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竜記伝~その竜たちは晦夜(かいや)に吼えて~  作者: Win-CL
竜記伝―羨空のシエルと震天動地の流星竜《リンドヴルム》―

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第11話 そして少女は空を往く

 時は流れ三年後――


 分厚い雲に覆われた空の下――日が差すこともない薄暗い中に、少女の声が響く。


「んー! いい風!」


 大型のゴーグルを付けた青髪の少女、シエルの周りをごうごうと風を押し退けていく音が包んでいた。流れていく風景。彼女の眼下に広がるのは、青々と生い茂る木々。


「この調子なら――」


 あの時と同じ場所で、同じコンディションで。体に風を受けながら、両腕を大きく広げるシエル。しかし、あの時と何もかもが同じというわけでもなく、違う部分も多々あった。


 肝心の飛空艇がどこにもないこと。

 そして――イグナも一緒に外に出ていること。

 過去に失われたイグナの翼が、再び人工のもので補われていることだった。


 更に言うなれば、元々それがイグナのものだったかのように馴染んでおり。雄々しく広げられた両翼は、飛空艇のものよりも大きく、強靭に作られていた。


「この三年間、イグナの身体にあった翼を作り続けてきて――やっと最高のものが出来上がったと思ってる」


 シエルが傷ついたイグナを廃坑道で見つけ、連れ帰ったその日から三年間。それまで行っていた飛空艇の作業は殆ど止まり、彼女は全てをイグナの翼づくりに費やしていた。


 イグナのその力に釣り合う翼がないのならば、自分が作ればいいのだと。自分の飛空艇を作り上げるのは、世界の全てを見てからでも遅くは無いと。イグナの周囲のものを取り込む能力を目の当たりにして、シエルはその事ばかりを考えていた。


 シエルが世話になっていた工房を伝って、金銭的援助に出た者もいた。――礼を言いたいから会わせて欲しいと、彼女がその工房長に申し出たのだが、その気まぐれな大富豪は旅の途中らしく、『ドンと金を出して、そのまま別の旅へと出てしまった』のだと言う。


「おばさんには、ちゃんとお別れも済ませてきたし……。もう、鉄銹都市(ナヴァラン)でやり残したことはないよ」


 幸いと言うべきか、おかげで資金は潤沢にあって。機関(エンジン)を一から作り上げることも夢じゃなくなったシエルだったが、それでも彼女が選んだのはイグナだった。


「ずっと……二人で空を飛ぶことを夢見ていた」

「あの時のキミの願いを――こんな形でボクが叶えることになるなんて」


 イグナの身体へかかる負担を考えながら、回復の度合いを見ながら作業を進めて。そう何度も試すわけにはいかない上に、試行錯誤の毎日で。


 ――ようやく今、シエルをその背に乗せて、イグナは羽ばたき空へと飛びあがる。


『イグナが私を乗せて飛んでくれれば、話は早いのよっ』

『……嫌だよ、面倒くさいもの』


 そんなやり取りも、遠い過去のこと。ここにいるヒトと竜の想いは確かに一つとなり、真っ直ぐに空を駆けて。


 空を覆う、分厚い灰色の雲を抜け――シエルの眼前に広がるのは深く、蒼い空の色。街の上空に漂う雲よりもなお高いところにある、彼女が見たかったナヴァランの空。


「うわぁ――!」


 シエルが飛空艇で地上付近を飛んでいた時よりも、ずっと空気が薄く。身体中に吹き付ける風も温く柔らかいものではなく、ずっと鋭く冷たいものだった。


 それでも、シエルの興奮は冷めることなく、かえって昂っていて。


 何度も夢見て見上げた空に、ようやく辿り着いたと。今ならば、この世界中どこへだって行くことができると。ゴーグルに太陽の光を反射させながら、叫ぶようにイグナへ呼びかける。


「まずは何処から行こうか! イグナ!」

「どこからでもいいさ! 好きなところからでいい、時間はたっぷりある!」


 誰の邪魔も入ることのない、二人だけの自由な場所で。

 笑いながら、二人は大声で会話を楽しむ。


「キミから貰ったこの翼で――」

「君と私の夢を乗せて――」


 ――キミと、この空を旅しよう。


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