雨の日のドアの閉まる音
雨はまだ降っている。相当な豪雨だ。あの馬鹿はさすがに家に帰っただろうか。雷が鳴り出した。
まあ、追ってくる音は十秒以上後だから、大丈夫だろう。
でも、私は。
自他共に完璧を誇る私は、
全然、大丈夫なんかじゃない。
雨の打ち付ける窓よりも歪むこの視界は一体何だというのか。
何故こうなった?
手の中で妹は笑っている。
硬直して体を上手く動かせないようなのに、非常に表情豊かに、私が最初に望んだように人間らしい表情に富んでいる。けれど、私の全く望んでいない言葉を投げ掛けてくる。
天才たる私が、本来受けるはずもないであろう、
満面の嘲笑が、そこにある。
愛しい人形の首を絞め上げる手が震えるのは、力が入っているからじゃない。
酷く、恐ろしいのだ。
そんなので、死ぬと思っているの?
そう言う人形の表情は皮肉にもこの上なく人間らしく、
残酷にも、この上なく人形らしかった。
人形は嘲笑うのをやめようとしない。
今まで、姉に従順で、純真無垢だった人形の姿ではない。
こんな妹、知らない。
凍りついた刹那の中で、雨音だけが不躾に窓を、屋根を、ドアを、無遠慮にノックし続ける。
地獄のような沈黙。
地獄のような騒音。
ぴかり、とまた雷光が瞬く。ホラー映画で出てきてもおかしくないような、貼りついた人形の嘲笑が、鮮明な陰影を得る。
目に、私が[妹]に求めていた[光]など、一切宿っていない。
人形は語る。
ねぇ? お姉ちゃんが願ったんでしょ? わたしが[永遠に]あなたの[妹]であることを。
だから、わたしは不老で──不死なんでしょ?
お姉ちゃん、[人形]の首をへし折って、[人間]が死んだら、矛盾するよね? お姉ちゃんは[人形]に[永遠の妹]であることを思っていたのに、その妹を殺そうとしている。死んでほしいと願っている。
[永久不変の妹]を求めたのに、[死ね]って、お姉ちゃんはわたしを殺すんだね。
とんだ矛盾だよ。ちゃんちゃらおかしいっていうの?
さあ、
人形の無機質な嘲笑が唱える。
雨音が掻き消せないほど、高らかに。
こんなお伽噺、終わらせればいいじゃない。人形のわたしが必要ないなら。
ほら、玄関のドアみたいに簡単に終われるでしょう?
直後、ぱたりとした音は、
果たして何の音だったのだろうか。