扉の向こう①
いつから、そんな音になったんだろう。
ガチャンと大きい音をたてて閉まると、玄関は真っ暗になった。
パチンと見なくてもわかる玄関の照明をつける。
それでも、他に明かりのついていない家の中はいつまでたっても恐くて。
ドアの鍵を中から閉めると足速に靴を脱いで上がり、廊下、リビングへと明かりをつけていく。
リビングに脱ぎ散らかされたお母さんのたくさんの服を見て、ようやく息をついた。
テレビをつけると、ニュースをやっている。
画面の時計は夜6時を過ぎていた。
『怒られない?』
お兄ちゃんの顔を思い出す。
心配そうな顔。
リビングの様子に目をやって、笑ってしまう。
『怒られない?』
……泣きそうになった。
テレビでは、まだバラエティー番組をやっている。
あやちゃんも大好きなお笑い芸人が出ているけど、私は全然笑えない。
半分残った食べ飽きたカップラーメンは、テーブルの上でもう伸びきっている。
スープもすっかり冷めきっていて、もう口をつける気はなかった。
次回予告が流れて、見上げればもう9時。
ーもう、寝る時間だね。
カップラーメンを片付けて手を洗ったら、お母さんは怒るけどリビングの明かりもテレビもつけたまま、私は自分の部屋に向かう。
部屋の扉を閉めると、微かに聞こえるテレビの音。
お母さんはまだ夜のお仕事から帰って来ない。
お父さんはずっと前からお仕事で北海道に行っている。
お兄ちゃんの年くらいだと、一人暮らしをする人がいるみたいだけど、その人は私みたいに何だか怖い気はしないんだろうか。
私は目を閉じる。
テレビの音を聞きながら。
そうして
幸せな夢がみられるように、お兄ちゃんの笑顔を思い出す。
たちまち心があったかくなって、私は眠った。