魔王様と女子力
「あ~、去年とは大違い!、今年の冬は快適だわ~」
「何とか冬の準備が間に合ってよかったな」
「そうですね、魔王様」
「いや…間に合ってないと思いますよ、リヨン様…」
ハルト村の女性陣、メリッサ、リヨン、アンリ、チェリーはメリッサの部屋に集まっていた。
木工職人ゴンザレスと大工のドルザーによって建てられたメリッサの家。
寒さに弱いラミアでも大丈夫なように徹底した防寒を施されていて、冬でも部屋は暖かく快適だ。
でも、冬の準備は間に合っていなかったのだ。
「リヨン様、普通、魔王の屋敷の改築を最後に回します?」
「いや、だって私には人界の服もあるし、冒険で寒さにはなれてたから…」
「すいません、厄介になりますメリッサさん!」
「いいのよ、チェリーちゃんの家は建設中だし、村長さんとアンリちゃんの家は…」
「まさか、ここまで雪が降るなんて…」
魔王の居城は雪でペシャンコになっていた。
冬に間に合ったのは優先されたメリッサの家を含む数件だけで、冬の間はその数件に皆で住む事になった。
「去年も凄かったが、ここの降雪量は半端じゃないな…」
「ドアが雪で開けられませんからね、今日は室内に居るしかないです」
「というか、この天気で外に出たら死ぬわ私…」
「人間でも死ねますからね…下半身が蛇のメリッサさんじゃ洒落になりません」
「さて、今日はどうするか…」
自然の猛威の前には人も魔王も魔族も無力である。
今日は外で作業するのは不可能、開拓されたばかりで作業に追われる日々のハルト村においてのんびり過ごせる、と言うかのんびりするしかない貴重な時間だ。
「せっかく女の子同士で集まったんだからお話しましょうよ!」
「え~と、では魔王様、人糞の肥料の試験の結果ですが驚く程良好でして…」
「おお!、成功したか!」
「女子の会話しよう!?、ちぇ、チェリーちゃん、話題を!」
女の子同士の話なのにいきなり飛び出したのはアンリの『肥溜め』の研究結果の話し。
流石にそれはどうなんだと、メリッサはチェリーに振ってみた。
「ええ!?、え、えっと…そうだ、亜人達の移住の件ですが猫耳族の里からは良い返事が!」
「そうか、これで人手も増えるし、香辛料栽培の技術も導入できるな!」
「後はリヨン様のご友人だと言う蟻人族の女王との交渉が成功すれば、香辛料の栽培も…うふふ」
「チェリー、お主も悪よのぉ‥」
「リヨン様にはかないませぬ…」
「「はっはっは」」
「お金の話題もちょっと…」
「と言うか、別に悪い事は何もしてませんよね?」
亜人達の移住、それはチェリーが持ち出した案件。
先の遠征軍の暴虐により故郷を追われ、貿易も裏でこそこそとしか出来なくなった亜人達は困窮に陥りひもじい生活をおくる者も少なくなかった。
一方でハルト村は慢性的な人手不足ではあるが食料は余っている。
食うに困った亜人達は闇取引ルートでハルト村と繋がりを得て交易によって食料を得ていた。
しかし闇ルートでは大規模な取り引きは出来ないが故にそれでも食料が足りない。
そこで、チェリーが嘗てのつてを辿って亜人達を移住させる話を持ちこんできた。
食うに困った亜人が流入してきてもハルト村の食糧生産量なら養える。
ハルト村も人手不足が解消する上に亜人達が持つ技術を村に導入できる。
リヨンも「家の流儀に従ってくれるものならば」という条件で開始されたプロジェクトである。
なお、ハルト村の流儀は『人魔共存』と『宗教を押し付けない』である。
残念ながら法律らしきものはまだない、おいおい作っていこうとは思うのだが、村の者が従順すぎて無しでも回ってしまうのだ。
亜人としても、宗教を押し付けられて嫌な目にあった者達ばかりなのでその条件は簡単に飲めた。
『人魔共存』も最初から中立的な立場の彼らにはすんなり受け入れられる話だった。
「お金の話もダメか…では、新しい移民と今居る村民との間のトラブルに対しての対策でも考えるとか?」
「うん、村長さんには期待してなかった」
「ひどい!、結構大事な話なのに!」
「そうじゃなくって、どうしてみんな仕事の話なのよ!」
「「「え?」」」
メリッサ以外の3人には仕事の事しか考えてなかった、みんなしてワーカーホリック。
折角の休日も仕事に捧げてしまう血の繋がらない社畜三姉妹なのである。
「ほら、あるでしょ!、恋バナとか、そういう女子らしい話題!」
「こ、恋バナとか私には早いです!」
「うーん、恋かぁ…旦那に家事を任せればその分もっと動けるようになるかしら?」
「世継ぎにはアンリが居るしなぁ…そもそも不老だから世継ぎを用意しても先に死なれるかもだし」
「駄目だこの子達!、アンリちゃん以外将来性もない!」
ラミアのメリッサにとって恋は女子の憧れであり、リヨンとチェリーの回答はドン引きものであった。
アンリにはまだ将来性があるが、親代わりのリヨンがこのザマじゃ悪影響を受けてしまう。
すでにワーカーホリックが入ってるし、このままではハルト村の女子力が危ない!
「みんな女の子でしょう!?、もうちょっとそっちの方も頑張りましょうよ!」
「が、頑張れと言われましても…」
「今は仕事が恋人なので」
「チェリーちゃん、その今は何時までなのかな?」
「え?、えっと…リヨン様に任せられた事を完遂するまででしょうか?」
「それ、一生を捧げるような大事業でしょうが!、そんなんじゃ一生結婚できないわよ!」
チェリーも器量は良い娘である。
ふわっとした赤毛に人好きする顔立ちに大きな胸。
商人として悪印象を与えぬように常に気を使ってるから身奇麗で体型管理も行き届いている。
だが、そう言った武器を商売に全ツッパしてる仕事の虫だ、いやむしろ仕事の鬼だ。
名前がチェリー・ドリームなんだから、もう少し童貞に夢を見せろよと言いたくなるほど商売の話しかしない。
「私は…」
「村長さんには期待してませんので」
「さっきから酷くない!?」
「村長さんに仕えてもう100年近くよ?、そりゃ色々と諦めもつくわ…」
リヨンはもっと酷い。
外見上はどこに出しても恥ずかしくない程にお姫様なのに女子力の欠片もない変人だ。
女子かどうかの前に浮世離れし過ぎていて、300年生きても浮ついた話がまるで出てこない。
話が浮いた程度の高さじゃ届かない程に浮世から離れてるんだろう、多分お月様あたりに。
100年近く仕えてれば諦めも入る、非常に惜しい素材だと思ってはいても。
「そういうメリッサさんは恋人はどうなんですか?」
「昔は居たわ…でも、戦争で…」
「あ、ご、ごめんなさい…」
「次の彼氏も戦争で、その次の彼氏は戦争中に発生した疫病で、その次は飢饉による飢えで」
「え?」
「その次から5人連続で戦死して、その次の彼氏は谷から転落して」
「ちょ、え?、ええ!?」
「その次はなんか食べ物が喉に詰まって死んで、その次は偶然落ちてきた鉢植えが頭に直撃して」
「う、うわぁ…」
「そして、何故か最近は私と恋人になると7日以内に死ぬって根も葉もない噂が広まって…」
「いや、もうなんかそう言う呪いだろ、それ!?」
メリッサはラミアらしく恋多き女だった、でも60年ぐらい彼氏ができていない。
いくら魔族が死にやすい環境で生きているとは言ってもこれだけ続けば周囲が恐るのも無理はない。
因みに「戦争が終わればそうそう死ななくなるはずよ」とは本人の談であるが、「戦争が終わったら」は明らかにフラグである。
「兎に角、このままじゃダメよ!、アンリちゃんの教育にも良くないし‥女子力を磨きましょう!」
「じょ、女子力?」
「あ、アレですよね、『ひよこが可哀想だから卵食べれないんですぅ』とか言う…」
「卵は栄養豊富です、残すとか許されません」
「全くだ、養鶏が始まって卵を食べるようになってから村人の健康状態も良くなったと言うのに」
「美味しく食べれるものを食べられないとか生命体として大丈夫かしら?、って感じのセリフね」
「まぁ、このセリフは私もどうかと思いますが…魔界の人には受け入れられませんよね」
今は余裕があるとは言え飢えに苦しみ続けてきた魔界の住人(と元農奴)は口が裂けてもそんなセリフは言わないだろう…
まぁ、こんな事ほざく奴が男にモテるとも思えないが。
「要するに、もう少し女らしくなりましょうって話ですよね?」
「そうよアンリちゃん、この人達みたいになっちゃダメよ?」
「失礼ですね、私だって身だしなみ気にしてるのですよ?、商談に関わりますから」
「私だって魔王として恥ずかしくないように身奇麗にしてるぞ、エーセイも大事だしな」
「綺麗になる事にそういう理由を用意してる時点でアウト」
「「え~?」」
女性とは常に美しくありたいと願うものであると考えてるメリッサはアウト判定をだす。
二人とも仕事を中心として生きてるようにしか聞こえない。
更に言えば、商談の為とは言え女の武器を理解しているチェリーは胸元を強調したりと女性的な衣装を着るが、リヨンに至っては露出も少なく色気を出そうという気配すら感じられないから更にダメだ。
「えっと、綺麗なお洋服とか着れると嬉しいなぁって感じたりする気持ちとかですか?」
「そうそう、女の子は綺麗に見られたいものね」
「そういう気持ちなら私だってあるぞ、皆が綺麗な服を着れるようになって嬉しいなって」
「それ、完全に領主視点じゃない!」
「私だってそう言う気持ち理解してますよ、その気持ちが分からないと衣類を仕入れる時に困ります、服飾の主な需要は女性ですしね!、流行とかしっかり抑えないで受注して売れ残りとかホント最悪ですし!」
「商売の為に理解してるようにしか聞こえないわっ!」
もう、どうやったこの子達から仕事や立場を切り離せるのか…ちょっと頭が痛くなってきたメリッサ。
せっかく可愛らしく生まれてきたのに色々と残念すぎる。
「しかし、女らしさなんて私には必要ないと思うが?」
「そんな事ないわ…『リヨン様』」
「っ!!?」
メリッサの『リヨン様』にドキっとする、普段の『村長さん』じゃない時は真面目な話をする時だからだ。
「村には私達の他にも女性は住んでいるわ、それなのに女性らしさを理解できなくていいのかしら?」
「うっ、そ、それは…」
「他の娘達もリヨン様やチェリーちゃんの服を見て、色とりどりの服を着てみたいと考えてるけど、染色技術の導入とか検討していたかしら?」
「え!?、あ、そ、そうなのか!?」
「それがリヨン様の欠点なのよ、視点が高すぎるから下の者の細かい部分を見れてない、アンリちゃんが来てからコボルト達が仕事を急激に覚え始めたのはリヨン様の視点じゃ高すぎて話しが難解だったから、チェリーちゃんが来てから皆が貨幣を少しずつ使い始めた事も同じくよ」
「すまん、確かにその通りだ…」
「もう少し世俗の楽しみ方を覚えなさいな、高尚さだけが上に立つものの資格じゃないのよ」
「…ごめんなさい」
メリッサのお説教に凹むリヨン、反論も返せない。
リヨンは常に統治者の視点で考えているが、それ故に世間一般とは距離が離れすぎているきらいがある。
豊かになりたいと思う者に経済の仕組みから「金が回れば経済は上向くからお金を使いましょう」と説いても積極的にお金を使ったりはしないのと同じで見てる世界が広すぎるのだ。
「とは言っても…村長さん一人で大きな部分も小さな部分も全部見ろってのは無理よね、その為にも私たち部下が居るんだし」
「そうだな、皆には本当によく支えて貰っている」
「私は魔王様のお役に立つのが幸せですので」
「こう言うのは持ちつ持たれつですよ、国なんて一人の力だけで成り立つものじゃありません」
「…と、いう訳で~」
『リヨン様』から『村長さん』に呼称が戻って真面目モードが終わったメリッサがニッコリと微笑む。
「私は「女らしさ担当」って事で、今日は村長さんに女らしさを叩き込ませてもらうわ!」
「ちょ、お、おま!?」
「うわっ、何ですかそのクローゼットの服の数!?」
「しかもアレ、ラミア仕様のデザインじゃない、サイズ的にもリヨン様用に買った奴だ!」
そう、なんだかんだ言ってもメリッサはリヨンに可愛らしくいて欲しかった。
そんな思いで闇ルートを通じて買った服の数は膨大な量になっていた、因みにアンリの分もある。
チェリーは目的は兎も角、ちゃんと女らしい服を着てるので用意はしてない、むしろ人界の最新の流行とか聞きたいぐらいだ。
「フッフッフ、さぁ、そんな野暮ったい服は脱いでこれを着るが良い村長さん!」
「や、やめろー、それメイド服じゃないかー!?」
「しかもアレ、公爵家御用達の高いやつだ!」
「知ってる!、パティの家で見たことある!」
「いくら使っちゃってるんですか、メリッサさん!?」
「さあ、私の給料3ヶ月分を着るが良い!」
「やめろー、魔王だぞー、偉いんだぞー!、メイド魔王はいやああぁぁ!!」
こうして爆誕した『真のメイド魔王』は村の男衆に好評で、その日の夜に雪を掘り抜いてでも第108回浪漫会議が決行されたほどであった。
どうしようこの村…社畜ばかり集まってくる…




