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村長は魔王様!  作者: マカロニ男爵
14/36

魔王様と第一回ドワーフ会議

「それでは第一回ドワーフ会議を始めるぞい!」

「「「おお!」」」」


 ここはハルト村の会議室。

 多分、前の住人達が村民会館に使われてたと思われる建物で、この村では一番大きい建物だ。

 村のみんなで何かを決める時に集まることから通称会議室と呼ばれている。

 今日はここに村のドワーフ達が集まり、エールが注がれたジョッキを片手に会議が始まった。


「なぁ…これは会議なのか?、飲み会なのか?」

「そこはほれ、折角、人界に修行に行ってた同胞が帰ってきたから歓迎会も兼ねて」

「え?、歓迎会もって、歓迎会はもう村の皆でやったよな?、ライスワイン飲み尽くしやがったよね!?」

「いや、そこはその、二次会的な?」

「酒も無しに会議は始まらんわい!」


 人界の技術を導入するために、前々からリヨンは部下の中からドワーフを懇意にしている人界の工房に送り出して修行をさせていた。


 そんなドワーフ達の第一陣が村に帰って来たので盛大に歓迎した。

 そして酒が飛ぶように無くなった、現在のハルト村の生産量ではとてもじゃないが賄いきれなかった。


 その後で「嬢ちゃん、これから重要な会議をするのじゃ」と、この村にずっといる古参のドワーフのギレコフに呼び出されたらこの光景。


 人界から買ってきたエールを飲みながら、ポルコの薄切りを焼いたツマミをつまんでいる…どう見ても飲み会にしか見えないのだ。


「ギレコフ、これは会議だよな?、会議なんだよな!?」

「そうじゃぞ、どう見ても会議じゃろ…ほれ、ボードもあるし」

「ところでギレコフ、なんの会議なんじゃ?」

「ワシもエールが飲めると聞いてここに来たのじゃが、会議って初耳じゃぞ?」

「せめて同胞にはちゃんと説明しよう!?」


 こいつ、やっぱ飲み会がやりたかっただけなんじゃと疑いを目をギレコフに向けていると…

 ギレコフは「オッホン」と咳払いをした後にこれから何を話し合うのかを初めて言い出した。


「お主達は人界の技術を習得して帰ってきたわけじゃが、一体どの技術から導入しようかと思っての」

「なるほどのう、わしらの技術を全部一気にという訳にはいかんだろうしな」

「工房を建てる資材や労力を考えると相当な時間がかかるじゃろう…あ、エールおかわり」

「製品を作る素材の確保も考えると、製鉄はちと厳しいか?、鉱山はこの村の近くの山にあるらしいが鉱夫も揃えんといかんしの、ポルコの塩焼きうまい。」

「飲みながらそんな重要な会議するなーーー!!!」


 話し合う内容は割とこの村の未来を左右する内容だった。

 と言うかドワーフ達だけで決める気だったのか?、しかも酒を飲みながら。

 まぁ、それはまずいと分かってるからこそ、私をここに呼んだんだろうけど…


「嬢ちゃんはどう考えているのじゃ?」

「そうだな、この村にまず必要なのは大工と織物か?」

「建物なら前の住人が捨てていったのがあるじゃろ?」

「去年の冬、このすきま風が入りまくる建物の中で凍えて苦しんだだろう?、メリッサに至っては死にかけたし…」

「確かに死ぬほど寒かったのう…コボルト達がいなければかなりヤバかったわい」


 すきま風が入りまくる、防寒機能がまるでないこの村の建物で過ごした去年の冬はやばかった。


 衣類に関しても、私はともかく他の村の者はボロボロの布切れを簡単に纏っているだけだったから更に寒かっただろう。


 魔界では布は貴重だ、数少ない機織りの技術者が織った布は貴重な上に人界のものと比べて品質が悪い。

 簡単に破けるし、縫ったりする技術もないので簡単に巻きつけることしかできない…


 そんなもので冬の寒さを凌ぐのは至難で、寒さに弱いラミアのメリッサは冗談抜きで死にかけた。

 魔界のもっと奥の方、すなわち南東から来た私達にはハルト村近辺の冬は寒すぎだったのだ。


 生命線はコボルトのモフモフだった、コボルトのモフモフに身を寄せながら私達は厳しい冬を何とか乗り越えたのだ…ペイロンだけはなんか凄く幸せそうだったけど。


「待て、寒さ対策なら酒を作るのもありじゃろ?」

「それじゃ!、蒸留酒、蒸留酒があれば!」

「誰も酒造の修行をしてないだろ!、アンリの独学にも限界はあるぞ!?、可哀想だからこれ以上負担を増やさないであげて!」


 偶然から発見された魔界麦の発酵方と本に乗ってる酒造知識だけでアンリは新しい酒(ライスワイン)を作ってみせた。


 しかし、作られたばかりの時は酷く不味くて、何度も試行錯誤を繰り返して改良して今の出来になった。

 正直、人界の酒に比べるとまだまだクセが強くて作りが甘い気がするが、ドワーフ以外でも飲める酒になったのだ。


 でも、その苦労をまた背負うだけの余裕は今のアンリにはない。

 この村では私に次ぐ地位で実務担当のアンリがこの会議に呼ばれてないのは忙しすぎる所為だろう。


 今ドワーフたちが食べているポルコ、このポルコこそが今のアンリを苦しめている。


 ポルコは魔界定番の作物だ、なにせ魔界の耕作技術でも割と育ってくれるありがたい作物だからだ。


 アンリは未知の魔界の作物でも栽培に成功してみせた。

 似た植物の栽培法などを元に育ったそれらは今まで見たことないほど大きく実り、大量に収穫できた。


 そんなアンリが魔族でも育てられるポルコでしくじるはずはない、皆そう思ってた。


 そして予想通り大量に収穫してみせたが、ここで私達は今まで経験したことがない問題に直面した。


 収穫量が多過ぎる、アンリにとって未知の作物だったポルコは予想以上に栽培が簡単で、失敗も考慮して幾つかの違うタイプの栽培を試していたのが全部大成功した。


 今まで魔界で生きてきた者にとって食料が余ると言うのは先ず体験する事がない経験だ。


 だがポルコは穀物とかと比べると日持ちしない、皮が緑色に変色したり、実から芽が出始めると食べられなくなる、どうも毒を出してしまうらしく、丈夫な魔族でも腹を壊してしまうのだ。


 私達魔族も農奴出身のアンリも食べ物を無駄にしてしまうのは許せない、許せなさ過ぎて暴走した。

 あろう事か余ったポルコをまた全部植えたのだ、ちょっと畑にするには厳しいかな?と思える場所に。


 それでもポルコは凄かった、そしてアンリとその指示を受けたコボルト達は頑張りすぎた。

 全てのポルコは二度目の大豊作となって帰ってきた、ネズミ算も真っ青の増加量で…


 今、アンリはそのポルコをどうにか保存食にする研究に追われている。

 日持ちしないとは言っても暗くて涼しい場所ならば多少はもつ、その間に保存方法を確立せねばならない。


 今のアンリは「ポルコが…ポルコで村が潰れちゃう…」と呟きながら必死に頑張っている。

 余ってるポルコをもう一度植えたら、村は本当にポルコに潰されるだろう、物理的に。


「しかし、食っても食っても無くならんのう…」

「いっそ、ポルコも酒にしてみるか?、いや、アンリ嬢じゃなくてワシがの」

「ギレコフが?出来るのか?」

「ワシも何らかの技術を身に着けようと思っての、アンリ嬢と一緒にライスワインを作っておったのじゃ、今ならもうライスワインじゃったらワシだけでも仕込めるぞ?…流石に不憫じゃから負担を減らしてやりたいしの」

「そうか、頼む…だが、酒造所の増築はまだだぞ?」

「何故じゃ!?」

「魔界麦の方はまだそこまで収穫できないから大きな施設は必要ない、増築する時は魔界麦の収穫量が増えるか、ポルコでも酒が作れるようになってからだろう」

「ぐぬぬ…仕方あるまい、今回は見送るとしよう」


 まったく、ドワーフ達の酒に対する執念はすごいな。

 でもライスワインの製造をギレコフが習得してくれたのは有難い。

 アンリでは自分じゃ飲めないなどの弊害がある作業だし、他にも色々仕事があるからな…

 うーん、まだ11歳の子をあんなに働かせていいのだろうか?、もう少し楽をさせてあげたい。


「となると木材加工所と織物じゃろうか?、織物は繊維が手に入るかのぉ?」

「家畜として羊を買っている、アンリ曰く「そろそろ刈らなくちゃ、刈り方教えなきゃ」って言っているから、アンリの手さえ開けば手に入ると思う」

「アンリ嬢の手って空くことがあるのかの?、と言うか流石に働き過ぎではないか?」

「休みを与えても気がつくと働いてるんだよな…倒れないか心配だ」

「ワシ知ってるぞ、そう言うの人界じゃ『社畜』って呼ぶんじゃ」

「うちの村がブラック企業に!?」


 だけど農家というものは休みがあまりないから仕方がない。

 ましては開拓をしているとなると次から次へと仕事が鬼のように湧いてくる。

 しかもその仕事をこなさないと生活もままならないのが開拓者なのだ。


 作業、実務という分野では出来る事が誰よりも多いアンリが多忙になってしまうのは必然だった。


「アンリの事は…コボルト達が仕事を覚えていけば多少は改善されるはずだ、コボルトの数も増えてるしな」

「今じゃ50人は居るのぉ、なんであんなに増えたのじゃ?」

「ペイロンが勧誘してくるのもあるが、どうもここではいい暮らしが出来るとコボルト同士の間で広まってるらしい」

「ブラック村なのにな」

「ブラック村言うな、そ、そのうち労働環境は改善する、人手が増えれば!」

「となるとコボルトが増えるのは良いことじゃな、食料の心配もないし」

「違う意味の食料の心配を抱えてるがな」


 山のようなポルコ、この会議室にも袋に入れられ積まれている。

 毎日ポルコなので流石に飽きてきた、魔界では贅沢すぎる不満だが飽きてきたものは飽きてきた。


「うむ、話を戻すが…そうなると木工所が最初かな?、木工所があれば織り機も作れるし」

「そうじゃの、木工所がなくては他の工房も立てられんしの」

「木材加工も他の加工も金属製品が欲しいのじゃが」

「製鉄はまだじゃ…ただでさえ人手が足りないのに鉱夫まで必要になったらアンリ嬢が死んでしまいそうじゃわい」

「必要な金属製品はとりあえず人界から買ってくるしかあるまい、とりあえずは木材加工用のものか…」

「伐採も必要じゃから、斧とかも頼むぞい」

「伐採…木こり…ま、また人手が!?」


 どうしても付きまとってくるのは人手の問題、コボルトは増えてきてるがそれ以上に仕事が増えていく。

 そんな時、木工を学んできたドワーフのゴンザレスが手を挙げる。


「非力なコボルトやアンリちゃんでは木こりに向かんわい、ワシがやり方習得してきてるから村の男衆に叩きんでやらせるべきじゃろう」

「ゴンザレス、木工だけではなく伐採も覚えてきたのか?」

「職人芸を磨いていくとの、素材の方にも拘りたくなってくるのじゃ」

「3年の修行でそういう領域に達してるのか、流石はドワーフ」

「職人仕事はいい、やっぱ血なんじゃろな、生きてるって実感が沸いてやる気がみなぎるわい」

「ワシも酒を造ってると飲む気がみなぎってくるわい!」

「造ったそばから全部飲むなよ?」

「と、当然じゃ飲まんわい…多分」

「多分!?」


 実は今までも飲んでたりしないよな?、飲んでても試飲だけですませてるよな?

 ドワーフの試飲とか試飲じゃすまない量になりそうな気がしないでもないが。


「とりあえずの方針はそんな所か…他の者はすまん、手が回るようになったら手を付けるから」

「製鉄は当分先か…まぁ仕方なかろう先ずはゴンザレスの腕を見るとしようぞ」

「ゴンザレス、織り機はちゃんと作れるんじゃろうな?」

「任せていおけ、人界のに負けん奴をビシッと作ったるわい」

「建物の補修や建築はワシに任せろ、人界の大工仕事ってやつを見せてやるわ!…レンガや石造りはまだ出来んのが残念じゃがの」

「その辺りはちっとずつ進めていくしかあるまい」


 検討した結果、先ずは木工技術の導入から始まる事となったハルト村。


 奴隷の仕事ではない、ドワーフの生きがいである職人としての仕事が出来る喜びにドワーフ達は湧いていた…そしてエールも底を尽きたと同時に第一回ドワーフ会議は終了した。


 ――後日。


「ま、魔王様、ポルコの保存方法の目処が付きました…」

「でかした!…って、アンリ!?、目にすごいクマが!?」

「大丈夫です、30分も寝ました…それで、完成したのがこのポルコフレークです」

「大丈夫じゃないとしか思えんのだが…」

「大丈夫です、ポルコを茹でて裏ごして乾燥させたもので、水で戻せばちゃんと食べられます」

「いや、そっちの心配じゃなくて……え?、茹でて裏ごしして乾燥?」

「はい」

「……これ、全部?」

「はい、では作業に取りか…」

「お、お前はもう休め、休んでくれ!!、おい、コボルト達、コボルト達は居ないか!?」

「でも、早くしないと納期が…ノルマが…ありがとうを集めないと…」

「ダメだ、魂が社畜になりかけてる!」


 その後、コボルト達一緒に必死に説得をしてなんとかアンリに眠ってもらい、コボルト達とリヨンはその間にこの膨大な仕事量に全力で挑んだ。


「ポルコには勝てなかったよ…」

「ち、力及ばず…申し訳ありませんアンリ様…ぐふっ!」


 魔王すら凌駕するポルコの恐怖。

 結局、村のもの総出で2日程かかって、やっとポルコの保存は完了したのである。

ポルコはこっちの世界で言うジャガイモの筈です。

収穫量がジャガイモのそれすら上回っている気がしますが気のせいです。

ジャガイモ的な何かです。

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