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竜記伝~その竜たちは晦夜(かいや)に吼えて~  作者: Win-CL
竜記伝-忘却のクルーデと羞月閉花の赤金竜《ファーヴニル》-

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第16話 最後の目的地

「今回は“当たり”だといいのだけれど――」


 地下空洞の街ヴァープールを離れて世界中を旅するようになり、およそ二年も過ぎたかという頃。未だに二人は“黒い靄”によって生成されている、靄竜の相手を続けていた。


「図体だけは“大当たり”なんだが……」


 目の前には、家ほどの大きさの靄竜が一頭。『これが襲ってきたのが海上や街中でなくて良かったわ』とフラルは呟く。


 一つの場所に留まることなることなく、港から港へ転々としながらの旅の中。靄竜の姿を見なくなったのは、旅を始めてから最初の数か月ぐらいで――追ってくる速度も精度も少しずつ上昇しているのか、数日同じ場所にいるだけで湧いてくる始末。小型のもの限定ではあるものの、移動中の船へと降り立ってくることもしばしば。


「貴方としては、戦闘の練習になって楽しいのでしょうけどね。……これはこれでストレスが溜まるのよ」


 大型のものとはいえ、これまで見てきたものはどれも微妙に形が異なっているのだが――基本的にはヴァープールで戦ったものと同様に、クルーデの剣だけではなくフラルの能力による鋼線も大剣も、どれも通常の攻撃が通らないのだった。


 当然、黒炎のブレスももれなく付随しており、自分が防戦を強いられるというのも気に入らないし、クルーデが飛び込んで弱点に一撃を加えるというのが通例とも言える勝ち方であることにも、彼女は不満を感じていた。


「……準備はいい?」

「あぁ……!」


 最適化された工程により、一瞬のうちに飛びだすクルーデ。糸によって空中での簡単な軌道調整も行えるようになっており、迎え撃って吐き出された黒炎を躱し――開きっぱなしの口内目がけて、あらかじめフラルが生成していた槍を投擲する。


 ――飲み込まれ、体内深部へと到達した槍が形を変える。


 より激しく、より鋭利に。外部に比べて防御の利かない内壁を、360度、滅多矢鱈に飛び出した棘が貫いて。


「……いつも主人より活躍していて悪いな」


 黒い靄へと戻り始めた靄竜の身体から飛び降り、フラルの不満気が表情をみるなり冗談半分にそう言うのだが、フラルは『そういう問題じゃないのだけれど』と肩を竦める。


「貴方はまだまだ他人の心を読むのが下手なのね――……っ! ……クルーデ」


 いつの日か、彼がこの気持ちに気づく時が来るのだろうかと憂うフラルだったが――強烈な違和感を受け、クルーデの名前を呼ぶ。ヴァープールの時と同じ、黒い靄から流れ込んでくる断片的なイメージを読み取るため、フラルは意識を集中し始める。


「……“当たり”よ」

「――――っ」


 こんな紛い物が元々持ちえるはずもない“意思”、“意識”。それが意図的に組み込まれたものなのか、それとも事故で混ざっているのか。何かがあるのは間違いないのだが、喧しいまでの雑音(ノイズ)がそれを読み取る邪魔をする。


「…………!」


 よほど執着があるのか、その言葉自体が黒い靄となっているようで。そこからなんとか一つだけ掬い出し、読み取るフラル。その名前――少なからず関係があるだろうと、そう考えていた竜の名。――『キビィ』という、他に聞き間違えるはずもない名前。


「キビィを探している……?」


 フラルの中で、これまでのことが繋がり始める。靄竜たちが執拗に彼女達を――クルーデを追い続けてきた理由。それは彼に染みついた、キビィの匂いに他ならなかった。


 なぜ本体(キビィ)の方に行かないのか、もしくは既に向こうも靄竜に追われているのか。どちらかは判断できないが、彼女の一時的な宿主になったクルーデならば、追われるには十分すぎる理由となるだろう。


 フラルにはもう殆ど感じられないにしても、キビィの嗅覚ならあるいは。そしてそれを追っている靄竜ならば。ルヴニールで討伐されて十年余――ここ数年程度じゃ落ちないほどに、それはまるで呪いのように、クルーデの身体に染みついていた。


 そして大量の雑音(ノイズ)に覆い隠されている中で、ようやく見つけたもう一つの情報は――


「エルミセル……」


 これ以上の厄介事は御免だと、今まで彼女が避け続けていた禁断の地。――魔法都市(エルミセル)の名だった。


「そこに……何かあるのか」

「“なにも無い訳がない”というのが、あの都市の印象だけどね。……少なくとも、あそこに足を踏み入れなければいけない理由ができてしまったわ」


『あーやだやだ』と、彼女は口癖と共に大きく溜め息を吐く。


 これまで訪れたどんな場所よりも窮屈で。どんな場所よりも気を張る必要があるだろう。これならば、まだ魔境の一つにでも突入した方が気が楽だとフラルはぼやくのだった。


「……旅の終わりが近いのかもね。次の目的地は――」


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