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Ⅱ
月と竜との間に契約が交わされたことによって
平和がもたされたと世界中の人々は喜んだ。
しかし、その喜びも永遠には続かなかった。
月はある時から、この世界に顔を出さなくなってしまう。
黒の竜が、月の蜜を誰にも奪われないよう隠してしまったと考える者もいる。
はたまた、月が耐え切れなくなり、人間を見捨てて逃げたとも。
――今、この世界では。
月が出なくなったため、太陽が一日中、空に浮かんでいる。
当然、地上に夜は訪れなくなった。
常に照りつける日光の熱さのため、
動物たちが生きてゆくには、厳しすぎる世界になってしまった。
更に人々にとって悪いことは続く。
月が表れなくなった今、黒の竜が再び人を襲い始めたのだ。
そして暮れることも、明けることのない世界で――
黒の竜と人は、今も争いあっていた。
~『黒の竜と月の蜜』~




