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村長は魔王様!  作者: マカロニ男爵
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魔王様と新米冒険者

「だから一人で行くなって言ったでしょ!」

「は、はいぃぃ」


 冒険者の宿『赤猫亭』の女将、サシャ・レクリファスは新人冒険者を叱りつける。

 ゴブリン退治とは言え、新人が一人で挑むのは危険だと忠告したにも関わらず、

 一人で行って怪我を負って帰ってきたからだ。


「アンタの事情は知ってるけど、だからって死んだら元も子もないでしょ!」

「で、でもお金を早く貯めないと…」

「死んだら銀貨の一枚も稼ぐことはできないでしょ!、これ以上無理をするんだったらロープで縛って店先に吊るすわよっ!?」

「ひえぇぇ、ごめんなさい~っ!!」


 サシャが怒るのも無理はない、この様な無謀を繰り返す新人などすぐに死んでしまうからだ。

 この新人もゴブリン3体に襲われて生きて帰ってきたのだから多少の才能はあるようだが、

 冒険者にとって大事なのはそんな才能よりも慎重さだ、才能があっても死んだら磨くこともできない。


 冒険者の宿は冒険者ギルドの施設の一つで、冒険者達の拠点となるべく寝床や食事を提供する役割を持つ。

 金のない新人などでも寝食にありつける有難い施設である為、多くの新米冒険者がここを利用する

 そんな右も左もわからない新人に冒険者のイロハを教える為に、引退した元冒険者が経営してることが多い。


 今行われている説教は、冒険者の宿では良くある風景なのだ。


「その様子じゃポーションも買えなさそうね、仕方がないから店の隅っこで座ってなさい」

「え?、隅にですか?」

「そうしてると運が良ければ神職系の冒険者から回復魔法を貰えるわ、神職関係の人が冒険者になる動機は大概の場合は布教目的だからね、慈善活動は宗派のアピールにもなるし、勧誘の機会も得られるから回復魔法をサービスしてくれる人も多いのよ。」


 所謂、辻ヒールと呼ばれる行為である。

 辻ヒールとは言ってもそう言う目的で行われるから、全然辻ってない、全力で恩を売る行動ではあるのだが

 回復魔法も回復薬もない貧乏人が傷を癒す最終手段としては有効なのである。


「まぁ…運が良くないと放置されるし、あまり繰り返すと悪評もつくけど背に腹は変えられないでしょう?」

「そうですね…やってみます。」


 サシャがここで回復させてあげる事も可能だが、そう言った甘やかす行為は新人の為にならない。

 初回なら新人がミスった程度にしか思われず悪評もつかないし、反省させるためにも辻ヒール待ちをさせた。


(ううっ…人の好意を利用するみたいで気が引けるな…)

(…勧誘がしつこい人だったらどうしよう?、助けてもらった手前、邪険にも出来ないし…)

(そもそも、都合よく神職の人が現れるのかな…?)

(…確かに冷静さが欠けていた…次からは確りしないと…)


 待ち続ける間に色々な考えを巡らせる、頭を冷やすという意味でもじっとさせる事は効果があるのだ。


 そうして待つこと1時間、体が光に包まれ痛みが急速に引いていく。


「えっ!?、あ、ありがとうございますっ!」

(む、無詠唱!?、無詠唱でこの傷を一瞬で!?、なんか凄い人が来ちゃった!?)


 この世界の魔法の威力は、行使する術者の魔力と、行使する魔法のイメージの鮮明さで決まる。

 詠唱はその魔法を強くイメージする為に用いられるが、イメージさえ出来れば無詠唱でも行使できる。

 ただし、それは息をするように当たり前に魔法を行使できるほどの熟練が必要となる。


 しかし神聖魔法は「神より力を授かり奇跡を起こす」と言うイメージで行使される魔法であり。

 他系統の魔法における詠唱となる『祈り』を行わない事はまず無い。

『祈り』もなしに神から力を借りられる、そんな神に失礼なイメージが出来る神官はまず居ないからだ。

 神聖魔法は教義と信仰により強いイメージを構築できる反面、無詠唱などの応用が利きにくい魔法であるのだ。


 そして、神聖魔法以外にも回復魔法はあるが効果が低い。

「神によって人が救われる」と言うイメージがこの世界の人間にとって最もイメージをしやすい回復魔法である為だ。


 故に無詠唱で怪我を一瞬で治す、それはこの世界において驚愕に値する事態なのだ。


「あ、あれ?、いったい誰が…」

「彼女よ」


 無詠唱でサクッと治されたのだから誰が行使したのかも分からない。

 どうやら神官ではないらしい、とてつもない使い手は自身の存在もアピールしないようだ。

 しかし、その使い手に気がついたサシャは一人の少女を指で示す。


 否、見た目は少女だがそうだとは限らない。


 存在を知らされてバツが悪そうにしている娘。

 美しい銀髪を靡かせ、まるで神話に出てくる聖女を具現化したような清楚で神聖な雰囲気を漂わせてはいるが、特徴的な片方だけの緋色の瞳、彼女は半魔のようだ。


 半魔には寿命がない、不死ではないが不老であり、あれだけの使い手となれば見た目通りの年齢ではないと思ったほうがいい。


 もしかしたら、修行の末、祈りを必要としないほどに神を感じられるようになった神職の極限。

『聖人』と呼ばれる存在なのかもしれない…


 そんな事を考えながら新米冒険者の少年は恐る恐る、もう一度お礼を言おうとすると…


「気にする事はない魔王として当然のことをしたまでだ。」


 少年はまるで石化したかの様に固まってしまった。


 あまりにも想定外の返答…


 無償で回復をしてくれた親切な少女。

 その行動を知らしめない謙虚な少女。

 まるで聖女かと思ってしまう美しくい清楚な少女。

『聖人』かと思ってしまうほど神聖な雰囲気を纏った少女。


 それを=魔王で結ぶ事は困難だ、脳が全力のその単語の理解を拒む。


「え?、…へ?…え?、ええ~?」

「あれ?、どうした?、回復が足りなかったか?」

「リヨン、貴女の回復魔法なら手足がもげてても全回復するでしょ…それはないわ」

「強いて言えば姫様の存在が痛いのでは?」

「それね」

「その結論はひどくない!?」


 混乱から回復するのに20分用した。

 これが後の英雄…今はまだ新米冒険者であるエリックと魔王が初めて出会った時の話である。

短いですけどここで一旦切ります。

このまま会話させてもどんどん脱線しそうですので…

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