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村長は魔王様!  作者: マカロニ男爵
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魔王様とシンデレラ

「あ~、臭かった~」


 私はハルト村に住むラミア族のメリッサ。


 あの『肥溜め』とか言う排泄物捨て場に家のトイレに溜まった排泄物を捨て終えて一息つく。


『肥溜め』自体は臭くて汚いがアレはいいものね、あそこに汚いものを集めてるから村の中が随分綺麗になったわ、おかげですごく住み心地がいい。


 村長さん(魔王様)がアンリちゃんを連れてきてから一年、この村は随分変わった。


 魔界では珍しい戦争嫌いの私達は、村長さんが言う『人界のような安定した生活』を夢見てここに来た訳だけどアンリちゃんが来てわかった、人界の生活とは想像以上に素晴らしいものだった事を。


 私達ラミアは女しかいないし、人間の男との間にしか子供を作れない。

 故に私達は人間をとても大事にする、魔界でも珍しい種族だ…


 ラミア族は言うなれば愛のために生きる種族、だがそんな私達が愛と同じぐらい大切に思うものがある。


 それは甘味(スイーツ)、先代魔王のライオス様から時折分け与えて頂いた果実などが持つ甘味。

 そんな甘味(スイーツ)という幸福感を私達ラミアはこよなく愛する、アレは私達の至福なのだ。


 それを村長さんとアンリちゃんは変な植物から生み出した。


 砂糖…それは幸福を呼ぶ愛しき粉、果物の甘さだけを凝縮したように思える存在。

 それを混ぜた麦の粉末を練って焼いたり、潰したポコロに練り込んで焼いたりするだけで甘味(スイーツ)になる、正に正義(ジャスティス)としか呼べない代物。


 しかも村長さんやアンリちゃんは「失敗だ」と言う、人界にある『菓子』と呼ばれる甘味(スイーツ)には遠く及ばないとの事…あれだけ素晴らしいのに、人界にはもっと凄い甘味(スイーツ)があるなんて!


 村長さんが友人に鍛えさせてるらしいコルトという名のコボルトの帰還が待ち遠しい!

 今でさえ凄い幸せなのに、更なる幸福が待ってると言われると期待で胸が張り裂けそう!


 そして『愛』に付いても満たされている!

 村の男達は、魔界の他の男たちより良い暮らしが出来てるからみんな小奇麗なの。

 故にイケメンが多い、甘味(スイーツ)(イケメン)に溢れた素晴らしい暮らし。


 今のハルト村はラミアの私にとって楽園(パライソ)と言っても過言ではない!



「アンリ様、西の畑の堆肥まきが完了しました!」

「ありがとうございます、で、でも何度も言うように『様』はいらないですよ?」

「そ、そんな恐れ多い!」

「アンリ様は魔王様の義娘ですよ!、僕たちコボルトがそんな口をきけるはずありません!」

「うう~、やっと友達出来るかと思ったのに距離感が…」


 1年経っても変わらないアンリちゃんを見て思わず苦笑いがこぼれる。


 私は先代魔王様の部下だったからあえて『村長さん』と呼んでからかったりしちゃってるけど…


 リヨン様はレオンハルト家の娘、魔界でも有数の実力者だった金色の魔王ライオス様の娘である。


 レオンハルトの家名は魔界全土に轟いている、アンリちゃんはそのレオンハルトの姓を頂き、リヨン様が自ら『義娘』と認めた存在、要するに魔界ではお姫様なのだ。


 更に言えば実力主義の魔界において半魔の地位はかなり高い。

 魔界において王侯貴族と呼ぶべき魔人族の血を半分引いていて、魔人と同じく不老。


 生まれたばかりだと人間程度の力しかないが、成長速度も人間と同じぐらいの上に老いによる弱体化がない。

 それ故、数百年経れば実力で魔人と並ぶ存在になりうるし、半魔の魔王と言うのも魔界には何人かいる。


 魔人が自身の手駒として人間と子供を作ったり、人族同士の夫婦の間に生まれた取り替え子(チェンジリング)を取り立てて高い地位を授けるのも珍しい話ではない。


 奴隷身分の人族の間で取り替え子(チェンジリング)が生まれた時などは一族総出で祝福し、大事に大事に育てられる、半魔の子こそ自分達を奴隷身分から解放させてくれるかもしれない数少ない希望だからだ。


 正直、人界ではそんな半魔が迫害されているなんて話はなかなか信じられない。


「相変わらずね、アンリちゃん」

「め、メリッサさん…どうやったらコボルトさんと仲良くなれるんでしょうか?」

「え?、すごく慕われてるじゃない?」

「いや、そうじゃなくて…もう少し気安くして欲しい」

「あははは…」


 うん、ごめん、それは無理。

 コボルト達は魔界では奴隷の人族と同等、最下層の地位を与えらてた存在。

 如何にこの村では市民権が与えられていると言っても、身に付いた奴隷根性はなかなか拭えない。


 ましてやアンリちゃんは魔王の義娘。


 そんなアンリちゃんと初めて会ったコボルトが最初に抱いた感情は絶望と恐怖だった。


 初めて会ったとき、自分達が作った食事を食べたアンリちゃんが悶絶したのだ。

 人界の食べ物は魔界のよりずっと美味しいとは聞いていたけど、まさかここまでとは知らなかったコボルト達は驚き、そして恐怖した。


 魔王の義娘に苦しむほど不味い食事を食べさせてしまった。

 通常なら即座に首が飛ぶ、否、一族郎党皆殺しにされても不思議ではない大失態。

 村長さんは寛大な魔王なれど義娘がこんな状態になれば怒りは免れないとコボルト達が震え上がった。


 しかし、アンリちゃんはコボルト達を咎めなかった。

 それどころか、苦しそうにしながらも自分達が作ったものを無理やり完食した上で不問にした。


 その姿にコボルト達の恐怖は感激に変わった。


 更に次の食事は自ら作るといい、ここで私達は人界の食事を初めて口にした。


 アンリちゃんが悶絶した理由は誰しもが分かった…今まで自分達が食べてきた物とは違いすぎる。


 食べにくい部分を取り除く『下拵え』と言う過程を踏んだ食事。

 塩と呼ばれる物を振りかけた『味付け』というものを加えた食事。


 正直、魔界基準では贅沢すぎる食材の使い方だったが、私達は普通の食事で幸福を感じるという初めての体験をしたのだ。


 アンリちゃん曰く「簡単なことしか出来ない」との話だったが、その味は私たちにとって革命(レボリューション)だ、もう絶対に昔には戻れない、戻りたくない。


 この一晩で単なる地位だけではなく誰もがアンリちゃんと言う個人に一目置くようになった。


 そしてアンリちゃんはそのやり方をコボルト達に教えた。


 失敗しても怒らず、なぜ失敗したのか一緒に考え、同じ物をコボルト達も作れるようになるまで何度も何度も親切に教えていった。


 雲の上の存在と言えるお姫様が膝を突き合わせて自分達にいろいろ教えてくださっている、それも失敗しても怒らず、いろいろ考えてくださって成功にまで導いた。


 その恩にコボルト達の感激は絶対なる忠誠へと至った。


 犬の魔族である彼等は普段は臆病だが、忠誠を抱いた主人の為ならば死を恐れない。

 この村のコボルト達はアンリちゃんの為なら迷いなく死ねるだろう、そんな絶対の忠誠だ。


「卑しい生まれの私でも、コボルトさんとなら友達になれるかもと思ったのに…」

「アンリちゃん、何度も言ってるけどアンリちゃんはこの魔都(むら)のお姫様なんだからね?」

「私がお姫様だとか、そんなはずありません」

「相変わらず頑なねぇ…」


 アンリちゃんがこの村のお姫様だと認めているのは何もコボルト達だけではない。

 私達だってそうだし、他の人族もそう、気難しいドワーフ達だってアンリちゃんを認めている。


 この子は本当に賢い、何でも人界からこの村に来るまでのわずかな時間で『魔族共通語』を習得してしまったらしい。


 村の人間の男に「人族はこれが普通なのか?」聞いたら、「きっとあの子は神の子だ」という返答が帰ってきたのだから間違いなく天才なのでしょう。


 そんな天才は村長さんが買ってきた書物、そして人界でほんの少し仕込みを手伝っただけのワイン造りの経験、それと…


 村長さんがアンリちゃんの真似をして魔界麦だけを煮たけど失敗した料理。

 それを一口噛んで不味さに思わずぺって吐き出してしまった物が入った状態で、うっかり暫く放置してしまった結果生まれた産物から酒精の匂いがした…


 そんな村長さんの失敗から生まれたミラクルとワイン造りの情報とを合わせて新しいお酒を作る事も成功させた。


 私達が魔界麦と呼ぶ作物は麦というより人界のライスと呼ばれる作物に近い事から『ライスワイン』と名付けられたお酒にドワーフ達もニッコリ。


 アンリちゃんがこの村のNO2である事は誰しも認めることとなった。


 因みに人界のライスと比べて魔界麦は何だか短いらしい、ポコロもそうだけど、アンリちゃんでも魔界で初めて見た作物ってのが多いらしいわね。


「しかし、一度噛んで吐き出した魔界麦がお酒になるとわね」

「ライスワインの事ですか?、私も意外でした、葡萄酒とは全然違ってて…人界にも多分ないお酒です」

「なんかちょっとばっちい感じよね」

「ですけど、村の人達は気にしてないようですし」


 と、アンリちゃんは言うけれど事実は違う。


 ドワーフ達は酒が飲めればなんだっていいって感じだけど、村の男の一部には「むしろそれがいい」とか言い出してる変態がいる。


 村長さんは美少女だ、300歳超えてて少女と言うのもアレだが背が低いのでどうも少女と呼びたくなる。

 ドワーフ達からも嬢ちゃん呼ばわりだし…だが見目麗しいのは間違いない。


 そんな美少女の唾液入りとかご褒美ですなどとのたまう人間の男が一定数居る…そんな村の汚い部分はアンリちゃんには黙っておこう。


「ねぇ、アンリちゃん…この(魔界)の生活には慣れてきた?」

「は、はい、でも何だか幸せすぎて戸惑ってしまうことも多いです…」

「ふふ、相変わらず遠慮がちね、謙虚すぎるのも問題よ?」

「ご、ごめんなさい、メリッサさん」


 私はアンリちゃんの頭を撫でながら考える。


 この子の遠慮は生まれた環境によるもの、こんな良い子を虐めた人界の環境。

 その傷跡は相当に深く、これだけ皆に貢献してるのにまだ嫌われるのを怯えているかのようだ…


 そんな環境から一夜にして、この小さな村のとは言えお姫様になってしまった事を受け入れるのは容易ではないだろう。


 愛されるべき存在であり、愛を求めている子なのにその愛に怯えている可哀想な子供。


 ラミアは愛に生きる種族、それは男だけではない子供だってそう。


 村長さん(リヨン様)の事だって愛している、愛した魔王の娘であり、今や愛すべき主君だ。

 村長さん(リヨン様)はライオス様からよろしく頼むとご命令を受けたのが愛の始まりだけど、今度は自らの意思で自分に命令を下そう。


 私はこの可哀想で可愛いらしい二代目魔王の娘(シンデレラ)も愛する事を。

サブタイトルが魔王様とシンデレラなのに魔王様(主人公)が出てきてない!?

まぁ、そういう時もあるのでご容赦を。

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