒にされても困ります」

「じゃ、じゃあ古龍(エルダー)!?…ひぃぃっ!!」

「だ、だめだー、もうおしまいだー!、死にたくない!、死にたくなーい!」

「どうして、どうしてこんな事に…私は何も悪いことをしてないのに…」


 人界とは違い騒ぎなんて気にせずにペイロンは真の姿を現した。

 それだけで即落ち2コマの如く変態どもは全員絶望の淵へと立たされる…


 最強種たる『竜』の中でも神話の中の存在と言われている古代竜(エンシェントドラゴン)を除けば最強の存在である古龍(エルダードラゴン)


 その力は万の兵力でもどうにかなるかどうか…若しくは英雄と呼ばれる存在でもない限り太刀打ちできない存在、こんな辺境に住む神聖魔法も使えないインチキ神官達の手におえるわけがなかった。


「ケフン……では改めて問う、降伏するか?…それとも死ぬか?」


 正式にはペイロンは部下ではないので命令通り動いてくれる訳じゃないが…

 その辺りの事情を誤魔化すように一度咳払いをしてからリヨン改めて降伏勧告を行った。


「降伏します!、靴を舐めます!、足の裏だって舐めます!」

「むしろパンツだって舐めます、パンツください!」

「よし、死ね」

「あ、すいません調子乗りました、ホントごめんなさい、なんだってするから許して!」

「私達は貴方様の忠実な下僕です!!」

「本当に殺したくなるから、いちいち変態的な言動を挟むな…」


 どんな絶望的な状況でも変態性だけは捨てない神官達…

 これで捨てないのが『信仰』とか『勇気』とか『誇り』だったらカッコいいのだが、残念ながらそういった物は速攻で捨てられる性根のようだ。


「我々からの要求は3つ…村の領内にそちらの宗教を持ち込まぬ事、我々に薬剤に関する知識を開け渡すこと、我々の領内では服を着ること…以上だ!」

「み、三つ目はどうにかなりませぬか?」

「三つ目が一番簡単だろっ!?」

「ね、ネクタイだけは着用しますから、どうかそれで…」

「その格好でネクタイだけ付けてどうするんだ!、却下だそんなもの!!」

「そ、そんな御無体なぁ~」


 変な所でゴネる変態ども、古龍(エルダードラゴン)は怖いがリヨンはなんか甘そうと見てるのか意外とわがままである。


 それを見かねたメリッサは一言、リヨンに提言する。


「そ…リヨン様、見せしめに2~3人ほど間引きましょうか?」

「あ、その条件で大丈夫です!、家の外では服を着ます!」

「はい、郷に入りては郷に従えです、人として当然です!」

「家の中でも…いや、もう其処はいいか、人に迷惑かけない範囲で好きに生きろ…」

「「イエス、マム!!」」

(やっぱ、リヨン様の甘さは魔王としては舐められちゃうわよね…まぁ、そこは私がフォローするしかないかな?)


 魔王としては甘すぎる…と思うメリッサではあったが…

 リヨンがそういう魔王だからこそ自分は付いてきているのだ、だったら自分がフォローすればいい。


 今朝のらしくないリヨンより、今のらしいリヨンこそが我が主、リヨン風に言うのなら『真の魔王』なのだから。


「あー、今日は無駄に疲れた…薬学の為とは言えあんな連中と付き合わなければならんとは…」

「お疲れさん、まぁ、お偉いさんになると嫌な付き合いも増えるもんさ、流石にあんな輩は滅多に居ないと思うがな」

「気に食わない奴は全て殺すってのを辞めさせたいのだったら我慢しないとね、村長さん」

「はっはっは、前途多難ですな姫様」

「いや、まぁ…確かにそうなんだがさ、幾ら何でもロクでもなさすぎだろ…」

「ですが、魔族にはサキュバスとか淫魔族もおりますし…」

「『簒奪神ザッハール』とか、それこそ『戦競神シュラハト』の信者とかもロクなもんじゃないわねぇ」

「うわあああ、そうだった!、ああ、もうそいつら全員ミノリカ教辺りに改宗しろ!」


 あんな変態はそうは居ない、だが魔界には種族的にアレな奴らや、反社会的な宗教の信者とかがごまんと居るのだ。


 因みに『簒奪神ザッハール』とは世の中は奪い合いだと説き、略奪を是とする宗教である。

 魔界ではかなり多くの信者が居る…と言うよりも略奪したいから信者になってる奴が多い困った宗教だ。


「困難な道なのは最初から分かってたろ?」

「分かってる、分かってはいるけど…今夜は一杯飲みたい気分だ…」

「それぐらいなら付き合うわよ村長さん」

「と言うか、姫様は酒に弱いですから一杯しか飲めませんがね」


 嫌な事があったら酒を飲んで忘れたい。

 それは、世間のサラリーマンでも野心を抱く『真の魔王』でも変わらぬ心情なのかもしれない。

余りにも戦力差がありすぎてトールが何もする事もなく終わってしまった…

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