それはよくある話
短いです。
はなちゃん。
よくある話ってのはね。
お医者さんでお金もちの家で。
父も母も良い人で、良い友人に恵まれていて。
だけど。
こんなに恵まれているっていうのに
なんだかもの足りないっていう話なんだよ。
ボクだって、他人の事だったら笑ってしまうかもしれない。
ドラマや物語の設定で有りがちな話だからね。
でも、だめなんだ。
どうしても、考えてしまうんだよ。
何かが足りないって。
気づいたら、
色んな事に興味を失っていた。
学校も、友人も。
父や母さえも。
ああ、はなちゃん。
そんな顔をしないで。
父や母が嫌いじゃないんだ。
学校だって、友人だって、今の生活が嫌いなわけじゃない。
大切だよ。なくしたくない。
ただ、そうだね。
【執着】ではないんだよ。
なくなったら悲しいけど、そういうモノだってどこかで思ってるんだよ。
じゃあ、何を欲しがっているんだろう、ボクは。
……勉強は出来るけど、ボクは馬鹿なんだね、きっと。
はなちゃんくらいの時からからずっともやもやしていたんだ。
でもどうしたらいいかわからないまま、だからと言って解決しようともしないで、気づいた時にはもう【良い子】になってたよ。
じゃあ、【良い子】はやめようかとなるとね?
いつだって両親の目はボクを愛しんで見ている事にも気づいてたから、それこそ今更やめられなかったんだよ。
ー【優しい】と言ってくれるの?はなちゃん。
でもね、両親を悲しませたくなかったのも本当だけど、それは怖いからなんだ。
何が欲しいのか、どうしてしまいたいのか、わからないままに壊してしまったらと思うとね、……とっても怖いんだよ。
だから、ボクは【良い子】のままなんだ。
はなちゃんには、それがお人形さんに見えたんだね…………。