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召喚勇者が奴隷少女を助けると、関係ない村が滅びる件について

作者: 楠木かるき

風が吹けば桶屋が儲かる的なお話です。

 この世界では魔王が世界を荒らし、それを鎮めようと女神が人間に勇者を遣わした世界のお話――。



 そんな世界の、とある国のとある村。

 勇者が王様から魔王討伐を命じられ、世界救世の旅に出てから暫く経った頃。


 そのとある村は、季節外れの長雨のせいで、主要穀物の麦が駄目になってしまいました。


 領主の所から徴税官がやってくるまで、もう間もなく。

 税として納めるべき麦を用意できなければ罰を受けてしまう。

 そうでなくとも、冬越えが出来るかどうかすら分からないほどでした。


 このまま何もしなければ、村は滅んでしまう。

 その村の村長は悩みに悩み、良い解決策を思いつけず、結局、自分の娘を奴隷として売る事にしました。


「すまない、エレノア……。儂がふがいないばかりに……っ」


「いいの。気にしないで、お父さん。村の皆の為だもの。覚悟は出来てるわ」


 村長と娘のエレノアと呼ばれた娘は、自分を買い取ってくれる予定の行商人が村へやってくるまでの時間、最後の別れを惜しんでいました。


「お母さん、いままでありがとうございました!」


「おっかぁ、身体に気を付けてな?オラに気にせず、長生きしてくれよ?」


「ねーねー、僕達どこかに行くの?お父さん達も一緒?」


 エレノアの他にも、数名の村の子供達が奴隷として売られる為に、村の広場に集まっています。


 その中には、自分がこの後どうなるのかすら分からないような子供もいましたが、このまま村に残っても食べる物がなく、冬を越えずに死んでしまうかもしれません。

 中には苦渋の思いで、子供を奴隷に出す親もいるようです。


「ごめんなぁ……ごめんなぁ……っ」


「う、ううううぅう……っ」


「マルク……っ!ああ、マルクぅ!!」


 皆、村人全員が生き残る為に必死なのです。

 奴隷と言っても、運が良ければ良い主人に当たり、生き延びる可能性もあるのですから。


 そうこうしているうちに、彼らの耳に馬車の音が聞こえてきました。

 おそらく二度と会う事が出来ない、今生の別れを惜しみながら村人達は行商人を待ちました。


「やあ、村長さん。今回はえらい歓迎ぶりじゃないか!今日は祭かなにかかい?」


「これはこれはロランスさん、ようこそおいで下さりました」


 行商人が、いつも商品をひろげる広場で、自分が来る前に集まっている村人達を見て首を傾げます。


「いえ……。実は――――」


 陽気な行商人に、村の代表として村長は長雨で税が納められ無い事。

 それを賄う為に、子供達を奴隷として買い取って欲しい事を伝えました。


 行商人としても、村の状況から通常よりも安い値段で奴隷が買えるので悪い話ではないはずと、村長は思っていました。が、


「悪いが、奴隷を買う事は出来ないんだ……。すまないが……」


「そ、そんな!?どうしてなんですか!!」


 どういうわけだか行商人は奴隷を買う事を拒否してしまいました。

 それに慌てた村長は、行商人に詰め寄り事情を聞きます。


「実は……とある貴族様の奴隷を勇者様が一方的に奪って……その上、その貴族様を殺してしまったのさ」


「貴族様を!?勇者様が!?」


「ああ、理由は分からないが、その後も奴隷を持っていた貴族や領主たちを襲って奴隷を奪い続けているらしい。だから最近じゃ奴隷を持っていると勇者様に殺されてしまうんじゃないかって、誰も買ってくれなくなっちまってるのさ」


「そ、そんな……」


 村長は膝から崩れ落ちました。

 苦渋の思いで娘や、村人達の子供を奴隷として売る事を選んでまで村を救おうとしたのに、世界を救う勇者に邪魔されるとは思いもよりませんでした。


「じゃあ……じゃあ、私達はどうすればいいのですか!!このまま飢えて死ねというんですか!?」


「知らないよ。気の毒だとは思うが、俺も自分の事で精一杯なんだ。悪いとは思うが……」


「うぅ……くううううううう!!」


 行商人は、村長や村人達の悲観に暮れる顔を見ていられなかったのか、最低限の取引と、心持ち多めに商品を渡し、村を出ていってしまいました。


 村長は、この後やってきた徴税官に不作の事や、奴隷を買い取って貰えなかった事を話し、どうにか税を軽くして貰えないか頼みこみました。しかし、


「事情は分かった。……だが恐らく、それは無理だろう」


 聞けば、勇者が殺してしまった貴族や領主達の治めていた場所の治安維持などの為に、通常時よりも余計に税金が必要になってしまったそうです。


 徴税官も、付近の村々から同じような嘆願を受け、既に何度も国に嘆願してはいたのですが、色よい返事は貰えませんでした。


 徴税官が村を去り、後にはただ絶望に暮れる村人達。


 それでも何とかしようと、普段危険ゆえに奥まで行かない森へ狩りに行ったり。

 村長の娘は身売りしてでも、お金を用意しようと街まで赴き、娼館へ向かったり。

 老人達は、せめて自分達がいなくなれば必要な食料が少なくなるだろうと、自ら山へと向かったり。



 けれど、そのどれもが勇者のせいで失敗してしまいました。



 森は、勇者が無秩序に魔物を乱獲した為に生態系が崩れて、普段見られないような恐ろしい魔物と出会ってしまって男達は帰らぬ人に。


 覚悟を決めて向かった娼館では、勇者が女性をお金で売り買いするなんてと、娼館狩りをしてしまっていた為に、存在そのものが街から消え。

 結局、風俗関係の仕事すらありつけず、泣きながら村へと戻る事になったり。


 若者達の為に犠牲になる事に決めた老人達は、勇者のせいで仕事が無くなった者達が大量に盗賊になっており、山まで辿り着かずにこの世を去ったり。


「女神様……、勇者とは……勇者とは何なのですか!?」


 そんな怨嗟の声が、様々な村で聞こえてきましたが――次の年には、その声すら無くなってしまったのでした。


 これは善行だと信じて、自分の価値観を押し付けてしまった勇者の、語られる事のなかった裏側の物語――――。

最初に勇者に殺された貴族:一〇歳の少女奴隷を鞭で叩いていた所、怒った勇者に殺される。その後、屋敷諸共念入りに、攻撃魔法で破壊されてしまう。


少女奴隷:主人の食料庫から、勝手に芋を盗み食いしたのがバレてオシオキされていた所、主人を殺され勇者の奴隷となる。

目の前で平然と人を殺し、笑顔で『大丈夫だったか?』と聞いて来る勇者に恐怖して、何もしていないのに叩かれていたと咄嗟に嘘を吐いてしまう。

助けた責任を取ると言って勇者の奴隷にさせられるも、着せ替え人形にさせられる日々を過ごす。

最近、勇者から主人からも向けられた事の無い性的な目を向けられるようになり、怯えながら無理矢理笑顔で勇者と共にいる。


勇者:典型的な俺TUEEEな日本人勇者。女神からチートを授かり、チーレムを築く為に女性限定で人助けをしまくる。

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― 新着の感想 ―
[一言] こういう厚かましい価値観の押し付けダブスタクズ野郎を皮肉てるのいいですね。
[良い点] あまり見ない視点からの話、非常に興味深い印象です。 こういう作品好きです [一言] 以前コメント頂きありがとうございました。最近のご時世で時間ができましたので読んだり書いたりしてます。 他…
[良い点] 面白かったです。こういう視点の話も良いですね。 [一言] 豪に入れば郷に従え。ことわざとは言い得て妙だなーと、読みながら思いました。
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