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Ⅲ
その少年は、夜の世界に思いを馳せる。
物語で語られる月に
暗い世界を照らす、眩しくも冷たい光に
とても興味を持ったから。
――もう一度でいい。
この世界に顔を出して、夜の世界を照らして欲しかったから。
子供用の絵本に書いてあるような、そんな眉唾ものの話だけれど――
それに縋って、世界中の荒野という荒野を渡り歩いた。
そして、永い時間をかけて、厳しい暑さに耐えて。
――ようやく昔見た物語に出てきた、黒の竜に会うことができたのだった。
「……なんだ? 人間がわざわざ、この荒野へ何しに来た。
食糧になりにでも来たのか?」
「……月を返して貰いにだ」
それを聞くなり、空気が震えるほどの音量で。
ゲラゲラ笑い出す黒の竜。
口の端から炎が漏れ出す。
鼻先を少年に近づけ息を吐き出すと――
少年は目を開けるのも辛そうにしていた。
~『黒の竜と月の蜜』~




