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竜記伝~その竜たちは晦夜(かいや)に吼えて~  作者: Win-CL
竜記伝―隻腕のテリオと美食行脚の円還竜《ウロボロス》―
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第8話 出港! 魚介の街リナード

「アルデンに行きたいのか? グラチネ往きの船はまだ準備中だぜ」


 グラチネとは、アルデンのある大陸の港町――テリオたちの目の前に浮かんでいる船の行先だった。船長の言うように、現在はまだ出港できない状態らしく。彼の後ろでは、船員たちが忙しなく荷を積んでいる。


「準備中なら仕方ないか……。どれぐらいかかりそうなんです?」

「あー二時間ほどだな。そこらで飯でも食いながら、時間を潰しててくれや」


「――メシ!」


 船長の‟飯”という言葉にキビィが反応した。


「二時間もあるなら仕方ない! じっくりたっぷり、腹を膨らませねばな!」


 ファリネでは食事を取らず、急いで移動していたこともあってか――飯屋を探している間中、目を輝かせ、飛び跳ねるキビィ。


「……お前、ファリネで飴食ってなかったか」

「馬鹿め! それで足りるとでも思っているのか!」


 港町、新鮮な食材が集まるこの街だからこそ。ファリネ以上の、様々な種類の飯屋が並んでいた。とは言えども、テリオにとっては初めて訪れる漁港。どの店が美味いかなど皆目見当もつかない。


「ええい、まどろっこしい! さっさと付いて来い!」


 そんな様子のテリオに付き合っていては、あっという間に二時間など経ってしまうと、キビィは無理矢理にその店の一つに引きずり込んでいく。


「ここらで獲れる魚が美味いんだまた!」

「へぇ……」


 テリオがいたルヴニールの店には、海に生息する魚介はたまにしか並ばない。理由は単純なもので、魚を取り扱った行商が頻繁に来ないためである。


「とりあえず、メニューに載っている料理を全部だ。頼んだぞ、テリオ」

「……おい待て、頼み過ぎだ。まさか、ここの食事代も全て俺が払うのか?」


「当たり前だろう。お前の命の価値は、この店の料理よりも下なのか?」

「ぐっ……」


 一歩間違えれば、強請(ゆす)りや(たか)り。さも当然と言わんばかりのキビィに、護衛としてではなく、金目当てで命を助けられたのではないかという気さえしていた。


「……頼むから加減をしてくれ。所持金にも限界があるんだぞ?」


 行く店全部の料金を支払うだなんて、たまったものでは無い。この先もまともな食事にあり付きたいのならばと、キビィに念を押すテリオ。


「いざとなったら、お前が稼げばいいではないか……」


 ブツブツと愚痴を言いながらも、三品選んで注文したキビィだったが――


「はいよ、お待ちどうさん」

「ふぅぁ――!」


 給仕が運んできた料理に、すぐさま目を輝かせ始めた。それはまるで宝石を眺めている少女のような何かで――テリオが初めて見る、キビィの見た目相応の反応だった。


「新鮮な魚ってのは、塩漬けや燻製にする必要がないからな! 焼いたときは、ふっくらした食感になる。最高だぞ!」

「飯ぐらい落ち着いて食べさせて――」


 放っておくと椅子から立ち上がって演説を始めそうな勢いのキビィ。それを横目に、テリオは手近な皿に盛りつけられた焼き魚へとフォークを伸ばす。そして、それを口に入れた瞬間――


「――っ!」

「どうだ。言った通りだったろう?」


 ほぐれた身を噛み締めるごとに、口の中に魚の旨みが、脂味が広がっていく。キビィの言っていたように、保存用の加工を施していないためか――塩味もちょうど良いぐらいの濃さで、素材の味が際立っていた。


「……こんなに美味い魚は久しぶり――いや、始めてかもしれない」


 焼き魚だけではなく、出された料理はどれもテリオを驚かせるほどの美味しさで。キビィの自称していた‟美食家”というのも――あながち嘘でもないのかもしれないと。そう思い始めるテリオだった。


「生で食べるのも中々に美味いのだがな。弾力があって、噛めば噛むほど甘味が口の中に広がる。新鮮な状態で手に入る港町ならではの食い方だ」

「な、生で……?」


 魚の調理と言えば、焼くか煮るか。生で食べるなど聞いたことのないテリオだったが、先ほどの料理の衝撃は大きく。『そんな食べ方は変わっている』と一蹴することもできない。


「パンに野菜と挟んでオイルをかけて食うんだ。地域によっては、果物の果汁をかける所もある。こっちも酸味が利いてて美味いぞ」


 いったん火が付いてしまっては最後――その後も、キビィは生魚の料理について熱く語り続けていた。






 腹を膨らませた二人が戻ったころには、荷は全て積み終えられた後。すぐに出発できる状態まで整っており、船長が腕を組みながら船の前で待っていた。


「待ってたぜ、乗客はアンタたちで最後だ。すぐに出港だから早く乗ってくんな」


「よろしくお願いします」

「早く乗り込むぞ! テリオ!」


 二人が船に乗り込み、船長が最後に乗り込んだのを確認して、船員たちが足場を引き上げ船を動かし始める。船はあっという間に港から離れ――風を受けながら、波をかき分けながら。前へ、前へと進んでゆく。


「――――」

「気になるのならば、前に行って見てくるといい」


 初めて見る景色にそわそわしていたテリオに、こなれた様子で鼻歌を歌っていたキビィが声をかける。


 ――初の海上。


 外から眺めているのと実際に出てみるのでは、当然違いはあるもので――風の匂いも、遮られることなく真っ直ぐと進んで行く感覚も、足元の不安感も。テリオにとって、何もかもが初めての経験だった。


 そして、初めての経験が故に。出港してからというもの、揺れる足場に戸惑うテリオ。当然前に行くのも一苦労で、途中で船員たちに囃し立てられる始末である。


「大丈夫か、(あん)ちゃん」

「ここらの海じゃ、そうそう危険な魔物も出てきやしないから安心してくれや」


 そんなことを言いながらも、ひらりと船上を移動していく船員たちに苦笑いを浮かべながら、テリオはなんとか前方へと辿り着いた。


 遠くには目的地である、グラチネが見える。今は親指程度の大きさだが、この調子ならばあっという間に着くであろう距離。散々眺めて満足したところでテリオが後部デッキへと戻ると――キビィは手摺に腰かけており、すでに遠く離れた港を眺めていた。


「船の揺れにも慣れてきたか?」

「あぁ、おかげでこれ以上船員たちに馬鹿にされるようなことはなさそうだよ」


 にやにやと尋ねるキビィに、テリオは溜め息を吐きながら答える。そうして次に考えなければならないのは、これからの旅についてである。


「騎士団の方では、向こうの大陸でも凶暴化した様子があるって話だった。船員の話じゃ、ここら辺には危険な魔物も出てこないとは言っていたけど――」

「そんなことは無いだろう。あの規模だと、世界中に影響が出ていてもおかしくない。……もちろん、空にも、海にもだ」


 世界中――空も、海も。


 ――海。


「……まさか――」


 テリオの脳裏に、嫌な予感がよぎったその瞬間。――衝撃と共に、ぐらりと船が大きく傾く。突然のことに身構えているわけもなく、一際小柄であるキビィの身体がふわりと浮いた。


「――おっと!」


 海に落ちそうになったキビィを、咄嗟に左腕で掴み抱きとめるテリオ。


「大丈夫か?」

「あ、あぁ。ありがとう。……波も出ていないのに揺れたということは――」


「魔物が現れた! 乗客は船の中に避難していてくれ!」

「こんなにでかいヤツは初めてだぞ!? いいか野郎ども、銛でも何でもいい! 武器を持て!」


 船員たちが立ち向かう先にいるのは、幾つもの吸盤を携えた巨大な触手。船を囲むように、何本も海面から伸びており――マストなどに絡みついては、ミシミシと締め上げていた。


 それ(・・)はもちろん、船だけではなく、乗客にも襲い掛かる。このままではいけないと、船員たちが銛で突くが大した効果は見られず、時間を稼ぐだけで精一杯の様子。そして――


 同じ船に乗っている以上、テリオたちも標的となるのは当然のことだった。


「――くっ」


 昨夜に魔物を吹き飛ばした時のように、伸びてくる触手に勢いよく拳を叩きつけるキビィだったが、船員が放った銛と同様に、ブヨブヨとした表皮によって弾かれてしまう。


 キビィが体勢を崩した次の瞬間、獲物を捕らえようとしているのか――触手がぐるりと、彼女の周りを囲むように伸びていく。


 あの太いマストでさえ、締め上げられ、折れる寸前の状態となっているのだ。テリオにとって、これが初めて見た魔物だとしても。この先どうなるかなど、容易に想像できた。


 このままではキビィも――


「――キビィ!」


 恐ろしいほどの寒気に押されるように、一足飛びに距離を詰めたテリオ。息を吐くのも忘れるほどに、我武者羅(がむしゃら)とも言える速度で剣を抜く。


 ――紫電一閃。


 日の光を反射しながら振るわれたそれは、見る者の瞳に美しい弧を描き出した。その綺麗な剣筋に、キビィは思わず息を呑む。


「ほぅ――」


 触手は切り付けられた部分から裂けていき、根本の部分はキビィを諦め海の中へと戻っていったのだった。


「次は――どいつだ!」

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