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村長は魔王様!  作者: マカロニ男爵
17/36

魔王様と商業

「お待たせしました、最初の料理をです」

「お、やっと来た…え?」

「お、牡蠣(オイスター)?」


 コルトが持ってきた料理は牡蠣、最近マーメイドから卸せるようになった海の貝。

 もちろんリヨン達は海産物など持ち込んでいないのだから、みんな呆気にとられた。


「『蒸し牡蠣のオリベの葉のソース添え』です、ライスワインとご一緒にどうぞ」

「おお!、なるほどいいね!」

「先ずは『オリベの葉』で来ましたか」

「ああ、あの風味と牡蠣の相性は悪くなさそうだな、だが…」


 トールは一切の迷いなく食べ、ライスワインを飲むが、グレハムはやや怪訝そうに牡蠣を口に運ぶ。


 柔らかく蒸された牡蠣が噛み切った瞬間に濃厚な旨味と海の香りを口いっぱいに溢れさせる。

 その濃厚な旨味を塩気の聞いたしオリベの塩漬けとビネガーで作ったソースがビシッと味を引き締め。

 オリベの独特な風味が海のミルクと称されるほどの濃い旨みに心地よい香りをのせ、その濃厚さ故に苦手とする人もいる牡蠣の磯臭さを和らげ驚く程に食べやすくなっていた。


(こりゃうめぇ、だがな…コイツはどうだ?)


 牡蠣の濃厚な味とオリべはよく合う予感はしていた。


 しかし、この味を迎えるのにライスワインはどうなのだ?

 ワインと比べるとライスワインの香りは弱い、味も穏やかだ…この酒で旨みと香りの洪水のようなこの料理に対抗できるのか?


 グレハムにはそれが疑問だった。


「な、なにぃ!?」

「おお、これは驚きました…」

「ん?、何を言ってるんだ?、牡蠣と日本酒(ポンシュ)とか鉄板だろ?」


 牡蠣の強い味と香りに負けるという予想に反して、ライスワインは牡蠣の風味を穏やかに包み込み、すっきりと洗い流した。

 ワインなどとは違う、まるで強い味の物を食べた後に穀物を食べた時のように…

 味や香りの強さで対抗するのではない、こういった料理と酒の合わせ方もあるのだと初めて知ったグレハムとソー会長は驚いたが、トールにとっては聞いただけで安心できてしまうほどの組み合わせだった。


「それだけじゃないわね…これ、ライスワインを使って蒸したわね?」

「はい、流石です先生!、こうした方がライスワインと合いますし、試してみたら臭みも抑えてくれるんですよ」

「おお、酒蒸しにしたのか!」

「料理にお酒を使うのは良くあるけど、ライスワインだと素材の味をあまり損なわずに使えそうね」

「普通のワインで煮込んだりするとどうしてもその風味が強く出ますけど、このライスワインなら其処まででしゃばらないので、アッサリした料理に向いてると思います」

「なるほど、ライスワインにはそのような効果も…」

「随分と腕を上げたなコルト!、一年前とは見違えるようだ」

「い、一年前のアレは忘れてください!」


 予想以上に上々な滑り出しに思わず感心するリヨン。

 料理に向いてるかもとは思っていたが、たった一年でここまでの成長を果たすのは良い意味で予想を裏切ってくれた。


「続いてポルコですが…」

「ぬぉ、何かいっぱい出てきたな」

「思いつく料理法が多すぎて、とりあえず試してみてください」


 小さな皿で何種類もの料理が出てきて驚く一同。

 アンリと比べて多くの料理法を学んでるコルトから見ると、ポルコはどうとでも料理できる食材。

 色々思いつき過ぎて絞れなくなった結果、こうなったらしい。


「お、これはフライドぽて…いやフライドポルコか、これにはエールが欲しいところだ」

「シンプルに揚げて味も塩だけの癖に旨いな、そして確かにこれにはエールだ」

「はい、ポルコは油と相性が良いようです、エールもお持ち致します」


 試食会だか飲み会だか段々分からなくなってきてるトールとグレハム。

 特にグレハムは監視の役割だったのにそれでいいのか、大丈夫か冒険者ギルド…


「これはポルコフレークを戻した料理ですね」

「うっ、私のと違って全然粉っぽくない、すごいですコルトさん」

「水分量を見極めるだけでだいぶ変わってきますね、それと牛乳や生クリームを混ぜると滑らかになりますよ」

「混ぜ込まれてるのは燻製肉か、燻製肉の油と塩気がポルコによく合うな」

「このポルコフレーク凄いですよ、粉末状の時は軽くてかさばらないから運びやすいですし、元から茹でてあるから水で戻すだけでもう食べられます、保存食としてでなく携帯食としても便利だと思います」

「おお、そいつは便利だ」


 ポルコフレークの活用法を聞いてグレハムは感心した、この利便性は冒険者の役に立つだろう

 だけど、リヨンとソー会長は苦笑いをする。


「安価で流通できれば、ですけどね…」

「闇ルートのみで出回るなら貴重品になってしまうな、こっちでの栽培もいろいろ難癖付きそうだ」

「村の中だったらいくらでも用意できそうなのですけどね」

「いくらでも…ですか」


『村の中ならいくらでも』、このアンリの言葉に何かに気がついたソー会長はリヨンとチェリーに目を向ける。


(なるほど、それでチェリーを連れてこさせたのですか…恐ろしい、相変わらずぶっ飛んだ事を考える人ですね…チェリーはまだ気が付いてないようですが)


 自分に物を売りたいだけならチェリーまで呼ぶ必要もないのに、リヨンに連れてきてくれと頼まれていた。

 リヨンの狙いに気がついたソー会長は右眉に手をやり思索に耽る。


(私も老いましたね、これほど大きな商機を前に尻込みを覚えるとは…さてはて若人(チェリー)はこれをどう思うか?)


「続いて魔界麦なのですが、これは下手な真似をせずにそのまま炊き干しにしてみました」

「炊き干し?」

「適量な水分で汁気が飛ぶまで加熱する調理法ね、最初はグツグツ煮るんだけど、汁気が飛んでくると蒸すような加熱の仕方に変わっていって…最終的には素材に水分を含ませつつもベチャベチャじゃないふっくらした仕上がりに出来るわ」

「え?、それ『炊く』じゃね?」

「ええ?『炊く』と『煮る』はほぼ同じでしょう?、火力のとか竈を使うかどうかが違うって話は聞くけど」

「あるぇ~?」


 トールは関東の出身なので『炊く』=炊飯のイメージが強いが。

 関西の方では何かを煮ることを『炊く』と呼ぶ事も多いので『炊く』=炊飯とは限らない。

 この世界でもどうやらその辺の差が曖昧らしくて、炊飯のように仕上げるやり方は『炊き干し』と呼ばれているらしい。


「当店自慢の『豚カツのサシャ・ソース仕立て』とご一緒に召し上がってください」

「こ、この組み合わせは『ロースカツ定食』!?…く、くそぉ、これに味噌汁があれば!!」

「定食ってなによ?…あ、でもこれ凄くよく合う」

「豚カツの肉の旨味とサシャ・ソースの塩気と辛味がふっくら仕上がった魔界麦の甘さを更に引き立てるな!」

「素晴らしく美味しいのですが…この組み合わせは赤猫亭ぐらいでしか出せませんね」

(何故だろう?、凄い高級品の筈なのに庶民っぽい雰囲気があるわ…)


 トールにとっては懐かしすぎる鉄板の組み合わせだが、この世界においては富裕層でも高級と思える逸品、しかもほぼこの店でしか出せない料理。

 料理としては一級品だが商売にはしにくいなとソー会長は考える。


 そしてチェリーはトールのガツガツした食べ方を見てなんだかそんな感想が出てくる…彼にとっては庶民の味なんだから仕方がない。


「デザートに砂糖とポルコフレークで焼き菓子を作ってみました」

「へぇ、じゃが…ポルコで作っても結構うまいもんだ」

「これは、サシャさんが良く作る貴族向けじゃない、甘さが丁度いいタイプの味付けのようですね」

「すいません、僕もこっちの方が美味しいと思うので先生に習ってこうなりました…」

「うーん、砂糖の値がもう少し下がってくれれば安い庶民向けのお菓子として売れそうなんだけどなぁ…」

「砂糖が安くなれば貴族の意識も変わるかも知れんしな」

(…製法の解明と準備の為に5年は高価なままにする予定ですので、しばらくお待ちください)


 そんな砂糖事情を話す一同を穏やかに眺めながら、頭の中でそんな事を考えてるソー会長。

 因みにリヨンは気まずくなって目を逸らしてしまった、商売人としてはやはり役者が劣るようだ。


「しかし、菓子といったらやっぱポルコ(ジャガイモ)よりサツマイモの方が合うよなぁ」

「サツマイモ?、さっきポルコの事をジャガイモと言っていましたし、同じ仲間の植物でしょうか?」

「ああ、同じイモで赤くて長いイモだな、ポルコより甘味があるんだ…」

「その特徴…もしかして紅ポルコですかね?」

「おお、名前からしていかにもそれっぽい!」

「紅ポルコは私達の村よりずっと南の方にある奴だな、コルトはそっちの方の出身なのか?」

「はい、ゴブリンに攫われてこっちに来るまでは…魔王様もあっちに行った事が?」

「ああ、こっちで冒険者になる前も失伝調査の為に魔界のあちこちを巡ってたからな」

「失伝調査ですか?」

「魔界に住む人族などが嘗ては持っていた技術、その一旦がまだ辺境や魔界に住む亜人達の集落に残ってたりする事もあるから、それを調べ集めるための調査だな」

「あんたって昔から研究の虫だったのね」


 ポルコの菓子から始まったそんな談話を聞いていたチェリーがある一言を尋ねる。

 それがもう一つの大事な商談の口火になる事も知らずに…


「ま、魔界のお姫様がですか?、そのー、そう言うのを集めるのならば、普通に取り寄せればよかったのでは?」

「確かに危険そうな旅だし、王族の仕事じゃなさそうよね」

「………」

「…なるほど、チェリーがその話題を出してくれたようですし、次の商談に参りましょうか」

「やはり気が付いてましたか」

「ええっ?」

「ええっ?ってアンリちゃんも知らない話なの!?、な、何がなんだか…」


 チェリーの問いかけに対して同時に苦笑いを浮かべるリヨンとソー会長。

 次の商談、これはアンリも知らない事だったから思わず驚きの声をあげてしまった。


「単刀直入に言うとチェリーが欲しい」

「ええっ!?、リヨン様にはそっちの気が!?、私はノーマルですよ!?」

「違う、そうじゃない、えっと、要するにだな…」

「まぁ、待ってくださいリヨンさん」


 凄い勘違いした返答を返すチェリーに困惑しながらリヨンが説明しようとすると、ソー会長がそれを手で制し、チェリーに向きなおした。


「困りましたねチェリー、まだ気が付いてないようではこの商談を任せられません、リヨンさんが折角貴方をここまで高く評価してくださったのに、情けない限りです」

「ええっ!?、も、申し訳ございません会長!…え、でも、ええっ!?」

「リヨンさん、説明はなしで…貴方の考えてる無謀を実現するならこの程度ぐらい自力で気が付いて貰わなければ話になりません…チェリー、三回まで質問を許します、それにしくじれば今回の話は無かったことで」

「「は、はい!」」


 お、穏やかに言ってるけど凄いプレッシャーをかけてきた…思わずリヨン様も一緒に返答するほどに。


 き、気が付けって、3回の質問で!?、えっとまず情報を整理しましょう…


 1:リヨン様は私を必要としている

 2:それは困難な商談らしい、無謀とか言われてるし

 3:ソー会長は分かってる、多分、今までの会話で気が付けた。


 えっと、まず…リヨン様にその気があるわけじゃなくって、村に欲しいって意味よね。

 となると、私という人材…商人が欲しいという事になる。

 商人を使って凄い難しいことをしたい、という事かしら?


 そして今までの会話で商人に関係がある話し、商機になりそうなキーワードは…


『新しい砂糖』

 …製造法は気になるけど、それを調べるため?

 いや、それはおかしい、会長から命じられる事があっても、リヨン様が望むような事じゃない。


『ライスワイン』、『魔界麦』、『ポルコ』

 悪くない商品だけど、商品の評価は終わっている…あとは状況と需要を見てその都度どの程度売買するかを判断するだけだ、私は必要ない。


『赤ポルコ』

 これにも興味があるけどハルト村じゃ取れないらしい…

 あ、ハルト村が取り寄せれば流通可能か、そうだ私は元々は「隊商」だ!

 要するに物流の確保…となるとこのワードも気になるわね。


『失伝調査』

 そうか!、既にリヨン様は魔界中を巡っている、どこに何があるか知ってるんだ!

 それらの貿易を始める為に隊商を組織し魔界の流通を牛耳ろうと!


「リヨン様は私に隊商を組織させ、魔界の流通を掌握しようと?」

「うむ、まぁ…やって貰う事はそう?…とも言えるな」

(あれ?、何か歯切れが悪い…)

「認識が甘いですねチェリー…質問はあと2回です」


 あ、あれ?、違う?、認識が甘い!?

 魔界の物流を支配するとか、物凄い大事業に思えるのにそれでも甘い!?


 お、落ち着け私!

 リヨン様の反応からして、見当違いの質問だった訳じゃない筈よ!


 見落とし、認識が甘いと言うぐらいだから、大筋は当たってるけど何処かで間違ってる筈だ…


 …

 ……そうだ!


『隊商』だからって私が必ずしも必要とは限らない。

 何故ならリヨン様が行った『失伝調査』、色々な物を持ち帰ったであろう調査を行っているのだ。

 いくら魔族でも、まさか王族が一人旅などしないだろうし持ち帰るための荷馬車ぐらいあっただろう。

 となると、部下に荷馬車を動かせる人材ぐらい居たと見るべきだ。


 即ち、私が必要=『隊商』ではない、では一体何か?


 今まで私は無茶ばかりしてリヨン様に迷惑をかけてきたのに何を評価されているのか?

 良く「お前も無茶ばかり」とか「お前も無謀なやつだ」とか叱られてきた…


 …

 ……ん?

 あれ?、そう言えば常にリヨン様は「お前も」と言っている。

 リヨン様の知り合いに私と同じぐらい無謀な人がいる?


 …いや、違う、リヨン様の部下や仲間を全て知ってる訳じゃないけれど恐らく違う。

 リヨン様の知っている人物でおそらく一番無謀な事をしているのはリヨン様自身だ。


 神話時代からの戦争を止める、これ以上に無謀な挑戦に本気で挑んでる人なんて他に居るとは思えない!


 となれば…リヨン様が評価してくれたのは、私の「無謀」!?

 いや、確かに必要な要素だ!


 リヨン様は無謀な事をなさってる、ならばその偉業を支える部下も「無謀」に付いてこれなくてはならない。


 逆に言えば、リヨン様は私にリヨン様並に無謀な事をやらせようとしている?

 なにそれこわい。


 こわい…けど、それが何なのか興味が尽きない。

 何せ無謀の原動力、私の夢である『隊商』が無関係ではなく、魔界市場を牛耳るで大筋は合っているお話。


 これはきっと史上最大級の商機なのだ!

 逃せるはずはない、恐怖程度なんだ(しょうにん)が商機から逃げていいはずはない!

 え?、リスク管理?、それは大人になってから考えるわ。


 では、その無謀とは何か?

 甘いと言われてるからには牛耳るよりも困難な道、それは一体…


 …あ、もしかして!


「あ、あのリヨン様…魔界に…魔界市場って存在しますか?」

「っ!!」

(あ、なんか嬉しそうな顔した、当たってたんだ、当たってしまってたんだこの答えで)

「ふっふっふ、チェリーよ…魔界市場?、もちろん魔界にそんなものはないぞ?」

「やっと理解できましたか」


 はい、会長。

 理解できました、理解できてしまいました。


 嗚呼、リヨン様はなんて無謀な人なんでしょう…

 今までの説教はなんだったのか、これはまだ聞けない、残された質問は後一回だ。


「要するに、私に魔界市場を作れって事ですか?」

「その通り、貨幣経済も頼むぞ!」

「はっはっは、本当に酷い話ですよね!」

「おいおいおいおいおい!、それ無茶ぶり過ぎだろ!」

「あー、だからチェリーか、確かにそんな話じゃ、多少の能力よりも根性の方が大事になるな」

「私達の知る限り、チェリーを超える商魂(こんじょう)の持ち主はいないものね…」


 まったくだ、なんて無謀なのかしら!


 リヨン様が欲しかったのは市場の独占とか、そういった物じゃない、そんなものは上手くいった時に私にくれるご褒美みたいなもの、言うなれば副産物だ。


『魔界で商業を始める』


 商売じゃない、商業だ。

 しかも私が始めるではなくて、魔界そのものに商業という文明を興せと言うのだ!


「安心しろ、極一部に話しぐらいは出来る知り合いが居る、そこから始めようか!」

「すごい気休めありがとうございます♪」


 いい笑顔で気休めを言われたから、いい笑顔で返した。

 笑顔を作るのは簡単、だって…無謀だと分かってるのにワクワクしてしまうのだ、私は。


「あまりの話に私は怖気付いてしまいました、故にこの商談の判断はチェリー、貴方に任せますが…」

「はい、謹んでお受けします」


 返事は聞くまでもないといった御様子の会長に即答で受けさせてもらった。

 やっぱり私はどこまでも無謀な商人、チェリー・ドリームなのである。

余談ですが作中でポルコ(ジャガイモ)紅ポルコ(サツマイモ)を仲間扱いしてますが違う植物です。


ジャガイモはナス科ナス属

サツマイモはヒルガオ科サツマイモ族


栽培方法もジャガイモは種芋を、サツマイモはツルを植えると全然違います。

序でにヤマイモもサトイモも全く違う生物です、イモって分類とは一体…


まぁ、この世界の住人もトールもそんな事は知らなかったんで、こうなりました。

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