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村長は魔王様!  作者: マカロニ男爵
21/36

魔王様とはじめてのこうえき

「まさか、魔界にこんな立派な道があるなんて…」


 いよいよ、初めての交易相手である蟻人族の魔都を目指す一行。

 交易用の荷を積み込んだ馬車が悠々と走れるほどの立派な道を行きながらチェリーは感嘆する。


「蟻人族には運搬の為にこのような道を拓く習性があるのだ」

「へぇ、思っていた以上に文明が発達してるのですね」

「うむ、彼等の魔都も凄いぞ、あれが技術ではなく習性なのが残念ではあるが」

「え、えっと…技術と習性ってどう違うニャ?」

「頭で考えてやってるか、本能のままにやってるかの差だな、やってる本人達も上手く説明できないんだ…私達だって『どうやって呼吸してるの?』とか聞かれても困るだろ?」

「な、なるほど、要するに技術を学ぶことが出来ないと…」

「彼等がやってる事を理解できるぐらいの技術水準がこちらにあれば可能かも知れんがな」


 などと話してる一行の前方から、数体の黒い外骨格に覆われた、人型の蟻の様な姿…

 おそらく蟻人族であろう者達が行く手を遮った。


「ギ…止マレ!、ココハ我ラノ領域ダ」

「は、はい!」


 慌てて馬車を止めるチェリー、黒い外骨格は鎧の様で如何にも強そうな姿は正直怖かった。


「すまない、私はリヨン・レオンハルト、盟友アリアーナに用があって参った…取り次いでは貰えぬだろうか?」

「ギ…リヨン、ワカッタ、今、アリアーナ様ニ確認スル…暫シ待テ」

「うむ」


 蟻人属はこちらを襲うわけでもなく、話せば応対もしてくれた。

 喋り方に抑揚がなく人間味が感じ難かったが、その応対はきちんと統率された軍の検問そのものであった。


「よかった、いきなり襲われる事はなさそうですね」

「今の女王…アリアーナは平和主義者だからな、先代の女王だったらこの時点で襲われてただろう」

「ひえぇぇ、よ、良かったニャ、今の女王様で…」

「ギ…確認デキタ、デハ客人ヨ、コチラヘ」

「え!?、早い!」

「蟻人族はフェロモンの匂いで通信を行ってるからな、こういった連絡はかなり早く済む」

(この種族…敵に回したら結構ヤバイんじゃ…)


 人間の軍の様に統率された屈強な魔族の種族、しかもその数は1万にも及ぶとなると…

 チェリーの想定通り、蟻人族は単一民族で構成された魔都としては最大級のコロニーであり、魔界でも上位の武力を誇る魔都『アントヒル』に喧嘩を売る魔族などそうはいない。


「ギ…客人、ココガ我ラノ魔都アントヒル」

「ギ…女王様ノ元、案内スル」

(ち、地下帝国!?)


 入口は地下へと続く大穴であったが、その中は驚く程に広大で…


(ひ、広いだけじゃない、明るいのはヒカリゴケ?、落盤も起こさないように土壁も固めれれてて…)


 ただ広い穴ではない、確りと固められた壁、しかも木や石で補強もされている…

 それどころか居住地だと思われる石で建てられた『家』もあり、ヒカリゴケで街中が照らせれている。

 これはまさに地下に建造された大都市そのものであった。


「凄いだろ?」

「す、凄いニャ、一体どうやって作ったニャ!?」

「………」


 ミーシャの質問に押し黙る蟻人族の案内人。


「あれ?、ミーシャ聞いちゃいけない事聞いちゃったかニャ?」

「これだけの技術よ、外に漏らして良いわけが…」

「エット、コウ…がーッテ掘ッテ、ぴきーんト感ジタラ、ずしゃート石ヲ積ンデ」

「「あ、はい」」


 なるほど、これが習性かと今の言葉で納得したミーシャとチェリー。

 もちろんどうやって建てたのかかなんて誰もわからない、それこそトールの元の世界の研究者でも連れてこなければこの建設技術は解き明かすのは無理だろう。


「この街って外と違って暑くも涼しくもないニャ」

「それに空気も澱んでないわね、地下なのに不思議…」

「ギ…無数ノ穴ガ、外ノ空気ヲ取リ込ンデ調整シテル、ココ、ズット同ジ温度」

「凄い!、どうやって調整を!?」

「何カ、コウ風ヲ感ジテ、ぴきゅーんト来タラ?」

「あ、はい」

「ギ…温度調節シナイト、キノコ育タナイ」

「キノコ!?、キノコを栽培できるの!?」

「ギ…何カ、出来ル」

「習性って凄いニャ…」

「キノコの栽培なんて私たち人間でも出来ないのに…」


 我々の世界でもキノコの人工栽培が始まったのはおよそ1600年頃であり、この世界では未だに栽培方法は発見されていない。


 しかし、ハキリアリと言うアリの一種はおよそ5000万年前からキノコを栽培している。

 しかもハキリアリの巣は空気の循環により温度を一定に保てる構造をしており、最新の建築にも取り入れられるほど高度な建築すら行ってしまうのだ。


 農業を行い、高度な建造物を立て、運搬の為に道すら作ってしまう彼らはある意味で人類に一番近い生物なのかもしれない。


「ギ…ココガ、女王様ノ、部屋ダ」

「中デ、女王様ガ、オ待チダ」

「うむ、案内ご苦労」

(こ、この向こうにこの大帝国の主が…)


 想像外の高度な文明を持つ地下大帝国の主、女王アリアーナ。

 蟻人族の女王ならば彼らよりも巨大で恐ろしい魔王なのだろう…

 緊張したチェリーはゴクリと生唾を飲み込む、魔界に来て初めて合うリヨン以外の魔王。

 魔王らしくないリヨンとは違うであろうソレと交渉をしなければならないという不安で足が震える。


(び、ビビるな私!、これは野望の第一歩!、リヨン様も言ってた「今回はイージーモード」だって!)


 不安を根性で押し込め、女王の部屋へと入っていく…そしてそこで目にしたものは…


「リヨーン、久しぶりなのじゃー!、会いたかったのじゃー!」

「久しぶりだな、アリアーナ」

「「お子様!?」」


 その先にいたのは幼女(おこさま)だった。


 背はリヨンよりも更に低く、蟻らしい触覚はあるものの外骨格らしきものも身体の一部にしか付いていない…今まで見た蟻人族よりも遥かに人間に近い。

 行動もお子様のそれで、リヨンを見た瞬間に嬉しそうに抱きついて来た無邪気なそれは

 あまりに予想外すぎる女王の姿がであった。


「む、リヨンの連れか、仕方なかろう、妾は即位してまだ50年程度の若輩なのじゃ」

「で、でもその姿でどうやってあんなに沢山の子供を産むニャ!?」

「ほ、他の蟻人族と大分違ったので、そ、そのスイマセン!」

「すまぬな、人界から来た者達だからあまり事情を知らぬのだ」


 リヨンの言葉で「なるほどのぉ~」と呟いた後にこれらの質問にたいして答えを言っていく。


「先ずは姿じゃがの…蟻人族は己の務めに合わせた外骨格を装着して生まれてくるのじゃが、妾の務めは出産ゆえに決められた外骨格がない…自由に外骨格を選べるのが女王の特権じゃな」

「な、なるほど…では今のお姿は?」

「外骨格がない状態じゃ、外骨格装着も『魔力による攻撃能力の付与』とみなされるのか、妾は装着できない…これの所為での」

「そ、それは…」


 アリアーナは右手の甲をチェリー達に向ける、そこにはリヨンと同じく…


「戦競神の戒め!?」

「左様、故にこのような姿じゃ、まぁ妾は戦争なんぞする気はないし、我が子達は妾には歯向かわぬから外骨格がなくても不便は無いがの…」

「という事は外の蟻人族の人達もあの外骨格脱げるのかニャ?」

「それは無理じゃ、幼生の状態では妾と同じじゃが、蛹から孵化した時に外骨格と融合してしまうからの」

「そうなのかニャ、ミーシャ達みたいに取れるのかと思ったニャ」


 と言って、アリアーナの目の前で猫耳を外すミーシャ。


「え?…え~、その、なんじゃ?、なんじゃか凄いガッカリ感があるのじゃが…」

「ミーシャ、ダメよ子供の夢を壊しちゃ!」

「何故なのニャ!?、ハルト村の人達にも不評だったのニャ!」

「カインとアベルはショックで自棄酒を飲んでたからなぁ…」


 どうやら偽猫耳に対するガッカリ感は蟻人族でも同じらしい。


「それと出産じゃが、いきなりあのサイズ産むわけじゃない、これぐらいの小さい卵じゃから安心せい」

「そんな小さいのですか、人間の出産より楽そうですね」

「それはそうじゃ、哺乳類並みの負担がかかる出産で1万以上も産んだら、如何に妾が上位魔族と言っても死んでしまうのじゃ」

「で、でも、こんな子供が出産とかなんかエロいニャ…」

「何故じゃ?」

「え、えっと…あ、そうだ私からも聞きたいことが!」


 話が怪しい方向に向かったので、赤面しながら慌てて話題を変えるリヨン。

 蟻人族と比べれば、人間よりの性的観念を持つリヨンにとってこれの説明をするのはかなり恥ずかしいものだ。


「以前来た時より数が減ったように見えたが、何かあったのか?」

「今まで定期的に訪れていたバッファローの群れが来なくなってしまっての、キノコだけでは足りぬのか出産数も減り餓死者も出てしもうた…」

「そうか…辛かったな」

「よくある事と言ってしまえばそれまでじゃが…愛しき子供達の死はやはり慣れぬの…」


 悲しそうに目を伏せてアリアーナは語る、アテにしていた獲物が来なくなれば餓死をする。

 これは魔界では普通に起こり得る事態であるが、統治者として母として悲しさを覚えずにはいられない。


「ならばちょうど良かったかもしれん、今日、我らはアリアーナに交易を持ちかけに来た」

「こーえき?、こーえきとはなんじゃ?、それで食料が手に入るのか?」

「お互いが持ってる物を交換し合う行為が交易だ、チェリー、詳しい説明を」

「は、はい!、それでは失礼します、女王陛下」

「う、うむ」


 指名を受けたチェリーは改めて膝をつき、王族に対しての礼を取る。

 このような儀礼は蟻人族に馴染みがない為にアリアーナはちょっと驚いたが、大事な話をするんだなという雰囲気は伝わったようだ。


「この度、私達は村で取れた食料を持ってまいりました、え~と、お願いできますか?」

「ギ…確認終ワッタ、毒ナイ、安全、女王様食ベテ良シ」

「おおおお?、こ、これは肉に野菜に…ううん?、なんじゃこれは、美味しそうな匂いがするが」

「それはパンですね、肉などは保存の為に燻製にさせて頂きました」

「く、燻製?、そう言えば普通の肉じゃないのじゃ…これで腐らなくなるのかの?」

「絶対腐らないって訳ではございませんが、生よりもずっと長くもちます」

「なるほどのぉ、味を見てみてもよいかの?」

「どうぞ」

「(もぐもぐ)…こ、これは!?」


 ハルト村産の食料品を簡単に調理して出したものだが、その味は女王と行っても魔族のアリアーナには衝撃だった。

 客人の前だと言うのに思わず無言でがっ付いてしまう。


(う、旨いのじゃ!、なんじゃこの肉!、臭くないどころか凄くいい匂いじゃ!、それに噛み締める度に肉以外の味が…微かにしょっぱい、辛い…じゃが、これらは嫌な味ではない、むしろこれが肉の味を何倍にも高めているのじゃ!!)


 初めての人界レベルの味に夢中で食べ進めるアリアーナ。

 全ての試食を食べきった後、正気に戻り自分のがっつきっぷりに思わず赤面してしまう。


「す、すまぬ…あまりに美味しかったのじゃから…つい…」

「いえいえ、私達も『商品』を気に入っていただいて嬉しいです」

「『商品』とな?、『商品』とはなんじゃ?」

「『商品』とはこちらが売りたい物の事です、売るとは、自分達の持ってる物と引き換えに別の物を貰う行為を意味します」

「ふむ、要するにこの『商品』と、妾達が持ってる物を交換したいと?」

「はい、その通りです」

「しかし、妾達はキノコしか持っておらぬがそれでも良いのか?」

「キノコなんて私達じゃ栽培は無理ですしね、勿論、構いませんよ」

「「え?」」


 香辛料栽培を売り込むつもりだったんじゃ?

 とリヨンとミーシャは思わずチェリーの言葉に反応してしまう。

 確かにキノコも欲しいが、キノコは本命ではない筈だが…


「大丈夫ですよリヨン様、ちゃんと目的は達成します」


 小声でチェリーはそう返す、ちょっとビックリしたが交渉を任せたのは自分だしリヨンも分かったと頷いて返した。


「キノコで良いのじゃな、キノコだったら一杯あるし交換しようぞ」

「では女王陛下、どの程度の量でどの程度の量と交換いたしますか?」

「え?、えーと…こ、交換にはどれくらい必要なのじゃ?」

「そうですね、同じ重さで交換とかどうでしょう?」

((え!?))


 任せたもののリヨンは耳を疑った、ミーシャもドン引きした。

 ぼったくり過ぎである、キノコは重くないのに同重量で交換するのはぼったくりだ。

 ましてやこの世界にキノコ栽培技術はここにしかない、キノコはかなり高価な商品なのだから…


「分かったのじゃ!、それで交換なのじゃ」

「ちょ、ま…」

「女王陛下、それではダメです」

「な、何故じゃ!?自分で出した条件じゃろう!?」


 そして物の見事にぼったくりに引っ掛ったアリアーナの言葉を思いっきり否定したのはチェリー

 自分で出した条件を自分で否定すると言う矛盾にアリアーナはちょっと怒った。


「申し訳ございません女王陛下、しかし交易を行う上で大事な事を知って貰う為にあえて吹っ掛けて貰わせました」

「ふ、ふっかけ?」

「商売用語で必要以上に高い値段で売りつける行為をそう言います、今の私が出した条件では女王陛下は大損をしてしまいます」

「な、なんと!?、してそれで得しようと言うでも無いのに何故そのような無礼を働いた!?」

「女王陛下に交易の基本を覚えてもらうためでございます」

「交易の基本じゃと?」

「はい」

(ああそうか…チェリーの奴めそこまで考えてか…)


 ようやくチェリーの意図が見えたリヨンは納得したが、ミーシャはガクブルである。

 なにせこんな大帝国の真っ只中で相手側を怒らせるような真似をしてるのだから当然である。


「交易とは互いの品を交換する行為です、そこで重要になるのが交換する品の価値をきちんと図ることです」

「価値か、しかしお主達が持ち込んだ食品は美味極まりない、相当な価値が有るものだと思うのじゃが?」

「私達の商品を高く評価して頂いてありがとうございます、しかし女王陛下、価値とは評価だけで決まるものではありません」

「なんと?、では何によって決まるというのじゃ?」

「需要と供給…要するに『どれだけ必要とされてるか』と『どれだけ品が用意できるか』ですね」

「え、えっと…いや、妾達には食料は必要じゃからやはり価値は高くなると思うのじゃが?」

「女王陛下キノコも食料でございます」

「え?」

「そしてこのアントヒルでは餓死者が出るほどに食料が必要となっている事を考慮すれば、女王陛下の持つキノコという商品の価値は決して安くありません」

「た、確かにそうじゃの…」

「大量の食料を渡して少量の食料を得たのでは餓死者が増えてしまいます」

「あ……わ、妾は美味しさに目が眩んで大変な誤ちを犯すところであったのか…」


 もしあのまま交易を行っていたら起きたであろう悲劇を聞かされて顔面蒼白となるアリアーナ。

 そんな幼女の姿に、内心「悪い事をしたな」と思いつつもチェリーは説明を続ける。


「相手の商品の価値、そして自分の商品の価値をきちんと見定めなければこのような事態も起きてしまいます」

「う、うむ…確かに妾の迂闊、交易とは恐ろしきものじゃ…」

「ですが、女王陛下…女王陛下には交易が必要であると考えます故にこの度はこのような無礼を働きました」

「妾に必要とな?」

「はい、何故なら交易は戦争を止められるからです…」

「な、なんと戦争を止めるじゃと!?」

「はい、そうですね…その説明をする前に今度は適正な価格での交渉を始めましょうか」

「う、うむ、よろしく頼むのじゃ」


 平和主義者のアリアーナにとって、戦争を止められるという話は興味が尽きないものであった。

 更にこの後の交渉でも、チェリーは交換によってアリアーナ達の食料事情が改善する形での交換条件を出してアリアーナも今度は慎重に分析し納得した上で交渉成立となった。


「うむ、これで妾達は餓えずにすむ、感謝するぞチェリー」

「感謝は不要です女王陛下、私達は損してません、私達は食料が余っている状況ですのです、私達にとって食料の価値は低いのです、これが価格を決めるもう一つの要素『供給』の影響です」

「しょ、食料が余ってるじゃと!?」

「はい、私も商人ですので損をする取引などは致しません、そして交易はこの様にお互いが得する形で終わらせるのが理想です」

「お互いが得か…確かにそのような結果になったの」

「一方が損をしてばかりの交易は長続きしませんし、敵を作ってしまいます…先程のように吹っ掛けて儲けても、長い目で見ればこちらの方が私達も得をするのですよ」

「なるほど、なるほど…交易とは奥が深いのぉ…」


 チェリーの話を熱心に聞くアリアーナ。

 最初は戸惑ったり怖がったりしたものの、交易の利益を理解してからは興味津々のご様子である。


「して、交易が戦争を止めるというのはどういう事じゃ?」

「例えばですね…女王陛下とリヨン様が友人関係じゃなかった場合で、この様な交易が行われている…と、想定してみてください」

「うむ、リヨンと友達じゃなくなるのはイヤじゃがな…」

「あくまで想定ですので…さて、その状態で私達がアントヒルに戦争を仕掛けたらどうなりますか?」

「返り討ちにあう」

「あ、た、確かにハルト村の戦力じゃそうなるでしょうけど…えっと、もしこっちが勝ってもキノコが手に入らなくなってしまうし、当然痛い目にも合います」

「ふむ、確かにそうじゃの」

「逆にアントヒルが攻め込んできた場合、家からの一時的に食料を略奪できても、家の村の食糧生産を再現する事は出来ないのでやがて交易前と同じ飢えに苦しむ事になります」

「なるほど!、要するにお互いが戦争を仕掛けると損をする状況になると言うことじゃな!」

「はい、ですので交易でお互いが得な状態を維持されてると戦争は起こしにくくなり、戦争するより交易を行っていた方が得をするいう意識が広まれば…」

「戦争は止まるというわけか、魔族にその理屈が効けば良いがのぉ…」


 チェリーの言葉に納得しつつも出てしまう疑問。

 魔界では常に戦争ばかりを繰り返してきた、血塗られた魔族の歴史がそう簡単に覆るのかと


「その魔族の意識そのものを変えるためにリヨン様は魔界に交易を…『商売』という概念を作ろうとしているのです」

「リヨンが?」

「うむ、そうだ…それこそが私が考える人魔共存の第一歩だ…なぁ、アリアーナ」

「なんじゃ?」

「アリアーナはこの交易を通じてチェリーの事をどう思った?」

「うむ、『信用できると』思ったのじゃ」


 確かに無礼を働いたが、それは交易を知らぬ妾に教える為であり、幾らでも騙せる立場でありながら、こちらにも得になる形にしてくれた。


 しかもその理由も納得いくものであったから信用できると考えて間違いはないとアリアーナは判断する。


「そう、『信用』だ、商売の基本であり我々魔族には足りない物だ」

「妾はリヨンを信用しておるが…確かに他の魔王が互いに信用しあってるとかありえぬな」

「だからこそ、商売を通じて信用するという事を広めたいのだ、商売でなら単なる気持ちではない、損得と言う利益関係によって信用と言うものを理解できる…チェリーがお前を信用させたようにな」

「おおっ、確かに利益という理をもって信用させられたのじゃ!」

「ああ、だからアリアーナ…盟友であるお前に最初の交易を持ちかけた、お前ならば私と共にこの野望の道を歩んでくれると確信していたからな!」

「当然じゃ!、同じく戦競神に喧嘩を売った仲じゃ、平和の為に協力は惜しまぬ!」


 と言い切ったリヨンであるが、正直、今日の段階でここまで話を進めるつもりはなかった。

 もう少し商売を知ってチェリーの事を信頼してくれてから…と予定していたのだが…


(想像以上の働きだったなチェリーよ、まさかここまで私の意が汲めるようになっていたとは…)


「では、次の商談に移りたいのですが…」

「む?、まだあるのか?、さっきも言ったがここにはキノコしか…」

「ふぅ、やっとここでミーシャの出番だニャ、実はこの辺りで栽培できる香辛料って言うのを栽培して欲しいのニャ」

「こ、こうしんりょう?」

「ほら、こう言う植物…見たことあるだろ?」

「そ、それは滅茶苦茶辛くて食べられない奴なのじゃ!、そんなものをどうして!?」

「これを使うと食べ物が美味しくなるのですよ、先程の燻製肉にも使っております」

「な、なんじゃと!?」

「だけど、栽培方法が分からないと思ってミーシャが来たニャ、ミーシャはこれの栽培が出来るのニャ、教えるのニャ!」


 アリアーナはチェリー達の事も信頼しているので、その後の交渉もスムーズに進んだ。


「後だな、アリアーナ…交易で食料が手に入るのならば労働力が余らないか?」

「うむ、狩りに行く子達の手が空くの、余るといえば余るのじゃ」

「手が空いた者を家に出稼ぎに寄越してくれないか?、鉱山から鉄鉱石を掘りたい」

「うむ、妾の子達ならどんな外骨格の者でも穴掘りは大得意じゃな」

「こんな凄い地下帝国掘っちゃうぐらいだしニャ」

「給料として食料を渡す、今の状況で狩りに行くより確実に食料が手に入るぞ」

「なるほどのぉ、ではそちらに何人か送ろう」


 更には捻出に困っていた鉱夫の労働力も獲得して、無事に初めての交易は終わった。

 これによりハルト村の経済環境は急成長していくようになるのである。

魔王らしくない魔王しか出てこねぇ…

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