Ⅴ
食事をする必要がないのに、人を襲っていた。
そのことに怒りを覚えはしたものの――
今はその話をするべきではないと、少年は堪える。
冷静に話を整理すると、こういうことだ。
月を取り戻す為に戦っていた、人と竜。
その原因となる月の消失は、どちらの手によるものでもなかった。
全てはその“太陽”のせいだと、その竜は言った。
「それなら……」
竜の話が本当だとするならば――
やらなければいけないことは一つだろう。
これから世界中を回って。
世界中の人にこの話をしたところで。
月が失われた事実ですら、今となってはおとぎ話になっていて。
月を取り戻すだなんて、まともに聞いてもらえるはずがない。
だからと言って、一人じゃ到底無理なことも
少年は十分に分かっていた。
「……それなら、どうするんだ? 小僧よ」
それで本当に月が取り戻せるのなら。
この世界が変わるのなら。
だからこそ、少年は手を差し出す。
たとえ一人では無理なのだとしても――
目の前にいる彼とならば。きっと。
だからこそ、少年は選ぶ。
――今まで誰も取ることの無かった選択を。
「俺と一緒に――“月”を取り戻さないか」
~『黒の竜と月の蜜』~




